54 ハーフエルフっ娘と新たな戦い1
「一億クセルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
フォーリィに告げられたカデン領の追加の借金額に、思わずよろめいたラントゥーナを、ラトゥールが慌てて支える。
「むぅぅ」
そしてフォーリィは、自分以外の女性に優しくする兄に頬を膨らませる。
「これより良い案がある?」
フォーリィが周りを見回す。
執務室に集められたフォーリィの家族、ラントゥーナ、そしてイペブラクオンは苦渋の色を浮かべ、ゆっくりと首を横に振った。
「決まりね。じゃあ、イペブラクオンさんは労働者をできるだけたくさん手配して。パパは農村地帯への対応を、ママは領都内の対応をお願い。お姉ちゃんは私に付いてきて」
彼女は急いで指示を出すと、足早に執務室を出ていった。
「一億……追加の借金が一億……」
虚ろな目で呪詛のように繰り返すラントゥーナを残して。
◆ ◆
「さっき説明した通り、今すぐ大量の魔力が必要なの。だから計画を変更するわ」
あの後すぐ、フォーリィが四輪駆動の電動カーに乗って訪れたのはダムの建設現場。
土で作られている簡易ダムの外側には、深く打ち込まれた杭に支えられた高さ一五メアトルの石壁。そして、石を積み上げる作業はまだ続いていて、最終的には一二〇メアトルを目指していた。
その石は、ドワーフ職人達と知恵を出し合った結果、かなりの水圧にも耐えられるようにパズルのように複雑に組まれてていた。
「石壁を積み上げる作業は一旦中止。そして急いで魔力を生み出すためのタービンの取り付けをお願い。作業の詳しい説明は、そこの板に書いてあるから」
「はい、分かりました」
現場監督は突然の予定変更に、嫌な顔一つせずに了承した。
だが、周りの作業者達はあからさまに嫌な顔をしていた。
多分、現場監督も同じ気持ちなのだろう。
「急に予定が変更された理由は今は言えないけど、近日中にカデン領全体に知らせるから。それを聞いたら絶対納得するはずよ。だから、今は大人しく指示に従ってちょうだい」
フォーリィはそう言うと、腰を折って頭を下げた。
「「「「「!!」」」」」
信じられない光景だった。
領主が領民に頭を下げたのだ。
つまり、それだけ魔力供給の増加が急がれている事を意味していた。
「おい、お前ら!!」
現場監督が振り向き、彼らに怒鳴りつけた。
「我らが領主様をこんな悲しそうな顔にさせて、それでもお前ら男か!!言え!俺達は何のためにここに集まっている?領主様の笑顔を守るためだろ!?」
そうだった。
最初は農作業ができない冬の間のお金稼ぎ程度だった。
だが、彼女は頻繁にここを訪れ、少しずつできあがっていくダムに目を輝かせる彼女の笑顔に。
彼らに差し入れを渡してくれる時の優しい笑顔に。
一生懸命作業をする彼らを応援する時の笑顔に。
彼らは癒され、そしてその笑顔を守って行こうと誓い合ったのだった。
「だったら、やる事は一つだろ?そうだろ、皆ぁぁあ~!!」
「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~!!」
彼らの叫びが山々に反射して遠くまで響き渡った。
◆ ◆
「よし皆、急いで降りるんだ」
赤い板の手前で停止したのは二連結の列車。
年が明けて早々に、フォーリィが立ち上げた重工カンパニーに作られていたものだ。
列車から降りた人足達は資材を下ろすと、板の向こう、レールの建設作業場に運び込んだ。
フォーリィの指示により、レールなどの資材や作業者は、線路が敷き終わったところまで列車で運んだ。
こうする事により、素早く、大量の物資などを投入し、作業を短期間で終えられるからだ。
それに、新しく敷かれたレールの上を走行する事により、レールの凹凸などが彼ら自身で体感でき、素早くその場で修復もできる。
それにより、作業者の品質への意識も高まって行った。
彼らの一日のノルマは、軍隊の一日の行軍距離の半分だ。
◆ ◆
そうこうしている内に二の月も終わり、三の月に入ったある日。
フォーリィは王都に建設されたショッピングモールのオープニングセレモニーに参加していた。
あの日、王都で王妃に約束してから僅か二か月でショッピングモールのオープニングにまでこぎつけたのだ。
なぜ、そんなに早く準備できたのか?
