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3 ハーフエルフっ娘、二度召喚される

 ありがちな召喚の話です。

 二回の召喚と鞘については大きな意味があり、今後の話にも出てきます。

 矢についても意味はありますが、ストーリーに載せる予定はありません。

「おおっ!成功です!」


「ここは……?」

 少女が目覚めたのは薄暗い部屋。

 地下室だろうか。窓は見当たらなかった。少なくとも、彼女が見える範囲では。


 石を積んだ壁には松明が取り付けてあるが、部屋全体はかなり広く松明の光が届いていないため、正確な広さは分からなかった。


「これで我々の悲願もようやく叶うぞ」

 目の前には四〇歳位の、立派な髭を生やした貫禄のある男が佇んでいた。

 頭には王冠。そして金糸銀糸で装飾された高そうな服を着ていて、いかにも王様と言った姿をしていた。


「はい。勇者様の力があれば、我らが祖国を帝国より取り戻す事が出来ましょう」

 王様らしき男の横には鎧を着た男達。

(ドッキリ?何かの撮影?)

 自分が置かれている状態が分からず困惑する少女。その足元には複雑な魔法陣が描かれていた。


「おお、勇者よ。どうか我々に力をお貸し下さ…………」

 王様らしき男が話の途中で固まる。その目線の先は少女の右手。正確には少女の手に握られているもの。

「矢……ですか?」

 少女は自分の手に握られている物を確認する。

「矢……ですね」

 それは白い羽根の付いた立派な矢だった。


「それでどうやって戦うのですか?」

「…………」


 困惑顔を向けてくる王様らしき男の問に、少女は答える事が出来なかった。

(戦う?なんの事?と言うか、そもそもこの人達は何?)


「き、きっと勇者様は、強力な魔法が掛かった矢を無限に生み出す事が出来るんです」

「おおっ、そうか。きっとそうだ」

 兵士Aの言葉に、王様らしき男は顔を綻ばせた。

 しかし……


「恐れながら!勇者様の武器は一定以上離れると勇者様の元に戻ってしまわれると伺っています!」

 兵士Bの言葉に、王様らしき男の顔が引き攣る。


「確認しろ!」

「かしこまりました。勇者様、矢をお貸し願えますか?」

「あ、はい」

 兵士は少女から矢を受け取ると(きびす)を返す。

 そして数歩離れた時点で、矢が少女の元に戻って来た。

(え?何?物質転送?そんな技術聞いた事ないけど)

 驚く少女を他所に、王様らしき男と兵士達は暗い顔をする。


「…………まさか、矢を使って近接戦闘を行うのか?」

「「「「………………」」」」

 王様らしき男の言葉に、部屋の空気が更に重くなる。


「…………はぁぁ……」

 沈黙を破るように、王様らしき男は小さく溜息を漏らす。


「処分して新しい勇者を呼び出せ」


 数名の兵士が彼女を魔法陣の外に引きずり出して、身動きが出来ないように取り押さえた。

「ああっ!ちょっ!勝手に呼び出して?」

 別の兵士が剣を抜いて振りかぶる。


 その時、突然彼女が光に包まれる。


      ◆      ◆



「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 少女が目覚めたのは白い壁に囲まれた日当りの良い、明るい場所。


(さっきのは夢……?)


 そこは大きな建物の中だった。

 神殿だろうか。ステンドガラス越しに降り注ぐ太陽の光が、金や銀で装飾された内装を輝かせていた。


 少女の足元には魔法陣。そして、

「おおっ!召喚の儀式、成功です。皆さん、良く頑張りました」

 少女はデジャヴを感じた。


 視線を上げると、目の前には白いシルクの祭服に身を包んだ司祭風の男。

 周りには数十人の神父、シスター達が膝まづいて祈りを捧げていた。


「これでこの国も救われるでしょ……う?」

 司祭風の男が固まったのを見て、嫌な予感がした少女は、男の視線の先、自分の右手に目を向けた。

 しっかりと(さや)が握られている自分の手を。


「勇者様…………剣はどうされたのですか?」

 そう、鞘には剣が収まってなかった。


(何なの?これぇぇぇ!)


「まさかそれで戦うと言われるのですか?」

 失望の色を露わにする司祭風の男。

「だ、大丈夫です。鞘に見えますけど、これは檜の棒です」

 処刑される。そう思った少女は必死になって弁明する。

「ほらっ、こうやって敵を殴り倒します!」

 そう言って振りかぶった鞘は勢い余って床を叩く。


バキッ


 大きな亀裂が入った。

 床にではなく、鞘に。


 それを見て司祭風の男は深い溜息を漏らす。


「聖なる戦に参加出来ぬ者を死地に送るのは可愛そうですね。我々の慈悲で勇者様を神の御許にお送りして差し上げましょう」

 失望の色を隠しもせずに、司祭風の男はそう告げた。


 少女は咄嗟に逃げる体制をとるが……


 ごおぉっ、と言う音とともに突風が吹き、一瞬足が止まる。

(風?屋内で?何で?)


