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58 ハーフエルフっ娘と新たな戦い5 ~ 忍び寄る死神

「全員!散開ぃぃぃ!」

 マルバーリオ将軍の号令に、兵士達は散らばった。


 サイクロプス達は巨大なセミオートのライフルでラトゥーミア王国軍を攻撃していく。引き金を引くと大きな弾丸が空気圧で射出され、次弾が自動で装填される仕組みだ。

 その破壊力は凄まじく、火薬の入っていない模擬弾を戦車から発射するようなものだった。


「我らは左側面から攻撃を仕掛ける!みんな、続けぇぇぇ!」

 重騎士長が叫び、馬を駆ける。そして他の重騎士達もある程度互いに距離を取りつつ彼に付いていく。


 サイクロプスの攻撃が魔法かどうかなどは、今はどうでもいい。考えるのは後でもできる。

 今やらなければならないのは、自分たちが生き残るために、目の前の敵を倒すこと。

 そう考えた彼らは、ただひたすらサイクロプス達目掛けて走った。


「ぎゃっ……」

 重騎士がまた一人、血しぶきを上げながら吹き飛んだ。

 被害が大きい。

 だが、ここで背中を見せるのは愚策だ。

 サイクロプス達に走って追いかけられ、多くの兵が失われる事は目に見えている。

 だから、ここで確実にサイクロプス達を仕留める。


 彼らに同調するように、弓士や魔術師は右側に回り込み、歩兵たちは正面から突撃を開始している。


「よし!少なからず被害が出るが、十分倒せ……がはぁっっ」

 突然、馬が転倒して重騎士長が地面を転がった。


「重騎士長!大丈夫……うわっ」

 他の重騎士達も次々と落馬していく。


「な、何が起こった?」

 重騎士長が見渡すと無事な隊員は一人もなく、彼らの馬は、あるいは走って逃げ、あるいは地面で痙攣していた。


 よく見ると、あちこちに杭が刺さっていて、その間には細い紐が張られていた。


「くそっ!こんな子供じみた罠……がががががが」

 隊員の一人がその紐に触った途端、動きを止めて激しく痙攣を始めた。

「おい!どうした……あああああああ」

 別の隊員が彼の肩に手を掛けた瞬間、同じように動きを止めて痙攣を始めた。


 右側から突撃を掛けていた弓士たちも同じように痙攣しながら動きを止めていた。


 そう。この辺り、道路から少し離れた場所には、フォーリィが電気の魔石に繋がれた電線を張り巡らせていた。

 その電圧は、交流二〇〇ボルト。


「みんな!その罠には触るな!罠に掛かってしまった者にもだ!微弱な魔力を感じる!恐らく何らかの魔術具……」

 次の瞬間、重騎士長がサイクロプスの銃撃を受けて吹き飛んだ。

 動かない敵は格好の的だった。



「あれは麻痺系の魔法攻撃なのか?」

 異常を感じ、マルバーリオ将軍は魔法騎士団長に答えを求める。

「いえ、魔法の残滓は感じられません」

 恐怖に顔を強張らせながら答える魔法騎士団長。

 魔法攻撃ほど大量の魔力を放出しているのならいざ知らず、さすがに少し離れると、魔道具から漏れ出る魔力までは検知できなかった。


 だが、左右から近付こうとしてフォーリィの罠に足止めを食らっグループとは異なり、道路をまっすぐ突進している歩兵たちは、サイクロプス達の攻撃にひるむことなく着実に敵に近付いていた。


