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61 ハーフエルフっ娘と新たな戦い8 ~ 取り引き

「ぜぇ、ぜぇ」

 とんでもない事を言い出す少女に、フロレーティオは顔を真っ赤にして肩で息をしている。


『あのぉ、何か気に障る事でも言いましたで……』

 キョトンとした顔のフォーリィ。その質問の途中、画面の横から伸びてきた手に腕を掴まれ、画面の外に連れ出される。


『怒るに決まってるでしょ!男爵様!何を考えているんですか?』

『えっ?だって、栄養価の高い食料だよ』

『そこじゃありません!何で痩せられるなんて言ったんですか!?』

『何でって、肥満対策は健康への第一歩だよ』

『ラトゥーミア王国は飢饉による食料不足なんですよ!太るほど食べられる分けないじゃないてすか!むしろ食べる物が無くて痩せ衰えてます!』

『あっ……』

『あっ、じゃありません!どうするんですか?すっかり怒らせてしまったじゃないですか』

『ど、ど、どうしよう』

『知りません。ご自分でどうにかして下さい』


 画面の外で何やら言い争う……いや、フォーリィが説教を食らっている声が、テレビ電話から流れてくる。

 フロレーティオ男爵がラトゥール達に目を向けると、彼らは揃って苦笑いを浮かべていた。

 それを見て、フロレーティオ男爵は結論付ける、カデン男爵は子供なのだと。


 フロレーティオ男爵が敵国に潜伏さている間諜(かんちょう)や『草』によると、新しく男爵になったこの少女は成人したばかりとのこと。

 それなら、こちらが彼女の言動にいちいち腹を立てては大人気が無い。

 フロレーティオ男爵はそう思うと、怒る気持ちが失せた。


『あ、あのぉ。お見苦しい所をお見せしました』

 暫らくして、おずおずと画面に現れたフォーリィは、申し訳なさそうに頭を下げ、上目遣いでフロレーティオ男爵の顔色を伺う。

「ああ、良い。何か手違いがあったのだろ?それよりも痩せる食材だけなのか?その食料支援と言うのは」

 もし、それだけなら、この食料不足の状況を乗り越える足しにもならない。そう思い、他に食料はないのかを訪ねた。


『その点はご心配には及びません。そもそもモヤシは痩せるための食材ではなくて、太る要素はないけれど栄養価が高く病気になりにくくする食材です。それに加えて、今回はお芋もたくさん持たせました』

