37 ハーフエルフっ娘と戦争6 ~ 最終兵器登場
「しかし、特殊油のことを敵に知られたのは痛いな」
パウトミーや魔法騎士団への処分は敵を退けてから決めることになり、将軍は部隊長などを集めて今後の対策について話し合うことにした。
「そうですな。今まで敵は魔法攻撃だと思っていた節があり、あからさまに大規模魔法への対策を行っていました」
騎士団長が魔法攻撃の視点で自分の意見を述べる。
「でも、強化ガラスの事はまだ知られていないと思われます。ですから、敵は何らかの結界魔法と思っているはずです。なら次は城門に攻撃を集中してくるはずです」
「いや、パウトミーが敵に寝返ったとなると、知られていると思っていい」
「例え知られたとしても対策は無理でしょう、あんなもの」
「高さが知られているから、次はそれを上回る長さのハシゴを用意してくるはずだ」
他の部隊長たちも意見を言い合い、徐々にヒートアップしてくる。
「みんな!沈まれ!」
そこに将軍が声を上げて皆をしずめる。
もっとも、フォーリィが将軍にお願いしたのだ。
「あの、こんなのどうでしょうか」
場が静まったところで、フォーリィがある提案をする。
◆ ◆
「何っ?城門前に土嚢を積み始めた?」
ラトゥーミア王国のマルバーリオ将軍は、斥候からの報告に危機感を覚えた。
今までの敵の動きから、決して門を修理するだけとは思えなかったからだ。
「しかし、敵がどのような策を講じても、消えない炎のからくりが分かった以上、こちらに分があります」
将軍の側近が、懸命に彼の不安を拭おうとする。
「そうだな。どちらにしろ明日は最終決戦だ。あれこれ考えても仕方がない」
将軍は、そう自分自身に言い聞かせ、自身を奮い立たせる。
あの後、将軍は数時間仮眠をとり、将校たちを集めて今後の対策について話し合った。
将校たちが集めた情報によると、今回の食料への被害は全体の二割ほどだった。
もっとも一万の兵の数日分の食料だ。その量も膨大で、多数の保管場所に分けていた。
だからその内の一部に被害が出てもそれほど深刻ではない。
それに食料は数日おきに、ここに運び込まれる予定なのだから。
だが、この二日間で多くの兵を失い、敵の結界魔法に阻まれて攻めあぐみ、更には毎晩将校が怪死したり食料が失われる状況では、戦いが長引けば長引くほどこちらが消耗させられるのは目に見えていた。
だから、明日は全兵力を投じて総攻撃をかけることにしたのだ。
◆ ◆
「皆の者。今日が最後だと思え!これで砦を落とせなければ、我々に未来はない!」
「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」
翌朝、マルバーリオ将軍の掛け声に、丘の上に整列している兵士たちは奮い立った。
彼らは分かっている。これで駄目ならもう勝つ方法はないということを。
更に、寝たら死ぬと言う噂が瞬く間に兵士達の間に広がったことにより、彼らは精神的に追い込まれていた。
「突げ……えっ?」
将軍が突撃を指示しようとした時、ホーズア王国側で動きがあった。
城門前の土嚢が次々と砦内に運び入れられたのだ。
「な……何だ?」
やがて土嚢が撤去され、そこに現れたのは開け放たれた門だった。
「何かの罠か?まあいい。城壁を登ればいい。いくら結界の魔法が展開されていても、あれだけ広範囲だ。魔術師達がハシゴで登って至近距離から魔法攻撃をすれば結界も破れるだろう。では、全軍!とつ……えっ?」
今度は城壁前が広範囲に青い炎で埋め尽くされた。門前だけを残して。
魔術師達が冷却魔法で消火するには範囲が広すぎるし、報告によると魔術師が突然、何の前触れもなしに命を落とす現象もたびたび目撃されているとのこと。
「城壁を登るのは無理か……となると、あの門だが。あれは、あからさまな罠だな」
将軍は周りの兵達の顔を見る。そこには恐怖の色が浮かんでいた。
これは大変マズい。
「大丈夫だ。あの門を見ろ!あの門を潜る事ができれば、いくらでも敵を倒すことができる!歩兵は体を張って魔術師を守れ!魔術師は死に物狂いで結界を破れ!突撃だぁぁぁぁぁぁ!」
「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉ」」」
将軍の掛け声で、兵士たちは一斉に走り出した。
「今回も攻撃してこない。まったく、何なんだよ、この気味の悪い戦いは」
「気にするな。これも敵の策略だ。あの門を突破して混戦にもつれ込めば、そんな奇策なんて無意味だ」
