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224 ハーフエルフっ娘と奇怪なバケモノ【ギドラ・ザ・キング編】8

「……くっ」

 スティルギヌスが思わず声を漏らす。

 火竜王が光轟滅波(ドラゴルデュート)を放つ時、目に見えて魔力が乱れていたからだ。

 膨大な演算式の魔法を扱えるほどには冷静さを取り戻せていなかったようだ。

 案の定、放たれた魔法は収束しきっていないうえ、出力も不安定だった。


(これでは殆どダメージを与えられない)

 拡散して見た目だけは派手な魔法。そんな攻撃にギドラ・ザ・キングが晒されている中、スティルギヌスは即座に術式を展開した。

 そして光轟滅波が収まると同時に細く収束した光の矢を放った。


「ギィィアアアァァァァァァァァ!!」

 翼が千切れて露になった肉に突き刺さるような攻撃を受け、ギドラ・ザ・キングは初めて声を上げた。


 その攻撃はそこそこのダメージを与えた。

 だが、十分ではなかった。


 火竜王の攻撃が不安定である事を察し、咄嗟に速度を優先した術式を構築したため、深い傷を負わすほどの威力はなかった。

 しかし、それで隙が生まれる。


「ミリューマ!バレット系の……」

 スティルギヌスが次の術式を展開しつつ仲間に指示を出そうとしたところ、火竜王がギドラ・ザ・キングに向かってダッシュした。

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 叫びながら火竜王は術式を構築する。

 しかし光轟滅波と同じく、いや、それ以上に魔力の乱れが酷かった。

 先程の攻撃が大した効果を見せなかった事で、ますます冷静さを失ったようだ。

 これでは相手を怯ますことすらできない。そう判断したスティルギヌスは素早く命令を下す。

「皆!とにかく発動の速い魔法を同じ位置に!!」


 スティルギヌスの指示に、グヌクティフとミリューマは左右から術式無しの魔力弾を放出。リヒカミリスは上空から五本の氷の矢を放つ。

 だがギドラ・ザ・キングは怯まない。


(焦ったらダメだ)

 スティルギヌスはそう自分に言い聞かせ、素早くそして丁寧に術式を練り上げて魔力を流し込んでいく。

 放たれた魔法により、再び地面から土のツララがせり上がる。

 今度は先ほどより細く収束され、より強固になった三本のツララ。それがギドラ・ザ・キングの左右の擬頭と中心の頭のアゴ下に向かって高速で伸びる。


「なっ!?」

 スティルギヌスが驚愕の声をあげる。

 ギドラ・ザ・キングは僅かに頭と擬頭を動かしてツララを避けたのだった。


「火竜王様……」

 スティルギヌスは火竜王に避けてと言おうとしたのだが、既に二つの擬頭は術式を展開していた。


 ドン!という音と共に衝撃波が火竜王を襲う。

 十分に練られた術式ではないため、それ程の威力は無いのだが、火竜王を怯ませた。

 その隙はとても大きかった。

 中央の頭に集められている魔力から、かなり高度な術式が展開されていると悟ったスティルギヌスは四つの脚に魔力を集めると火竜王に向かってダッシュして体当たりした。


 スティルギヌスの視界の中央には弾き飛ばされる火竜王。そして視界の端にはギドラ・ザ・キングのとてつもなく強い魔力の奔流。

 相手を怯ませる事ができる程の術式を展開する時間は無い。防御結界の術式展開も間に合わない。


(ああ、これ……死んだな)


 ギドラ・ザ・キングが現れなければ、今日は火竜王に会ってフローマティアとの結婚の日取りを相談するはずだった。


(この戦いが終わったら、俺、結婚するんだ……ははは……そんな事を言って死んだドラゴン達の話を聞いたことあったな。まさか自分がその立場になるなんて……)


 ギドラ・ザ・キングから放たれた(まばゆ)い光が迫って来る。

 それは、加速された時の中でとてもゆっくりに感じた。

 全身の血が凍ったように冷たく感じる。


 フローマティアと結婚して、子供ができて、その子供に目一杯の愛情を注ごう。

 半日前までは、そんな事を考えていた。幸せの絶頂だった。

 死にたくない。

 まだまだ彼女と生きていたい。やり残したことがたくさんある。

 視界の隅にフローマティアが見える。何やら叫んでいるようだが、声は聞こえなかった。


 やがてスティルギヌスの身体が魔力の奔流と破壊の光に包まれた。


      ◆      ◆


 かつてスライムだったものは、その身体を細長くして川を流れながら魚などを取り込んでいた。

 しかし、身体が成長するにつれ、ますます飢えが増していく。

 その体は栄養を求めてあがき苦しんだ。

 その時、高い魔力が近付いて来るのを感じた。

 かつてスライムだったものは期待に満ちて、それが自分の中に取り込まれるのを待った。

 だが、中々自分の中に入って来ない。

 不思議に思いながらも色々と身体を動かしてみる。

 試行錯誤の末、身体の一部を細長く伸ばして、それに当ててみると、それは落ちて来た。


 この日を境に、船で魚を釣っていた人が船を残して姿を消す事件が度々起こる事になった。

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