65 ハーフエルフっ娘と新たな戦い12 ~ 斯くして、お兄ちゃんために国滅ぶ……
ホーズア王国、いや、フォーリィがラトゥーミア王国を攻め滅ぼしたと言うニュースは近隣諸国に衝撃を与えた。
戦争中だったラトゥーミア王国は商人の往来が厳しく制限されていたが、他の近隣諸国では交易が盛んに行われているため、ホーズア王国の王都で売られているテレビは他国にも流れていた。
そして昨年末の戦いにおいて、フォーリィがテレビニュースで戦況を実況したため、近隣諸国の王室や上級貴族達が積極的にテレビを買い求めたのだった。
敵国が軍事情報を流しているのだ。それを積極的に取り入れようと考えないのは単なる無能である。
【コエリーオ王国】
「これ、どう思う?偽の情報か?」
「たぶん、事実だと思います。今テレビに映っているのは、間諜から伝えられているラトゥーミア王の特徴と一致しています」
国王の問いに、人名帳の一人が答えた。
「ふむ。となると、ラトゥーミア王国は東の死神の手に落ちたと見て間違いないか……」
コエリーオ国王は少し考え込んた後、振り返って後ろに控えていた男に話しかける。
「将軍。あの空飛ぶ乗り物は我が国にとって脅威となりうるか?」
その問いに、将軍は不敵の笑みを浮かべる。
「ご安心を。あんな遅い乗り物、我が騎竜隊の敵ではありません」
将軍は騎竜隊と呼んでいるが、彼らが乗っているのは竜ではなく亜竜、つまりワイバーンだ。
だがワイバーンは、すばしっこくて小回りが利く。空を縦横無尽に飛び回る騎竜隊は敵に回すととても厄介な存在だ。
更に、この国ではワイバーンの他にも山の虎やサラマンダーなども飼いならしているので、ひとたび戦争になれば、モンスターや獣たちとの闘いを覚悟しなければならない。
「うむ、それを聞いて安心した。だが、油断は禁物だ。今後は警戒をより厳重にするように」
「はっ。承知しました」
【サリデュート聖教国】
「勇者殿。あなたのいた世界には、このような乗り物はありますか?」
勇者と呼ばれた男は興味深そうにテレビを観ていた。
その画面には、竹飛竜からの実況中継が送られて来ていた。
『カデン領の皆さん、私が今どこにいるか分かりますか?なんと、今私は空を飛んでいるんです。ご覧ください、今隣で飛んでいる乗り物。私はあれと同じ乗り物で飛んでいるんです』
テレビからは、女性レポーターの興奮した声が流れている。
そのようすを、先ほどから興味深そうに観ていたサングラスの男が振り返った先には、真っ白な布に金糸で刺繍が施された衣装を身にまとった、この国最大の権力者、パウペト大司教が佇んでいた。
「俺がいた世界のヘリコプターに似ているがテイルローターが無いな」
「ている……何ですか?」
何度も勇者召喚を行っている彼らは、召喚された者が話す言葉にいちいち驚いたりしない。魔法により意思疎通は取れても、この世界にない言葉は勇者がいた世界の言葉のままに伝わってくるので、意味不明な単語が混ざるのは日常茶飯事なのだ。
「あの乗り物の頭上で羽が回っているだろ?あのままだと下の箱が羽とは逆向きに回ってしまうから、尻尾の部分に小さな羽を回転させてそれを抑えるんだが……あれはどんな仕組みで動いているんだ?」
勇者と呼ばれた青年は、再び興味深そうにテレビを観だした。
フォーリィが作った竹飛竜にはテイルローターはない。
最初の失敗の後に作成された二号機ではテイルローターは取り付けられていた。
だが、ラトゥーミア王国との戦闘の可能性が皆無ではない状態で、急遽パイロットの育成をする必要があると判断した彼女は、竹飛竜に不慣れな者たちの危険を少しでも減らそうと、テイル部分にはローターでなく魔改造した風の魔石を埋め込んで本体の回転を抑えることにしていた。
『みなさん、誰もが子供のころ遊んだ事があるでしょ?そうです、竹とんぼです』
画面からは、ますますヒートアップしたレポーターが熱心に竹飛竜について説明していた。