兵士たちは自分たちを鼓舞するように、言葉を掛け合いながら突進していく。
そして――
前回と同じように、ガチャンと音を立てて先頭の兵士が見えない壁に激突した。
「魔術師を前に!」
先頭の兵士の言葉に、魔術師達が見えない壁に集まる。
そして一斉に術式を展開していく。
彼らが構築を始めた術式は、集団破壊魔法『神の槍』だ。
だが、術式の構築中にそれは起こった。
何の前触れもなく、ガラスの割れる音と共に、大勢の魔術師達と共に、門の前に集まっていた者たちが落下したのだ。
「な、何が起きた?落とし穴?いや、今まで普通に門の前に立っていたのに。それに奴らも普通に土嚢を回収して門を潜っていたはずだ」
彼らは何が起きたのか理解出来ていなかったが、何と言う事はない。
予め穴を掘っておいて、その上に魔石で強化したガラスを置いて、その上に土を被せただけだ。
そして、予想通り魔術師達が門の前に集結したタイミングで、ガラスを強化している魔石への魔力供給をカットしたのだ。
「みんな!慌てずに穴から出るんだ」
部隊長の掛け声で、皆が穴から出ようとしたとき、突然炎が上がった。
穴の底に溜めていた特殊油に、着火の魔道具に魔力を流して発火させたのだ。
特殊油への対処方法が分かったラトゥーミア王国軍だが、凍結魔法を発動するはずの魔術師達が全員火に包まれているため、消火できる者はいなかった。
「な……またしても!おのれ!おのれ、おのれぇぇぇ!」
丘の上でその光景を見ていたマルバーリオ将軍が拳を強く握りしめると、そこから血が滴り落ち始める。
その時、隣にいる側近が叫ぶ。
「将軍!城壁の上に……」
その声に、将軍が側近に顔を向ける。
そして彼は見た。側近の頭が破裂するのを。
「な……な……な……」
何が起こったのか分からなかったが、咄嗟に辺りを探った。
しかし、魔力の残滓は感じられなかった。
そして、悲劇はそれで終わらなかった。
彼の近くにいる者達が、次々と頭を破裂させていく。
「まさか……」
将軍は砦の城壁の上を見る。
「貴様かぁぁぁぁぁぁ。ピンクの死神ぃぃぃぃぃ!」
その瞬間、彼の右腕が千切れ飛んだ。
「将軍!誰か、治癒魔術師を呼べ!」
将軍は、彼を助け起こしながら指示を出す将校の肩に手を置くと、痛みに耐えながら命令する。
「全軍に退却の指示を出せ。そして、すぐに撤退の準備としんがりの手配だ。帰還する」
「で、でも、将軍」
負けて逃げる。
その事に激しい抵抗感を見せる将校に、将軍は言った。
「見てみろ。私以外の者は一撃で頭を粉砕されている。なのにどうして私は腕だけなのだ?いいか、これはあの死神の警告だ。これ以上戦いを続けるなら私達を皆殺しにすると言う」
考えてみれば、毎晩一〇名ずつの将校が変死を遂げている時点でおかしかった。
これがあの死神の仕業なら、その気になれば何十人も殺せたのではないか?
相手が同じ人間ならまだ戦いようはあった。
だが、死神相手に勝てる見込みなど彼にはなかった。
◆ ◆
「ふうぅ」
フォーリィは、魔道筒状武器の安全装置を掛けて、ゆっくりと下した。
「フォーリィちゃん、そんな化け物じみた武器まで持っていたとはね」
マレクリン将軍の額に冷や汗が流れる。
彼女が手にしているのは、有効射程距離一二〇〇メアトルの長距離用狙撃魔道筒状武器だった。
空気圧のチャージに四秒掛かる特殊仕様で、全長は彼女の背丈ほどある。
「で、上手く狙撃できたのか?」
将軍の持っている望遠鏡では、良く見えていなかった。
「ええ。六名の将校を倒して、敵の将軍の腕を吹き飛ばしました」
「この距離からか?」
将軍は、彼女がここから敵を狙撃するとは聞いていたが、それはあくまでも、けん制くらいと思っていた。
この距離で敵を確実に倒す。それは驚異的と言わざるを得なかった。
「敵の将軍の狙撃は失敗したのか?」
将軍の言葉に、フォーリィは不思議そうな顔をする。
「勿論、狙って腕だけを吹き飛ばしましたよ。将軍を殺してしまったら、撤退命令出せる人がいなくなるかも知れないじゃないですか」
フォーリィは、前世でも、今世でも決して人を殺すのが好きではない。むしろ嫌いだと言っていい。
彼女は家族を守るために戦う事を決意したが、敵を退けさえできれは十分だった。
「さて、敵さんは帰ってくれるかしら?」
その日の午後、敵が撤退を始めたとの斥候からの報告が入った。
これで、永かった戦いがようやく終わります。
次回、戦後処理を1回挟んで、次々回からはいよいよダム建設の準備に入ります。




