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56 ハーフエルフっ娘と新たな戦い3 ~ 呪い

「何か分かったか?」

 ラトゥーミア軍が砦を占拠してすぐ、マルバーリオ将軍はオオカミなどが入って来ないように破壊した門の修理を指示した。

 それと同時に、砦を取り巻く微弱な魔法の残滓について魔術師達に調査するように命じていた。


「はい。石壁の中に埋め込まれている風の魔石から漏れ出た魔力でした」

 魔法が行使された場合と違い、魔石から発せられる魔力は微弱すぎるため、普段は感知できない。

 しかし、敵の攻撃に警戒している時は、僅かな物音にも敏感に反応するのと同じく、魔法感受性が高い魔術師なら、魔道具から漏れる魔力も感知できる。


「魔石から?誰かがこの砦に潜んでいて、その魔石に魔力を送っているのか?」

 そう言いながら、将軍は周囲に意識を集中させた。

 それを見て、魔術師団長が慌てて否定する。

「ご、ご心配なく。魔力はエンチャントの魔石を使い、どこか別の場所から送られて来ていました」


「エンチャントの魔石だと!?」

 将軍の叫びに、近くで作業をしていた兵士達はギョッとして一斉に振り向いた。

「何でもない。お前たちはそのまま作業を続けろ」

 それに気付いた将軍は、慌てて彼らを作業に戻らせる。

 

 しかし、マルバーリオ将軍が驚くのも無理はない。

 ホーズア王国ではフォーリィの掃除機以降、相次いで魔道具が発売され続けていた。

 そしてとうとう、テレビと言う魔力供給の必要がない魔道具まで発売された。


 だが前回の砦の戦い以降、両国を行き来する商人は数えるほどしか無いので、将軍たちの常識では未だ魔道具と言えば着火や(ふいご)など、使用者が魔力を供給して起動するものだった。

 もちろん、掃除機や洗濯機などの情報は間諜(かんちょう)から届けられている。

 だが、カデン領の領都とラトゥーミア王国、フロレーティオ領の領都は馬車で片道二〇日の道のりだ。テレビなど、カデン領の軍事および政治情勢を差し置いてまで最優先で伝える情報ではないので、彼らの耳にはまだ入って来てはいなかった。


「どうやら、遠く離れた所にいる魔術師が交代で魔力を供給して、砦内に新鮮な風を送り続けているようです。砦が我々の手に落ちたことも知らずに」


 彼らは魔力ダムの存在を知らない。

 ダムは街から離れた場所で建設工事を行っている。ラトゥーミア王国側も大量の間諜(かんちょう)を送り込んでいる訳ではないので、スパイたちの諜報活動は王都や領都に限定されていた。

 そして幸か不幸か、現在ホーズア王国の王都では魔力会社は倒産していて、魔力供給をする水車は一基も存在していないため、彼らは魔術師を介さずに魔力が供給されるシステムについての情報は持ち合わせていなかった。



 翌朝、ただひたすら後続部隊が到着するのを待ち続けるのは時間の無駄なので、マルバーリオ将軍を筆頭に、一個大隊で砦付近のカデン領側を調査することにした。

 あわよくば、食料になる獣でも見つけようと言う意図もあった。


「この二本の金属の棒は何だ?」

 将軍達は、砦から遥か地平線の彼方まで伸びている二本の鉄の棒を見て首を傾げた。


 それは、フォーリィが作った大量の借金の一部を使い、多くの人員を投入して短期間で仕上げた線路だ。

 そして一昨日の晩、フォーリィは事前の予行練習通り、砦内の全ての人間、物資、そして食料を列車を使って領都まで運び出させたのだった。



 だが、そんな事は知らない将軍たちが、いくら頭を捻っても、答えにたどり着く訳ではない。

 彼らは考えるのをやめ、敵の伏兵や罠に気を付けながら道なりに進む事にした。

 馬はまだ到着していないので、全員徒歩で。


 そして進み始めてすぐ、将軍は周りのようすを見て呟いた。

「この付近の草木は枯れ果てているな」

 それに答えたのは、新しいく側近になった翠掛かった銀髪ハーフエルフだった。

「彼らは水車と言うものを発明して、今年の水不足をしのいだそうですが、さすがに水が供給されたのは穀倉地帯だけのようです」

 それを聞いて、将軍の眉がピクリと動いた。


 そんな事は分かり切っていたし、別に彼は答えを求めていた訳ではなかった。彼はただ、食料になりそうな植物も、それを求めてやってくる獣も望めそうもないと悟り、独り言ちただけだった。

 長年連れ添ってきた彼の側近は、前回の砦戦で命を落とす事になり、その後釜として新たに側近になったこの男と阿吽(あうん)の呼吸を求めるのは無理なのはわかっている。だが、それでもこの新しい側近は無能過ぎた。



