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201 ハーフエルフっ娘と奇怪なバケモノ【アシュラ編】3

『間もなくアシュラの上空に到達します』

「こちらからも確認したわ。予定通り真上に到着したら切り離して」

 地上から一千メアトル上空を飛んでいる輸送型竹飛竜(ヘリコプター)を双眼鏡で見ながらフォーリィは指示を飛ばす。

 輸送型竹飛竜の下には長さ十メアトルの先端の尖った金属の塊がワイヤーで吊り下げられていた。

 この巨大な槍を上空からアシュラに向かって落とすためだ。


 ちなみに、地上での魔力吸収範囲が上空でも同じかを確認するため、事前に遥か上空から戦闘用竹飛竜を降下させていた。魔力供給で光る玉を一千メアトルのロープでぶら下げて。

 それにより、どうやら魔力吸収の範囲はアシュラの体表面からおよそ五〇〇メアトルである事が判明した。


 飛翔神気(ミサイル)が使えないのなら、大きな槍で貫けばいいじゃない。と言う事でカデンカンパニーにある鉄骨を急いで加工してもらい、頭上から投下する事になった。


『投下します』

 連絡と共に鉄骨は自由落下を始める。

 そして重力により加速され、アシュラに到達する。


『着弾地点、アシュラの東方向三メアトル』

『着弾地点、アシュラの北方向二メアトル』

 鉄骨がアシュラのすぐ横の大地に突き刺さると、各観測ポイントから連絡が入った。


 狙いを付けて発射しているわけでは無いので、外れるのは想定内だ。


『第二弾、アシュラの上空に到達しました』

 次の輸送用竹飛竜が真上に到着すると、同じく上空から落下させる。


 ズシャッという音と共に、今度はアシュラの頭頂部から突き刺さった。


 それを見ていたフォーリィと各部隊長達は顔をしかめる。


「柔らかいわね」

 フォーリィが柔らかいと表現した通り、まるで泥人形のように巨大槍はアシュラに深々と突き刺さっていた。


「人型だけど、人間とは全く異なる生き物のようね」

 少なくとも頭部に脳が無いのは明白で、アシュラは何事も無かったかのように歩き続けている。


 そして、アシュラが歩く振動で、頭部の槍は少しずつ後ろに傾き、やがてポロリと落ちた。まるで砂の山に突き刺した棒が倒れるかのように。

 槍が倒れた時に引き裂いた後頭部や背中は、十数秒で塞がって元に戻る。


「まだ続けますか?」

 総司令官の問いに、フォーリィは首を横に振る。

「止めましょう。意味は無いわ」



 待機していた残りの運送用竹飛竜に帰還命令を出した後、フォーリィ達はその場から動かず、テント内で作戦会議を開いた。


「身体全体を動かす頭脳部分があるはずなんだけど、頭に見える部分じゃなかったわね」

「となると、胴体のどこかですかね」

「まあ、その可能性が高いわね」


 これは断言はできない。脳細胞にあたるものが体全体に神経が広がっている可能性も皆無ではないからだ。


「あと、吸収した魔力を身体全体に循環させる心臓のようなものもあるはずよ」


 実は彼女はこれらの「存在」を感じ取って場所を特定していた。

 だが、自分の能力を明かす事ができない彼女は、疑問を口にしながら、どのようにそれらの器官の場所を伝えようか必死に考えていた。


「そうだ、サーモカメラでアシュラを撮影してみて。あれだけの巨体を動かすほどの魔力が特定の箇所に集中していれば多少の熱の変化はあるはずよ」


 サーモカメラは暗視カメラと同じ原理で、赤外線などの不可視の光の波長を変異させて可視化するものだ。


 軍事行動ではもっぱら暗視カメラの方が使用されるが、一応サーモカメラも作成されてカデン軍に配備されていた。


「はっ。承知しました」



 こうして、拠点をアシュラの前方数キロの地点に移し、複数のサーモカメラが設置された。


「アシュラが千五百メアトル地点に到着しました」

「記録を開始して」


 全てのサーモカメラが稼働して、映像が記録されていく。

 その映像をモニターで確認したカデン軍の面々は渋い顔をする。


 胸にクッキリと熱の高い箇所が映し出されていた。


 だがその上部、人間の肺にあたる部分は薄い青色をしていた。


「この部分って、何かの金属?」

「まるで砂鉄を多く含んだ砂って感じですね」


 上空から槍を落としただけでは貫けそうもなかった。


 しかも最悪な事に、高温部分は左右二か所にあった。


「あと、これって、両方の『心臓』を同時に潰さないとすぐに再生するって事は無いのかな?」

「……くっ……、あ、ありえますな」

 総司令官が苦虫を嚙み潰したよう顔をする。


 ちなみに、頭脳にあたる部分は、アシュラの腹部に大きなU字を描いて存在しているが、サーモカメラでは確認できなかった。


鉄象(せんしゃ)で下から徹甲弾で撃っても倒すのは難しいわね」


 カデン軍の鉄象の大砲は空気銃とは違って空気で砲弾を押し出すのではなく、高圧縮した空気をボンベ爆発のように一気に解き放つため、かなりの推進力を出せる。しかし、それでも火薬に比べて射程距離はかなり短い。


 それでも、砲弾そのものが破裂したり火のついた油を撒き散らしたりするため、圧倒的な戦力を誇っている。


 だが、徹甲弾で対象を貫く場合は、よほど近付かなければ効果は激減する。


 鉄象の場合は構造上、砲身をあまり上向きにできない。そのため、足元から『心臓』を狙う事はできなかった。


 圧倒的な戦力を誇るカデン軍でも、このアシュラに対しては対抗手段が見いだせない状態だった。

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[一言] やはりやるなら範囲攻撃やな(目反らし
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