2 ハーフエルフっ娘、魔力操作を覚える
「じゃあ、これを使って魔力操作のリハビリをしてね」
ヴェージェがフォーリィに渡したのは丸い透明な拳大の玉。中心には青白い小さな宝石のようなものがある。
「これは?」
魔法についての知識が一切ないフォーリィは、渡された物を見て首を傾げる。
「そんな事も忘れちゃったのね。これは魔力操作練習のための魔道具よ」
「もしかして、これで攻撃魔法が発射されたり、炎が出てきたりするの♪」
「そんな事したら、この病院が半壊しちゃうわよ!」
とんでもないフォーリィの言葉に、姉は即座にツッコミを入れる。
「普通に光るだけの魔道具だから。とにかく、そこに魔力を込めてみて」
「えっと……」
フォーリィが困った顔をしていると、ヴェージェが両手で彼女の手を玉ごと包み込む。
「大丈夫。ゆっくりと魔力の流れを感じ取って」
フォーリィの手に暖かい何かが流れ込んでくる。それと同時に玉が淡く光始めた。
記憶は無いが、身体は覚えている。これは魔力の流れだ。
「じゃあ、今度は一人でやってみて」
言われるまま、フォーリィは目を閉じて魔力を送ろうと試みる。
「う……く……ぐぐっ……」
「ストップ、ストォォォプ!そんなに力を入れたら魔道具が壊れちゃうわよ!」
「あ、ゴメン」
力みすぎて、無意識に腕に力を入れていたようだ。
「焦らないで。さっきの感覚を思い出して、ゆっくり、ゆっくり……」
ヴェージェは再びフォーリィの手を包み込むように手を添える。
だが、今度は魔力を注ぎ込まなかった。
「ほら、ゆっくり……ゆっくり。自分の魔力を感じ取って……」
外からフォーリィの魔力を制御しているようだった。
フォーリィは目を閉じ、心を落ち着かせる。
すると、体内の魔力の動きが少しずつ強く感じられるようになっていった。
すると彼女身体の奥から暖かいものが湧き上がるのを感じた。魔力だ。
そして
彼女は魔力をゆっくりと誘導して掌から玉に流し込む。
「出来……た」
目を開けた彼女の手の中の玉は淡く光っていた。
「出来た。出来たぁ♪」
光っている球を見てキャッキャとはしゃぐフォーリィを見て、ヴェージェは安どの笑みを浮かべる。
妹想いの彼女は、フォーリィから記憶が無いと聞かされ、その事で妹が不安に怯えたり、落ち込んだりするのでは無いかと心配した。しかしフォーリィの様子からは、その心配は無用のようだった。
「その調子よ。暫くは魔道具でリハビリしていれば魔法の使い方も思い出すでしょうから、そしたら記憶も取り戻せるかも知れないわ」
「魔力の制御が出来れば魔法が使えるの?」
魔力の制御とイメージで魔法が使えるのなら、前世の科学の知識を持ったフォーリィは、ひょっとしたら誰よりも強力な魔法が使えるかも知れない。
(これってもしかして、異世界知識チート?勝ち組確定?)
フォーリィは顔が綻びそうになるのを懸命に抑えていたが……
「いいえ。それだけだと魔法は使えないわ」
そんな淡い期待をヴェージェに 切り捨てられてしまった。
「でもね……」
ヴェージェはフォーリィの頭を撫でながら優しく微笑む。
「術式はフォーリィの体が覚えているわ。だから焦らずゆっくりリハビリすれば良いわ」
どうやら泳ぎと同じで体が覚えている技能のようだった。
(そうよ、私は異世界知識チートがあるんだから、魔法の使い方さえ思い出せば大丈夫。うん、この世界でも十分やって行ける)
フォーリィは、そう自分に言い聞かせて、地道に魔法制御のリハビリに専念する事にした。
◆ ◆
そして一月後。
魔法が使えないフォーリィは魔法騎士団を解雇された。
「何でこうなったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」