「ん?」

 道から五メアトルほど離れた所に建てられている、直径二メアトル、高さ三メアトルほどの石積みの矢倉(やぐら)のようなものの前を通り過ぎようとした時、将軍はふと足を止めて見上げた。

 その矢倉のようなものの天辺には、例の大きなフクロウが止まっていた。


「誰か、あれを仕留めよ」

 フクロウは微動だにしていなかったうえ、彼らは周りを警戒しながら進んでいたため、危うく貴重な食料を見逃すところだった。

 将軍の指示で兵士の一人が弓を構え、呼吸を整えてから矢を放った。


 そして矢が無事にフクロウを射貫くと、ぽとりと矢倉のようなものから落ちてきた。


「みんな、離れろ!」

 将軍の言葉に反応し、全員が一斉に一〇メアトルほど距離を取った。

 落下したフクロウの回りに黒い(もや)のようなものが現れたからだ。


「毒霧か?」

 将軍の問いに、魔術師団長は毒物探知の魔法を使い、辺りを調べる。

「いえ、毒物の反応は一切ありません」

「そうか……」

 それを聞いて、将軍は安心してフクロウに近付いた。

 魔術師団長の毒物探知魔法の精度と範囲はラトゥーミア王国最高で、将軍はそんな彼の能力に絶対の信頼を置いていた。


 将軍はフクロウの前まで来ると黒い靄を暫らく眺めていたが、やがてナイフを取り出してフクロウのお腹を割った。


「これは、作り物か……」

 中から出てきたのは、お札のようなものが貼られた小さな革の袋。

 彼らが見たことがない素材、(パペル)で出来たそのお札は、表面にびっしりと細かい文字のような赤い記号が描かれいた。


「これは……呪術の類か?」

 将軍はフクロウをかたどったこの奇妙なものを解体した事を激しく後悔した。

 そして、自分の手に何らかの呪詛がまとわりついているような錯覚に陥っていた。


 実はあの靄のようなものは、生きたグリーンスライムとブルースライムをそれぞれ、モイト・ヤニなどと混ぜ合わせた後、その二つの液体を混ぜると発生するもので、毒性は一切なかった。

 これも、フォーリィがタイヤを作るさいに偶然発見したものだった。


 今回フォーリィは、二つの小さな革袋を用意してそれらの液体を入れる事により、フクロウを射貫くなどして革袋が破れたら靄が発生するようにしていたのだった。


「将軍、何か微弱な魔力反応があります」

 魔術師団長がフクロウから発せられている魔力に気付き、近くにあった木の棒を使って革袋を外に出した。

 すると、革袋の裏側にエンチャントの魔石と、そこから伸びる魔力線がコイル状に巻かれているのが見えた。


「これは、何らかの魔道具なのか?」

「……いえ……エンチャントの魔石以外の魔石はありませんので、これでは何の効果もありません……ありませんが……何なんでしょう。とても気味が悪いです」

 砦内といい、このフクロウといい、ホーズア王国に入った途端、常に微弱な魔力が漂っている。

 そんな状態に、魔力に対する感受性が高い魔術師達は、ずっと背筋に冷たい物を感じ続けていた。


「そもそも、この矢倉のような物は何なのだ?」

 その建物は三〇メアトルほどの等間隔で遥か彼方まで並んでいた。


「おい、誰か矢倉の上を見てきてくれ」

「はっ!」

 将軍の命に、兵士の一人が元気よく返事をして、矢倉の外側に手を掛けて登り始めた。血の気の引いた顔をして。


 そして上まで昇ると、左右一つずつある窓のようなところから中を覗き込んだ。


「将軍。金属の棒のようなものがあるだけです」

「そうか……」

 もっとも、この大きさの建物では中に兵が待機するような物ではなかった。

 そして、伏兵を忍ばせたとしても、せいぜい四人が限界で、大した脅威になるようなものでもなかった。


 それよりも、呪術的なものだった場合の方が恐ろしかった。


 そう、あの時砦にいた『東の死神』。

 彼女によるものと思われる将校たちの怪死。

 そして、魔術師たちが、そして自分の側近や自分の腕が呪術のようなもので吹き飛んだのだ。

 今度は、どんな呪詛の類があるか分からない。


「戻るぞ」

 マルバーリオ将軍はこれ以上進むのは危険と判断し、引き返す事を決意した。

 そして、将軍の判断に、その場にいた全員が賛同した。

 彼らも、この気味悪いところからさっさと去りたかったのだ。


「砦に帰ったら全軍に知らせろ。フクロウの置物は呪術具のようなので手を出すなと」


 底知れぬ恐怖に内心震えながも、顔に出さないように努め、将軍は砦へと戻って行った。

 そして、後続部隊が到着するまで大人しく砦で待機しようと心に決めていた。

フクロウの中の札は恐怖をあおるための演出でした。

そして、札に描かれているものは、フォーリィが適当に書いた異国の文字っぽいものです。

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