『カデン男爵様は子供たちが竹とんぼで遊んでいるのに興味を示されると、その竹とんぼを騙し取……げふんげふん……絵本と交換しました。そしてご自分でそのオモチャを改良して、人が乗れるサイズの大人のオモチャを作成されました。いやぁ、童心を持ち続けて大人になると、こんなとんでもないオモチャを創ってしまうんですね』
「へぇー、こっちでも竹とんぼは有るのか」
関心する勇者。だが、その後ろで佇んでいる大司教はテレビ画面を睨みながら、誰にも聞こえないような小さな声でつぶやいた。
「となると……他の世界と同等の物を、独自に創作したと言う事ですか。これは、私にとって脅威と言わざるを得ませんね」
その目が怪しく光る。
【ホーズア王国】
その頃、ホーズア王国では……
『国王様!何ですか、あの乗り物は?あんなもの聞いてません!』
「予も初耳だ。あれはカデン男爵が極秘で開発していた物だ!」
『国王様!是非ともカデン男爵に、あの乗り物を私に貸し与えるように指示して下さい。あれが有れば一日でコエリーオ王国を攻め滅ぼして御覧に入れましょう』
「ま、待て。そう急くでない」
『国王様!機は熟しました。今こそヴェジェルータ帝国を……』
「は、早まるな。ま、まだラトゥーミア王達を捕えただけで、ラトゥーミア王国の各領主を抑え込んだ訳じゃない。だ……だから……」
テレビニュースを観た侯爵や伯爵達からのテレビ電話が殺到し、国王がその対応に追われていた。
◆ ◆
「おやぁ、カデン男爵様はお兄様にベッタリですねぇ」
中庭に着陸した竹飛竜にラトゥールと共に乗り込んだフォーリィに、女性レポーターがニマニマ笑いながらマイクを向ける。
「うん♪兄妹だから、当たり前よ」
そう言って、兄を強く抱きしめると、その胸に頭をグリグリと押し付ける。
「いやいや、兄妹と言うよりは恋人同士って感じです。まさか、カデン男爵さまはお兄様に恋とかしちゃってます?」
他人の恋愛話は三度の食事より大好き、と言う目をしてレポーターが質問する。
「兄妹愛よ。ねえ、お兄ちゃん♪」
フォーリィは腰を少し浮かすと、ラトゥールの頬、唇のすぐ横にキスをした。
同行していたカメラマンは、急いでレンズをズームにすると、その瞬間をアップで写した。
「おおおおぉぉぉぉぉ。まさに兄妹愛ギリギリ」
レポーター、大興奮だった。
「ちょっ、ちょっと、フォーリィ?」
そしてラトゥールは、珍しく少し顔を赤くして照れまくっていた。
『お兄ちゃん。照れちゃってカワイイ♪』
『お、おい、フォーリィ。止めてくれ』
「あの女狐ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「お義姉さん!落ち着いてぇぇぇ!」
カデン領の執務室のテレビで状況を追っていたラトゥールの嫁、マヴァンダが椅子を持ち上げ、今まさにテレビに叩きつけようとしていたところをヴェージェ達に止められた。
執務室ではマヴァンダの他に、フォーリィの家族、ラントゥーナ補佐官、イペブラクオン達、そして書記のマレーラが集まって、ラトゥールの救出状況を固唾をのんで見守っていた。
「あれは絶対に兄妹愛じゃありませんわよね?何なんですか、あのブラコンぶりは!」
「ま、まあ、フォーリィはパパに対してもあんな感じだし……」
ヴェージェのこめかみに汗が流れる。
「まさか、貴女もあのようにラトゥールにベタベタしていましたの?」
「わ……私は……あれほどじゃあ……無いかな?」
額に玉のような汗を浮かべて視線を逸らすヴェージェ。
「きぃぃぃぃ!ちょっと!お義父様たちは娘にどのような教育をしましたの?」
「「はは……ははは……」」
マヴァンダの抗議に、フォーリィの両親は、ただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
そして翌日……
「きゃははははは、あーははははははははっ」
顔に無数の引っかき傷を付けて現れたラトゥールを見て、フォーリィが腹を抱えて大爆笑した。




