202 ハーフエルフっ娘と奇怪なバケモノ【アシュラ編】4
『特殊神気を投下します』
無線の声と共に竹飛竜から投下された爆弾が引力に従い落下して行く。
狙いはアシュラ。
魔力によって爆発させる従来の爆弾では、魔力を吸収するアシュラに近付けると爆発しない。
だからこその『特殊神気』だ。
――ドオォォン
特殊神気は、アシュラの上空六百メアトルで爆発すると、青く燃え盛る特殊油がアシュラに降り注ぐ。
『特殊神気ナンバー5』
「侯爵様。ナンバー5のスイッチです」
無線の声に、部隊長が5の数字が書かれた手のひらに収まる小さな筒状の物を手渡す。
彼女はそれに書かれている番号を確認する。
『特殊神気を投下します』
その通信を聞いたフォーリィは、筒の上部の赤いカバーを外す。
そして筒を握ったまま、カバーでガードされていたボタンの上に親指を乗せると、三脚で固定されている双眼鏡を使って特殊神気の位置を確認する。
アシュラの上空、きっちり六百メアトルで親指に力を込めてボタンを押し込む。
――ドオォォン
再び燃え上がった特殊油がアシュラに降り注がれる。
「特殊神気はもう必要ないわ。後は手はず通り特殊油を投下しちゃって」
フォーリィが指示を出すと、一機の輸送用竹飛竜がアシュラの頭上に移動し、油が入った樽を次々と落として行く。
『輸送竹飛竜4。特殊油を全て投下しました。これより帰還します』
『輸送竹飛竜5。アシュラの頭上に移動します』
樽一つ一つの特殊油はアシュラ巨体からすると微々たるものだが、こうやって多数の樽を落とし続けた結果、やがてアシュラ全体が炎に包まれて行く。
だが、アシュラは炎に包まれながらも、何事もなかったかのように平然と前に進んで行く。
――ビシッ!!
突然、大きな音が響く。
良く見ると、土のようなアシュラの表皮に大きなヒビが入っていた。
そのヒビは、内から盛り上がって来た赤黒い肉ですぐに塞がれると、次の瞬間、その肉は土色に変色し、まるで最初からヒビなど無かったかのように元通りになっていた。
だが、その間も特殊油が落とされ続け、身体を包む炎も勢いを増していた。
ビシッ、ビシッとあちこちから音が響き、ひび割れが増えていく。
そして、数秒後には元通りになる。
アシュラの表皮は破壊と再生がせめぎ合っていた。
このまま特殊油を投下していけば、ダメージが再生を上回るだろう。
「!!」
その時、フォーリィはアシュラの動きの微かな変化を感じ取った。
『全竹飛竜部隊!互いに衝突しないように気を付けつつ、速やかに退避!!』
急な指示にも慌てず、各竹飛竜のパイロットは普段からの練習通り、互いに距離を取りつつ急いで距離を取り始めた。
『グオオォォォォォォォォォォォォォォ!!』
アシュラが突然足を止め、初めて吠えた。
それは、地の底から響くような悍ましい響きで、フォーリィ以外の全員が恐怖で身体を強張らせた。
竹飛竜も距離を取っていなければ墜落していたかも知れない。
それだけの音量とおぞましさだった。
『竹飛竜部隊!止まらないで距離を取って!何か来るわ』
フォーリィが注意を促した直後、アシュラは腰を屈めて足元の岩を掴んだ。
その意図を察した竹飛竜部隊は、もっとも早く距離を取れるコースで全速飛行する。
やがて、アシュラが投石機のような動きで大岩を竹飛竜に向かって投げつけた。
しかし、その時はじゅうぶん距離を取っていたため、パイロットは多少慌てながらも飛んで来る大岩を無難に避ける事ができた。
それを見ていた地上部隊は、安堵の息を吐く。
「作戦失敗。竹飛竜部隊は撤収して」
フォーリィが無線機で指示を出し、彼らを撤収させる。
今までは上空の竹飛竜を脅威に感じていなかったのか、アシュラは彼らに無関心だった。
だが、これからは違う。
次、竹飛竜が頭上を飛ぶと、警戒しているアシュラは絶対攻撃して来るだろう。。
距離が近ければ先程のように岩を投げつけてくるだろうし、頭上から特殊油を落とすにしろ高度を上げ過ぎると特殊油が落下するまでに避けられるかも知れない。
何よりも命中率が格段に下がってしまう。
リスクが高いばかりで効果はあまり期待できなくなるだろう。
「飛翔神気もダメ。空からの攻撃もダメ。八方ふさがりね」
フォーリィは独り言ちて溜息を吐いた。
こうしている内にも、アシュラはダムに近付きつつあった。