 そして、サイクロプス達まで後、五〇メアトルと言う所で――


―― シュゴオオォォォォォォォォォォォォォォォォォ


 ひきなり道路脇の矢倉(やぐら)から炎の柱が伸びてきて、歩兵たちを炎で包み込んだ。


 寸での所で炎の柱から逃れる事ができた兵士達は急ぎ炎に包まれている仲間たちに水の魔法で消火を試みたが、炎は消える事はなかった。


「まさか!例の消えない火だと?みんな!凍結魔法だ!」

 兵士の一人がそう叫ぶと、みんな魔法を切り替え、凍結で消火を始める。

 だが……


―― シュゴオオォォォォォォォォォォォォォォォォォ


 再び炎の柱が伸びてきたと思ったら、今度は炎の柱がそのまま向きを変え、消火を行っていた兵士達もろとも横なぎに彼らに炎の刃を向けた。


 そう、全ての矢倉に設置した、特殊油による火炎放射器を遠隔操作しているのだった。


「な、何で矢倉から攻撃が?中には誰もいなかったはずだ!」

「将軍!早くこの場から離れましょう!」

 矢倉に誰かが忍んでいたかなどは、もうどうでも良かった。魔法騎士団長はマルバーリオ将軍将軍を急かして、元来た道を引き返すべく(きびす)を返した。


 そこで彼らが目にしたのは、全ての矢倉からそれぞれ二本の炎の柱が伸びて、自軍の兵を炎で包み込んでいる光景だった。


      ◆      ◆


『みなさん!たった今、カデン男爵様の軍が敵軍を退けました!』

「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」

 その頃、王都、そしてカデン領のショッピングモール前では、大型テレビの前に群がる民衆が歓喜の声を上げていた。

 世界初の、戦闘の実況生中継が行われていたのだった。

 勿論、残酷なシーンが流れるから、お子様には見せないようにと事前に注意した上で。


『これがリアルな戦闘です。王国の兵士たちは、日夜このような過酷な戦闘の中、果敢に戦い続けているのです。彼らの雄姿を称えましょう』



「違う!こんなもの戦争じゃない!」

 テレビ中継を王城から観ていたホーズア王は、机を力いっぱい叩き、大声を上げた。

「大体、自国の兵士は一兵たりとも参加していなかったではないか!戦ったのはサイクロプス達だけだ!こんなものが戦争などと国民に勘違いされたら、懸命に戦っている兵士たちに迷惑だ!ナルソシ!この戦いが終わったらカデン男爵を呼び出せ!今後このようなニュースを流すのを止めるように厳重に……」

「お父様!」

 王の言葉を遮り、執務室に入ってきたのは第三王女。

 長く光り輝く金髪に、透き通るような蒼い瞳の僅か一二歳少女は、人形のように美しく。王は、この少女を目に入れても痛くないほど溺愛していた。


「おお、アラマーダ。どうしたんだい?」

 王が顔を綻ばせて両手を広げると、アラマーダはその胸に飛び込んだ。


「お父様、テレビのニュースを観ました」

「あ、ああ。それなんだが……」

 王は困った顔をして、娘にどうやって説明をしたらいいかと頭を巡らせていると、

「お父様は戦いに行くたび、あのような過酷な戦闘に身を投じておられたのですね。お父様は私が思っていた以上に勇敢な方でした。私、今まで以上にお父様を尊敬いたします」

「えっ?」

 父を崇拝し、とても嬉しそうにその胸に頭をグリグリとこすりつけている娘に、ホーズア王は頭が真っ白になる。


「ねえ、お父様。聞かせて下さいな。お父様はどのように敵のサイクロプスを倒したのか」

 顔を上げ、ニコニコ笑顔を向けてくる娘に――

「ああ……そうだな、あれは二五年前の三年戦争の時だ。儂は僅か二〇〇名の兵を率いて敵に立ち向かった。そして目の前には三〇頭のサイクロプス。その時……」

 王がにこやかに笑いなが、昔の戦争の話を始めた。

 だが、その戦闘ではサイクロプスは参加していなかった。

 それを知っているナルソシ宰相(さいしょう)の生暖かい眼差しを向けられながらも、王の話は少しずつ誇張していった。


 そしてこの日を境に、ホーズア王国での戦争の常識が大きく変わった・・・


      ◆      ◆


「くそっ!何なんだったんだ?あれは!」

 その日の夜、砦の城壁の上でマルバーリオ将軍は、僅かなかがり火の明かりに照らされたカデン領側を睨みながら腸が(はらわた)煮えたぎる思いに、先ほどから怒鳴り声を上げ続けていた。


 あの後、矢倉からの火炎放射攻撃を(かわし)しながら、命からがら砦に逃げ延びた時には、すでに残りの兵が三千を割っていた。

 これではもう、進軍は不可能だった。

 明るくなるのを待って、撤退を開始するしかなかった。


 幸い、兵の誰かが城門を操作してくれたようで、全員が砦に入ると、ホーズア王国側とラトゥーミア王国側の門の上から入り口をふさぐように鉄板が下りてきて、砦の守りが強化された。

