212 ハーフエルフっ娘と奇怪なバケモノ【デストロイヤー&魔木編】3
「「撃ち方始めぇぇぇっ!!」」
第五部隊長ことフォーリィの兄弟子と、第一副部隊長が同時に叫ぶ。
フォーリィ軍と魔木の距離は三百メアトルほど。
その魔木の影から現れた木人形は、人間を上回るスピードで迫って来る。
とは言え、真っすぐにこちらに向かって来ているため、弾丸は当たっているはずなのだ。
だが、木人形が砕けたりヒビが入ったりしたようすは無い。
「「撃ち方止めぇぇ!!」」
木人形が二十メアトルまで近付くと、部隊員達が射撃を止めさせる。同士撃ちを防ぐためだ。
隊員達は魔道筒状連射武器の安全装置を倒す。
そして魔道筒状連射武器の先端に取り付けられている銃剣を外して構える者、槍のように銃剣の先端を前に向ける者など、各々の戦闘スタイルに合わせて敵を迎え撃つ。
だが、木人形が彼らから十メアトルまで近付いたところで予期せぬ事が起こった。
「「「なっ!?」」」
隊員達が驚きの声をあげる。
突然、二体の木人形が、粘土細工のようにくっつき、二、三秒で大きな木人形と化した。
「小さい方にも注意して!!」
驚きに固まってしまった隊員達に向かって、フォーリィは叫ぶ。
「ぐはっ!!」
だが、彼女の注意は間に合わず、隊員の一人が、三体目の木人形に蹴られて十数メアトル飛ばされた。
「くそっ!」
隊員の一人が魔道筒状連射武器を突き出すと、先端の銃剣が深々と木人形に突き刺さる。
続けて二人目、三人目と他の隊員達が素早く銃剣を突き刺していく。
だが、彼らは違和感を感じていた。
手ごたえが無いのだ。まるで粘土のような感触だった。
木の質感の見た目に騙されていたが、粘土質のボディのようだ。
「離れろ!!刺突は効果が無さそうだ!」
第一副部隊員の指示を受け、全員が距離を取ると、融合していた二体が分離して、再び三体編成となる。
そして、すぐに距離を詰めて隊員達が密集している中に飛び込み、次々と隊員達に拳や蹴りを叩き込んでいった。
とは言え、格闘術とかではなく、単なる力任せの打撃だ。
最初は不意を突かれた攻撃と、格闘の苦手な隊員がモロに攻撃をくらった。だが、カデン軍で格闘技の訓練を受けている者達だ、すぐに対応して避けたり受け流したりして攻撃を躱し始めた。
だからと言って、カデン軍が優勢という事はない。
相手は粘土を固めたようなバケモノだ。刃物による攻撃は通用していないように見えるし、打撃も効いているのか分からない。
「「「うわぁぁぁ!!」」」
突然、木人形が大きくなり、隊員達が驚きの声をあげた。
いつの間にか一か所に集まっていた三体の木人形が一体に融合したのだ。
「ぐはっ……」
至近距離にいた数人の隊員が、木人形の丸太のような腕の一振りで吹き飛ばされた。
大きくなった分、動きは少し遅いが、リーチと腕の質量による振りは、受ける事も躱す事もできなかった。
これでは格闘技術などは役に立たない。
そして次の瞬間、木人形が少し小さくなった。
「また分離!?どこだ!?」
分離したであろう事は正面にいた隊員達も分かった。
だが、正面の木人形が頭上で振り上げている腕から目を逸らす事はできない。
「がっ……」
結果、正面の木人形の背後から出て来た人間サイズの木人形の拳を顔面にくらって隊員の一人が意識を失った。
『ふははははっ!エルフどもめ、バカみたいにマリオネットと一緒に踊るがいい』
フォーリィ軍が木人形と戦っているのを少し離れた所から見ていた魔木は、愉快そうに笑っていた。
『操り師を倒さないと、マリオネットたちは止まらないと言うのに。エルフどもは愚かだな。魔法が使えると言うだけで、知能は猿人なみだな』
ヒューマンは別に知能としては他の種族より劣っているという事はない。
だがエルフ社会では、これまでエルフやハーフエルフ以外を獣人として見下してきた。それはダークエルフも同じだった。
『そう言えば先程、魔力を持たないエルフを捕獲していたな。逃げられてしまったが。あれはひょっとして、エルフに化けた猿人だったのかも知れないな。ふふふっ……あいつらに教えてやってもいいな。どんな顔をするか見もの――』
その時突然、体内で魔力が乱れ、魔木の思考が止まる。
「そんな事されたら困るのよね」
気付くと、背後に青み掛かった銀色の小さなハーフエルフ少女が佇んでいた。
近付いて来たのに気付かなかったのではない。
周りに敷き詰められるように伸びている根は、微かな魔力でも感知できる。例え魔木の意識がそちらに向いていなくても。
そう。突然その場に現れたのだ。
『貴様っ!!たった今までそこで戦って……』
魔木が再びカデン軍に意識を向けると、そこには全く同じ少女が戦っていた。
分裂と言う言葉が魔木の頭を過ぎった。
だが、それについて、それ以上考える事ができなかった。
自分の身体の違和感が益々膨れ上がっているからだ。
気付くと、自分の身体にいくつもの矢が刺さっていた。
紫、青、オレンジ、いくつもの矢だ。
――バキッッッ!!
身体に大きな亀裂が入る。
「うわぁ!こうやってバケモノを生み出していたのね」
亀裂の中から現れたのは、子宮のような袋に包まれた三頭のドラゴンの幼体だった。
「生まれたら厄介そうね。殺しておきましょう」
フォーリィが腕を振り上げた瞬間、その手に青色の矢が現れた。
そして、その矢を振り下ろそうとした瞬間――
「おっと……」
フォーリィがその場を飛び退いた。
「それが操り師というわけね」
フォーリィの目の前には、複数の根が集まったような人型のバケモノが立っていた。