「芋も持ってきてくれたのか?」

 餓死者を出さないためには小麦があればベストだが、芋だけでも大助かりだった。


『はい。カロリーの高いお芋と、栄養価の高いモヤシ。この二つを摂取することにより、病気になりにくい体、動き続ける事ができる体を手に入れられます』

「そうか、それは助かる……」

 そこでフロレーティオ男爵は、先ほどのフォーリィの言葉を思い出す。


「そう言えば先ほど、今回の三トンの支援は無償と言っていたな。それはどういう意味だ?」

 フロレーティオ男爵の言葉に、フォーリィはニッコリと笑う。

『はい、フロレーティオ領との交易を開始したいと思いまして。こちらが提供するのは、食料と食料生産施設の技術、フロレーティオ領からは魔石の提供をお願いしたいのです』

「魔石?」

 魔石はラトゥーミア王国内でもそれほど消費される物ではない。せいぜい(ふいご)用の風の魔石や着火用の火の魔石、室内照明用の明かりの魔石くらいだ。

 だが一部の魔石、例えば土の魔石などは土嚢(どのう)の強化など軍事用に十分な利用価値がある。

 そんな魔石を敵国に流したなどと国王に知れたら、処刑されるのは目に見えていた。


『こちらが求めるのは光の魔石とハズレの魔石です』

「ハズレの魔石?」

 聞きなれない言葉に、フロレーティオ男爵は首を傾げる。


「この魔石でございます」

 その時、ラトゥールが小さな魔石を懐から取り出して差し出した。


 フロレーティオ男爵が合図をすると、護衛の一人が前に出てその魔石を受け取る。


「こちらへ」

 筆頭魔術師が手を伸ばすと、護衛はその魔石を彼に渡した。


 筆頭魔術師は手渡された魔石に魔力を流し、暫らく目を泳がせる。魔石のビジョンを確認しているのだ。


「これはゴミの魔石ですね」

 魔石を解析した筆頭魔術師はそう言うと、護衛に渡してラトゥールに魔石を返却する。


「ゴミの魔石?」

 フロレーティオ男爵は何故そんな物をフォーリィが求めているのかが分からなかった。

 もし、これが軍事利用可能なものなら、魔石を渡すわけにはいかないし、逆にその技術を手に入れられれば、こちら側にかなり有利になる。


『ああ、そちらではそう呼ぶんですね。この魔石はテレビに使われているんです』

「てれび?それは何だ?」

『テレビとは、映像を伝える娯楽用の魔道具です』

 フォーリィの説明と共に、ラトゥール達はテレビをフロレーティオ男爵の前に出し、スイッチを入れる。

 すると、画面からは劇のようすが映し出される。


「「「おおぉっ!」」」

 初めて見るテレビに、フロレーティオ領の人々は目を見開いた。


『このように、家に居ながら劇などを楽しむことができる魔道具なんです。あ、今ご覧になってるテレビは差し上げます』

「こ、これをくれると言うのか?」

 嬉しさを隠しきれないフロレーティオ男爵。

 このテレビと言うのは、彼が今まで受け取ったどのような贈り物よりも素晴らしかった。

 家にいながら娯楽を楽しむことができるのだ。

 それは彼にとって画期的なものだった。


 ちなみに、臨時ニュース以外では、普段テレビ放送は夜だけだ。

 それは、日中から放送していたら、仕事をさぼってテレビにかじりつく人が現れるのを防止するためと、放送する劇がそれほど多くないからだった。


 だから、今日は特別に劇団員に待機してもらい、会談に合わせて劇の放送を開始したのだ。


『このテレビには、大量の光の魔石と、先ほどのゴミの魔石が必要なのです。ですから、そちらで採掘されたこれらの魔石と引き換えに食料を提供させて頂きます』

「ふむ……」

 フロレーティオ男爵は考えた。

 確かに彼女の提案は魅力的だが、領主は普通、敵対国の国民を滅ぼしてでも自国に有利になるようにするはず。だったら、何か裏があるのではないか。

 いや、相手は子供だし、ひょっとしたら何も考えていないのかも。

 いやいや、さすがにそんな事、側近たちが止めるはず。


 そんな男爵の心の葛藤はフォーリィ達にとっては想定内だった。

 だから、彼女は最終目的を告げた。


『この提案は、両国間での戦争を止めるためでもあるんです』

「戦争を止めるだと?」

 やはり、別の目的があったのかと、男爵は身構える。今度は何を要求されるのかと。


『はい。両国間で互いに相手国への依存度が高まれば、戦争などで相手国が被害を被ると自国も大打撃を受けます。だから互いに戦争を仕掛け辛くなるんです』

「依存……だと?」

『例えば、今回の提案では我が領地からは食料が、フロレーティオ領からは魔石が交易されますよね。だけど両者で戦いが始まれば、こちらは魔石が入りにくくなってテレビの出荷数が激減しますし、そちらは食料不足になります。苦労せずにそれらの物を得られていたのに、わざわざ失うリスクを冒してまで戦争しようと思いますか?』

 彼女の言っていることは理想論だ。

 相手の領地を奪い取れば全てを手に入れられる。

 フロレーティオ男爵は心の中でそう反論したが、そんな事はわざわざ口には出さない。

 だが――


『我が領地を占拠して全てを手に入れようとしても無駄ですよ。このテレビの作成も、冬でも農作物を育てる施設も、その知識を持ったたくさん人々によって支えられています。領地を奪い取っても、それを活用できる技術者がいなければ餓死者が出るのは目に見えています』

「なっ……」

 彼女は全て知ったうえで、この提案を持ち掛けていた。


「わ……私の一存では決められない」

 彼は、領民たちが飢えに苦しんでいる姿に、心を痛めて来ていた。

 だから、今回の申し出は大変ありがたかった。

 それに彼女の言う通り、フロレーティオ領には冬に農作物を育てる技術はなかった。

 そうなると、彼が取れる選択肢は限られてくる。


 でも、戦争状態である国と勝手に交易を開始すれば、下手をすると国王に処刑される。

 そのため、彼は簡単に結論を下す事はできなかった。


『確かにそうですね。ではラトゥーミア王様に使者のお目通りの仲介をお願いできますか?』

「国王に?正気か?勝手にそんな事をすれば、お前だって只ではすまないのだろ?」

 あまりにも突拍子もないお願いに、男爵は驚きの声をあげたが、フォーリィはニッコリと笑い、さらなるサプライズを突き付けた。

『ご安心下さい。ホーズア国王様の許可はすでに貰っていますし、この場にもご出席いただいています』

 彼女がそう言うと、ラトゥール達は新たなテレビ電話を男爵に向け、スイッチを入れた。

『こちらがホーズア国王様です』

 そこに映し出されたのは、事前に連絡して王城で待機してもらっていた国王だった。


『お初にお目に掛かる。予がホーズア国王だ』

 それを見て、男爵は慌てて立ち上がり、テレビ電話の前で片膝を付けて頭を下げた。

「はっ。フロレーティオ男爵でございま……す」

 いきなりの出来事で思わず頭を下げてしまったが、相手は敵国の国王。本来なら頭を下げる必要などなかった。

 だが、ここでいきなり立ち上がって椅子に座りなおすのも気まずく、仕方なくそのままで話を続ける事にした。


『今回の交易開始の件、カデン男爵から話を聞かされた時は驚いたが、詳しい説明を聞いて、それは両国の国益にも叶うと判断して許可を出した』

「そ、そうでしたか。だが、先ほどカデン男爵にも申した通り、この件は当方の一存で決定するには重すぎます。一応、我が国王にお伺いをたてますが、いかんせん両国は戦争状態でありますので、面談のお約束はできかねます」

『理解しておる。だが、一応伺ってみてはもらえぬか?カデン男爵には予からの書状も持たせるので』


 こうして、その日の内にフロレーティオ男爵からラトゥーミア国王に伝令が送られる事となった。

いよいよ次回はラトゥーミア国王との会談です。

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