 これで、あのサイクロプス達が奇妙な技で攻撃してきても、耐えられるだろう。


「ん?風が止んだな」

 いつの間にか、肌を刺すような冬の北風が止んでいた。


「なあ、あの攻撃、サイクロプスの攻撃もそうだが、兵達がいきなり痺れたように動かなくなる攻撃や、あの炎の柱はいったいなんだったんだろうな」

 将軍の質問に、魔術師団長は答えを持ち合わせていなかった。

 あまりにも自分たちの常識とはかけ離れ過ぎていた。


 あの矢倉だって、下の石積み部分に兵を数人忍ばせるスペースくらいは作れても、矢倉の上に兵を待機させる空間はなかった。

 それに探知魔法を使っても、矢倉には誰一人いなかったのだ。


「……あのフクロウ」

 魔術師団長がぼそりと呟く。

「フクロウ?」

 彼の言葉に、将軍が首を傾げる。


「ええ、あのフクロウが何らかの呪術的な道具で、それを使って攻撃を仕掛けてきたのではないでしょうか。それなら、魔法攻撃特有の魔法の残滓が検出されなくても納得がいきます」

「あの、内部の魔石や、意味不明の札か?だったらフクロウを破壊すればいいのか?」

「お止め下さい!」

 先走る将軍に、魔術師団長が慌てて待ったを掛ける。


「呪術については、我々は全く知識がありません!下手に手を出して、呪いを受けてしまったら、魔術師では呪いを解く事はできません!」

「……そうだな。すまない」

 魔術師団長の制止に、自分が感情的になっていた事に気付いた将軍は素直に頭を下げた。

「そんな。頭をお上げください」

 全軍を預かる将軍が頭を下げる。初めて目の当たりにした光景に、魔術師団長は慌てた。



「ん?何で下はかがり火を消しているんだ?」

 ふと、城壁の下、砦の中がやけに暗いと感じ、将軍は(いぶか)し気に目を凝らした。

 だが、月の出ていないこの時間、かがり火が消えた砦内のようすを見る事はできなかった。


「おい、誰かようすを見てこい」

「はっ!」

 将軍の命に、兵士の一人が踵を打ち鳴らすと、(きびす)を返して階段の方に向かって行った。


 そして、暫らく待ったが、兵士はいっこうに戻って来なかった。

 底知れぬ恐怖がじわじわと将軍達を襲う。


 敵兵が入り込んでいたのか?

 その考えが脳裏をよぎった。


「全員!警戒態勢!魔術師は周りの探査を!あと、兵士を五名ほど集めて、下のようすを見に行かせろ!」

 将軍の指示に、みんな一斉に動き出した。


 やがて……


「将軍!毒霧が使われているようで、下に降りた兵が次々と倒れていきます」

「何っ!?」

 将軍達は慌てて階段を降りていく。

 すると、途中で兵達が立ち止まっていた。


「何が起きてる?」

 声を掛けられた兵の一人が、慌てて将軍を押し戻そうとする。

「将軍!この先は毒が満ちていて危険です!」

 マルバーリオ将軍がその先に目を向けると、階段の下で倒れている複数の兵がいた。


「毒の検出を!」

 将軍の指示に、魔術師団長が素早く毒物検出の魔法を発動する。


「将軍。もうすでに毒は霧散したようです」

 魔術師団長の言葉に、将軍と兵士たちはほっと胸を撫で下ろした。

 それと同時に、ここまで忍び込んだ敵への怒りが湧いて来た。

 まだ殺したりないのか、と。


「将軍は念のため、ここで待機していて下さい。私達が解毒の魔法を展開して下のようすを見てきます」

 そう言うと、魔術師団達の身体が淡く光る。


 そして、彼らは探知魔法で周囲を警戒しつつ、ゆっくりと降りていき、倒れている兵士たちの元へと到着した。


「将軍、大丈夫です。この辺りには毒も人の気配もありません」

 そう言うと、魔術師団長は少しかがんで倒れている兵士を覗き込み……その場で倒れた。


「団長!」

 慌てた魔術師団員達が、解毒の範囲魔法を発動し、そして魔術師団長を助け起こそうと身を屈めた瞬間、全員がバタバタと倒れて動かなくなった。


「みんな!上に避難するんだ!」

 毒でもない攻撃。

 全員の脳裏をよぎったのは、昨年末の戦闘時に起きた、将校怪死事件だった。


 もう、疑う余地はなかった。

 あの『東の死神』は、魔法以外の何らかの攻撃手段を持っている。


 だが、その方法が全く分からない彼らは、いつ訪れるか分からない『死』に怯えながら夜を過ごすこととなった。

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