それは、すでに建物があったからだ。
そう、王都で彼女が所有している大きな施設。
以前は製氷場と呼ばれていた場所。
未だ王都に水車を建設する事ができない彼女は、製氷所を動かすための十分な魔力を確保できないまま、涙をこらえてショッピングモールに転用したのだ。
そしてカデン領と違い、王都のショッピングモールは、ど派手だった。
内部には黄金の柱……に見えるだけの非常に薄い金箔が貼られた柱。
天井には色とりどりの宝石……に見える石が散りばめられたシャンデリア。
足元は、薄く切った大理石を表に張り付けた石を敷き詰めていた。
彼女が半ばやけくそ気味にブルドゥに相談したところ、嬉々として低予算、短期間で内装を整えてくれたのだ。
しかし、ハリボテなのは建物だけで、各店舗で扱う衣服や品々は貴族向けの、かなりランクの高い物にしてある。
どうせ王妃や王女達が来るのだから、一般人が立ち入る事なんてできないし。
それらの店舗は、カデン領のショッピングモールで店舗を出している店の二号店として出店してもらったり、領都内でセンスのいい服を作っている職人を見つけて店を構える支援をしたりして、どうにかオープニングに間に合わせたものだった。
セレモニーでは、国王や国の重鎮たちが次々と言葉を述べていき、その声はマイクを通してショッピングモールのスピーカーから皆に届けられた。
そしてその様子はテレビ中継され、ショッピングモール入り口の横に設置されている大型テレビにも映し出されていた。
「このような素晴らしい施設が王都にも作られ、とても嬉しく思います」
すぐにでも店舗巡りをしたい王妃が、ウズウズしながら祝典の言葉を述べていく。
その時……
―― チリリリリリリリリリリリリリリリリリリ
けたたましいベルの音が鳴り響いき、辺りが騒然とした。
身辺警護の近衛兵がすぐさま王達を取り囲むように集まる。
「ご安心下さい。私の緊急連絡用魔道具です」
フォーリィはそう言うと、「王妃のお言葉を遮るとは何事か」、などと騒いでいる貴族たちを無視して、ドレスのポケットから取り出した魔道音伝器に魔力を流した。
「どうしたの?」
『男爵様、大変です!東の砦前に、どこからともなく突然ラトゥーミア王国軍が現れました!その数およそ二万!』
魔道音伝器からの声に、貴族たちが騒めきだした。
「ラントゥーナ、テレビ番組を中断してニュース特番に切り替えて!砦からの中継もお願い」
フォーリィの指示を受けてすぐ、ショッピングモール前の大型テレビから特番が流れ始めた。
そして、カデン領からイペブラクオンや軍事担当指揮官などが現在のようすを語ると、画面は砦からの中継に切り替わった。
「「「「「「!!」」」」」」
それを観たショッピングモール前の人達は言葉が出なかった。
そこには、はるか地平線の彼方まで埋め尽くす松明の明かりが続いていた。
「全員、そこから離れるように言って!撤退よ!」
フォーリィが 魔道音伝器に向かって叫ぶ。
「おい、貴様!何を考えている?無抵抗で砦を敵にくれてやるのか?敵がこの国に攻め込むんだぞ!」
上級貴族と思われる男が、青筋を立ててフォーリィの肩を掴んだ。
だが彼女は、その男の腕を掴み、腕の筋に指を食い込ませた。
「痛てて」
男は派手に痛がったが、それは全く予期していない痛みだったからで、彼女は相当手加減していた。
「無謀な精神論を語るのは止めてちょうだい!そんな事するよりは一旦退却させて、道中にトラップを仕掛けたほうがよほど効果が高いわ。私が前に砦で行ったように!」
彼女がそうまくし立てると、彼女を罵倒していた貴族たちが一斉に口をつぐんだ。
フォーリィが砦でどのような戦いをしたか、彼らの耳にも入って来ていたからだ。
こうしてその晩、フォーリィは東の砦を失った。