少女は知らなかったが、それは牧師の一人が放った魔法と言う、彼女がいた世界には存在しない力によるものだった。


そして、彼女は周りの神父達に押さえられ、裏庭まで連れていかれる。


「戦えるから!私、戦えるから!だから殺さないで。お願い!」

 一人の神父が鞘から剣を抜き振りかぶる。


      ◆      ◆


「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 ベッドから飛び起きたフォーリィは、汗でビッショリになっていた。


 そして少しして、バタンと勢いよくドアが開かれるとヴェージェが飛び込んで来た。


「どうしたの?」

「皆が……皆が……私は戦えないから……殺すって」

 ヴェージェはベッドに腰を掛けると、フォーリィを包み込むように抱きしめる。


「また怖い夢を見たのね。大丈夫だから。戦えなくなっても殺されたりしないから」

 魔法騎士団をクビになってから、頻繁に見る悪夢。

 自分が召喚されて理不尽に殺される夢。


 その場の雰囲気、匂い、温度や湿度などがハッキリと伝わってくる。そして首を切り落とされる感覚の生々しさ。


 フォーリィは確信していた。

 これは単なる夢ではなく彼女の前世での記憶であると。

 自分は別の世界に召喚された。そしてその世界で殺される直前に、今度はこの世界に召喚されて、そして最終的に殺害されたのだと。


「ヴェージェ、私働くよ。魔法が使えないハーフエルフに何が出来るかは分からないけど、家政婦でも何でもする」

 ヴェージェは身体を少し離し、フォーリィの目を見る。

 そこには強い決意の色が現れていた。


「…………そうね。今は少しでも前に進んだ方が良いかも知れないわね」

 でも、とヴェージェは言葉を続ける。

「決して無理はしないでね。辛くなったらすぐに仕事を辞めて療養に専念すること。良い?」

「うん。約束する」


      ◆      ◆


 次の日。

 フォーリィは商業ギルドの建物の前にいた。仕事を斡旋して貰うためだ。


 この世界では商人達がお金を預けたり、人手を募集するのに商業ギルドを利用する。


 その他にも魔物の討伐や素材採取等を行う冒険者達を束ねる冒険者ギルドや、金属や木材等の加工を扱う工業ギルドなどがあり、殆どのギルドが何らかの形で商業ギルドと繋がっていた。


「では、魔法が使えなくなったので魔法騎士団をクビになったと……」

「はい。そうです……」

 職業斡旋カウンターで履歴書に目を通しながら質問する受付嬢に、フォーリィは縮こまりながら答える。


 ちなみに、履歴書とは言ってもこちらの世界には紙はない。

 商人達が契約等で羊皮紙を使うがとても高価なので、履歴書のような一般向けの書類は二行程の文字が書ける幅の板を並べ、両端を紐で繋げたものを使う。いわゆる木簡(もっかん)だ。


「で、でも仕事は一生懸命頑張りますから!」

 受付嬢は履歴書から目を離し、フォーリィの目をじっと見る。

「……」

 プレッシャーに耐えながら待つこと数秒。

「大丈夫です。やる気のある若者には、当ギルドは全力をもってお仕事を斡旋致します」

 優しく微笑む受付嬢に、フォーリィは胸を撫で下ろした。


「では、身分証明書の提示をお願いします」

「え?」

 全く想定していなかった事態に思考が停止するフォーリィ。

 それを見て受付嬢はほんの一瞬だけ『またか』と言う顔をしたが、すぐに笑顔に戻る。


「そこの後ろのボードに、手続きの流れと必要書類、そしてご提示して頂くものが()()()記載していますが、お読みになりましたか?」

 受付嬢が右手の指を揃えてフォーリィ後ろを指し示す。

 フォーリィが後ろを振り返ると、かなり大きな文字が書かれたボードが目に入った。


「ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい!」

 フォーリィは真っ赤になってペコペコと頭を下げ、書類をバッグにしまうと、慌ててボードの前に行く。


 ボードを確認すると、必要な物は身分証明書以外は全て揃っていた。

「身分証明に商業カード、冒険者カード等が必要?うーん、魔法騎士団の時の身分証明書って使えるのかな?そもそも魔法騎士団の証明書ってなんだろう?」



 フォーリィは家に戻って探してみたが、身分証明書らしきものは見つからなかった。


 結局ヴェージェが帰宅して、フォーリィの騎士証の保管場所を教えて貰ったのは夜になってからだったので、彼女の就活は明日から始める事となった。


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