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40 ハーフエルフっ娘と領地の工房

「ねえ、これって何か意味があるの?」

 フォーリィが先ほどから署名しているのは借用書だ。

 貸出人はフォーリィ。そして借り受け人はフォーリィ。つまり自分自身への借用書だった。


「当たり前です。公私の区別はきっちりと付けてもらいます」

 ラントゥーナがビシッと言い放つ。


 あれから、お金が不足するたびに追加で彼女の口座からお金を引き出したため、そのつど借金が発生したのだ。フォーリィ男爵から個人としてのフォーリィに。


 更に、新たに雇い入れる使用人の面接やら雇用契約など、領主としての仕事が山積みだった。


「よし、終わったぁ♪」

 やっと解放されたとばかり、フォーリィは両腕を上げて思い切り伸びをする。

「はい、問題ありません。お疲れ様です」

 書類のチェックが終わったラントゥーナが無表情で合格を出す。

 そんな彼女を見てフォーリィは、笑えばモテそうなのに勿体ないなどと、ぼんやり考えていた。


 すると突然、思い出したようにフォーリィは立ち上がった。

「あっ、そうだ。こうしちゃいられない」

 そう言って、彼女は足早に執務室を出ていった。


「全く、せわしないですね」

 ラントゥーナは小さく溜息をつく。

 だが彼女は、フォーリィのこういった行動がこの領地の活性化につながる事がわかっているので、口を挟むつもりはなかった。



「ガネトムートさん。お久しぶり♪」

「おお、嬢ちゃ……失礼しました。男爵様」

 彼は国王から貰った支度金で、領都に工房を構えた。

 当初、彼は退役を希望していたがフォーリィがそれを許可せず、軍に席を置いたまま工房で研究をして貰うことになった。


「もう!男爵様は止めてって言ったでしょ。背中がむず痒くなるから」

「で、でも、そういう訳には……」

「『お嬢ちゃん』!これは命令よ。それと敬語も禁止。いい?」

 ビシッと人差し指を向けて言い放つフォーリィ。

「わ……わかった。しかし、お貴族様なのに変わってるな」

 彼としては、いくら砦で仲良くしていたからと言って、この街の新しい領主となった者に馴れ馴れしい態度をとるのは気が引ける。

 だが、命令だと言われてしまったら仕方がなかった。


「先月まで一般人だったからね。急には変われないわよ。ところで、頼んでいた物はできた?」

 彼女は、ガネトムートが工房を構えたと聞くや、すぐに彼の元を訪れて、砦の防御強化のための装置の開発を依頼していたのだ。


「おう、出来てるぞ。これだ」

 作業台の上に置かれたのは、風の魔石にたくさんの魔道線が取り付けられた物だ。

「ちょっと見せてね」

 フォーリィは早速、魔石に手を置いて魔力を流すと、焦点の合っていない目をキョロキョロと動かし始める。魔石のビジョンを確認しているのだ。


 やがて、フォーリィはゆっくりと魔石から手を放す。

「それで……どうだ?」

 恐る恐る尋ねたガネトムートに、彼女は満面の笑みを向けた。

「いいわ。想像以上よ」

 それを聞いて、ガネトムートはほっと息を吐いた。


 前回訪れた時に、フォーリィは魔石のビジョンを確認しながら、ガネトムートに魔道線をつないでもらった。

 そして、次回までにそれと同じ物を作るようにお願いしていたのだ。

 そして、その出来栄えによっては、今後の魔改造は彼に丸投げするつもりでいた。


 とは言っても、ガネトムートとしては決して簡単ではなかった。

 フォーリィ達ハーフエルフやエルフと違って、魔石の構造をビジョンとして確認できないドワーフは、魔石から感じる魔力の流れなどから、魔力線をどこにつなげば良いか判断しなければならない。

 その魔力の流れの微妙な違いは、ガネトムートのように長年のキャリアがある者が辛うじて分かる程度のものだった。


「はあぁ。まったく、この『魔改造』とやらは命が縮む思いだぜ」

「でも、嫌いじゃないでしょ?こういうの」

 いたずらっぽく笑う彼女に、ガネトムートはニカッと白い歯を見せた。

「ああ、大好きだ」

「さすがガネトムートさん。大好きよ♪」

 フォーリィはそんな彼の頭を抱きしめる。



「じゃあ大変だと思うけど、月末までに合計一〇〇個作ってちょうだい」

 最初にこの話を持ち掛けたとき、フォーリィは砦の防衛のためにこの魔石が一〇〇個必要だと伝えていた。

「でも、くれぐれも屋内などの風通しの悪い所で使わないでね。危険だから」

「あ、ああ。でもこの魔石、そんなにヤバいものなのか?」

 ガネトムートは、魔石のある場所と別の場所を魔道線でつないだだけで、風の魔石の性質が激変すると言われても実感が湧かなかった。

「ええ、とても危険よ。興味本位で使ったら取り返しがつかなくなるくらい」

「あ、ああ。分かった。使わない」

 彼女の真剣な顔つきから、これは冗談抜きでヤバいものである事が伝わってきた。



      ◆      ◆


「ロックムートさぁぁん♪」

 フォーリィのお願いでカデン領に引っ越してきたロックムートは、ガネトムートの工房の近くに工房を構えていた。


「ああ、嬢ちゃ……むぐっ」

 入ってくるなり、フォーリィはロックムートの頭を抱きしめた。


「ちょ、ちょっと、近い、近いから」

 真っ赤になって彼女を引き剥がすロックムート。

「ええぇぇぇ。いいじゃない」

 ロックムートはガネトムートと年齢が近いと思い込んでいる彼女は、こういった事に遠慮がなかった。


「それはそうと。近々発電機が必要になりそうなんだけど、作れる?」

「それなんだが……」

 気まずそうな態度のロックムートに、彼女は首を傾げる。

「ん?どうしたの?何か不都合でも?」

「あ、いや。不都合とかじゃないんだ。発電機は作るよ。ただ……」


 言いよどむロックムート。そんな彼にフォーリィは優しく微笑む。

「何でも言って。可能な限り対応するから」

 それを聞いて、ロックムートは意を決して口を開く。


「他の工房仲間と磁力や電力について研究していたんだが、その……モーターを大きく変えてもいいか?もちろん嬢ちゃんのモーターが悪いというわけじゃ無いんだけど……その……」

「改良?凄い。もうそこまで出来るようになったの?教えて教えて。どんな改造なの?」


 最初、ロックムートはモーターの仕組みを大きく変える事に不安を抱いていた。

 彼女が、自分のアイデアを否定されたと、気分を害するのではないかと思ったからだ。

 だが、キラキラした瞳を向けてくる彼女を見て、それが杞憂だったと知った。


「ああ、電線を二本から三本にするんだ。それで永久磁石は使わずに……」


 こうして、この日から発電機と電動モーターは彼女の手を離れ、日進月歩で進化し続ける事となった。よりパワフルに、よりコンパクトに。

 そしてそれが、カデン領に激変をもたらす事になるが、彼女達はこの時、そこまで先のことは全く考えていなかった。




「さあ、これで必要な依頼は全て終わったわ。明日からダムの建設予定地の視察よ!」

さあ、いよいよ次回は領地のあちこちを視察します。

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