5 ハーフエルフっ娘、掃除機を売る
「凄いよ、フォーリィちゃん。もう既に初回生産分の二〇〇個を上回る予約が入ってるよ」
ブルドゥとフォーリィは笑いが止まらなかった。
あれからブルドゥは、販売の純利益の半分をフォーリィに渡す約束をして、フォーリィは量産に向けた改良点などをブルドゥに伝えた。
そしてブルドゥがいくつかの工房に声を掛け、掃除機生産の準備を進めながら、自分が荷物を下ろしている店等を中心にサンプルを渡して製品の説明をして回った。
その結果、発売1週間前には、既に初日販売予定数を上回る予約が入っていた。
「ホント?嬉しい!まさか魔道具がこんなに売れるなんて思いませんでした」
そもそも、魔道具は魔力操作が出来るエルフやハーフエルフ、そして翼人しか使えない。
しかも、ある程度以上の魔力操作が出来れば風魔法などを直接操って掃除をした方が効率が良いのだ。
「まあ翼人は魔力操作が苦手だし、エルフやハーフエルフは魔力操作は得意でも、疲れていたりして術式を組み上げるのを面倒臭がる人も多いからね」
「ああ……確かに」
魔法の使い方を忘れてしまったフォーリィは、リハビリ中に姉が持って来た初歩の魔法学の本を見ながら魔法の練習をしていたが、小さな光を生み出すだけでも魔力操作で結構複雑な術式を組み上げなければならず、精神的な疲労は尋常ではなかった。
(そう言えば家の照明も光の魔法石に魔力を送って照らしていたわね。一時間毎に魔力供給しなきゃいけないけど)
「じゃあ、発売日はお手伝いに来ますね。製品の説明もしなきゃいけないし」
「本当かい。すまないねフォーリィちゃん。助かるよ」
「いえいえ。これから永い付き合いになりますから、これくらい当たり前です。ブルドゥさん、これからも色々な物を開発して行きます。期待してて下さい」
人々の役に立っている。フォーリィは充実感で胸がいっぱいだった。
◆ ◆
そして発売日当日。
「皆さん、押さないで下さい」
「誠に申し訳ありません。本日は事前予約頂いた方のみでございます」
「今予約されると、お引渡しは……」
「家具の隙間を掃除する時は、こちらの口に差し替えて……」
ブルドゥが急遽借りた倉庫兼店舗の中は人でごった返していた。
その中でブルドゥとその妻、一〇歳の息子、ブルドゥが雇った三人の男性、そしてフォーリィが慌ただしく客の対応をしている。
掃除機。その画期的な商品に多くの人達が群がった。
そもそもこの世界で魔道具とは軍事用が主で、民間用としてはせいぜい照明器具や着火器具、風を吹き付ける道具、そして水を生み出す道具位しかなかった。
そこにいきなり、家事をとても簡単にする便利な道具が現れたのだ。
しかも、フォーリィのアドバイスで事前に有名な宿屋や食堂などに無料で貸し出していた。その便利さを実感して貰う為、そして店の客達に見て知って貰う為に。
しかし…………
「大変申し訳ありません。魔石で動いていますので、魔力を扱えないとこの製品を使う事は出来ません」
今日、何度目となく繰り返される説明。
(ちょっと、やり過ぎたかな)
顔に出さないように務めつつ、心の中でフォーリィはゲンナリしていた。
食堂等で掃除機を見掛けた人が沢山買いに来てくれたのは嬉しいが、その中には猿人や兎人など魔力を扱えない人達も多く含まれていた。
魔道具であるとは知らずに予約購入に来た人達だ。
(画期的な商品だからね。欲しくなるのは当然か)
そうなると、ますます電動モーターの開発が急がれる。
(たしか磁石を使うんだったよね。でも、電気はどうしよう)
などと考えながらも忙しく動き回った。
◆ ◆
「お疲れ様でした」
やっと閉店時間になり店の扉を閉めた時には、全員が干からびてミイラ状態になっていた。
「店長…………この仕事…………辛いです」
従業員の一人が死にそうな声で訴える。
「ま、まあ…………明日から暫くは一日二〇台の入荷だから」
ブルドゥはそう言うが、お客への商品説明や予約の受付けなどを考えると、それだけで気力を奪われそうだった。
「フォーリィちゃんも有難うね。手伝ってくれた分のお給金は払うから安心して」
「えっ?本当?やった、まさかお給金貰えるとは思いませんでした」
フォーリィの気力が一〇パーセント増加した。
「いくら何でもタダ働きはさせないよ」
自分も疲れているのに周りに気を配り、一人づつ労うブルドゥを見て、リーファはこれからもこの人と新商品を出していこうと心の中で誓っていた。
翌日からはフォーリィの提案で、掃除機の使用には魔力供給が必須である旨を記した板を店先の目立つ所に設置した。
その為もあって来店する客の数も少しは減り、フォーリィ達は多少なりと余裕が生まれた。
「はい、この様に使用中はある程度の騒音が発生しますので、夜間、隣近所が寝静まった時間帯での使用や……」
「ゴミ袋の中に吸い込んだホコリなどが溜まって行きます。徐々に吸引力が落ちますので、吸う力が弱くなったなと思ったら中のゴミを捨てて……」
「どうですか?それほど魔力は消費さていませんよね」
余裕が生まれるとお客への説明も丁寧になる。そしてお客の要望などにも耳を傾けられるようになってくる。
「ブルドゥさん、予備のゴミ袋、こちらで販売した方が良いですね。定期的に洗わなきゃなりませんから、乾くのを待つ間は掃除が出来ないのは不便です」
「そうだね。では袋を増産して貰って、単品での販売もしようか」
ブルドゥは本日何度目かのフォーリィの提案を羊皮紙に書き留めていく。
「あ~あ、魔力の操作が出来ない人でも掃除機が使えるようにしたいなあ」
「そんな事が出来るのかい?」
何気なく呟いたフォーリィの言葉に、ブルドゥは手を止めて顔を上げた。
「あ、いえ。まだ方法も見付かってません。あくまでも夢の話です」
フォーリィは慌てて否定した。
実は彼女の頭の中では色々なアイデアが浮かんでいるのだがそれは前世の知識に基づいたもので、それをどうやって実現したら良いのかが分からなかったのだ。
勿論、そんな事を人に喋る訳にもいかなかった。
「ああ、そうか。そんな物が出来たら、私達のように魔力操作が出来なくても、掃除が楽になるんだけどね」
ブルドゥは少し残念そうだった。




