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閑話休題 ハーフエルフっ娘に振り回された人々

【勇者様】


「卒業勇者様、国王様から通信が入っています」

 愛飢嗚先生こと伯爵様のお母さまのアシストとしてマンガの背景を描いていると、先生の執務室兼作業場にメイドが入って来て開口一発そう言った。

 私の眉がピクリと動いてしまう。


 卒業勇者。


 この屋敷……いや、この領内で既に定着してしまっている私の呼び名だ。

 私がここに来てから、誰も私の名前である日下部(くさかべ)愛生(あき)で呼んでくれる者はいない。

 いや、伯爵様との初対面でお漏らししてしまったのは事実だし、人の印象は殆ど初対面で決まると言われているんだけど。それでも納得がいかない。

 あれ?でも初対面って確か、Gの群れをけしかけた時だったよね?それだったらお漏らし勇者とか卒業勇者ではなくゴキブリ勇者とかじゃないの?普通。

 まあGの勇者と言われるのも嫌だけど。


「これからマレール国王様との会談があるので、通訳して欲しいそうです」

 またマレール王か。

 伯爵様がマレール王様のお宝を蹴り上げた事により王妃候補となってしまったため、ホーズア王様が必死にお断りしているのだ。

 この領地で伯爵様と共にしていて分かったのだが、この領地の軍事力は特出し過ぎている。

 ヘリコプターや戦車、そしてマシンガン?それって、まるで地球の軍隊じゃない。

 そんな軍を編成している領主を他国に嫁がせると、軍事的優位性が大きく損なわれるのは目に見えている。ホーズア王様が必死になってマレール王様の申し出を突っぱねているのも当然だ。

 マレール王様も、伝統だ、しきたりだと言っているが、伯爵様の軍事力が欲しいと言うのもあるのだろう、向こうも必死になって食いついてきている。

 既に、リヴァイアサンの素材とか、いくつかの島の所有権などを提示して来ている。いったい、どの位まで積み増しして来るのか。

 そして、その多くの交渉は伯爵様抜きで行われるが、通訳として毎回私が呼び出されるため、たまったものでは無い。

 勇者得点の言語理解により、どのような言語でも母国語並みに理解して話す事ができるため、私としては通訳をしていると言うよりも聞いた言葉をそのまま繰り返しているに等しかった。

 それについては、頭を使う事もないので楽なのだが、対話の内容が問題だった。

 脅しすかし、時には威圧的な態度など、言葉による攻防が行われている中、私はその間に立たなければならないのだ。


「私、勇者としてこちらの世界に呼ばれたはずで、通訳ではないんですけど。はあ……先生、ちょっと行ってきます」

 私は立ち上がると重い足取りで歩き出す。

「勇者様。そんな事ないわよ。あなたは勇者として、じゅうぶん役に立ってるわ」

 先生の言葉に私は思わず振り返る。

 勇者として役に立ってる?

 ひょっとして、知識チートで漫画家アシスタントしている事?

 先生は、それ程までに私の能力を必要としているの?


「あなたのお陰で、この屋敷のGが激減したって、メイド達から好評よ」

 そっちかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。

 確かに、Gコントロールは私の勇者チートだけど。

 そして、定期的にこの屋敷に巣くっているG達を誘導して焼却炉にダイブさせているけど。

 いや、考えてみれば私の能力って、それしか無いような……いやいや、言語理解も立派な勇者の力よ。初めて接触する国とだって、私がいれば意思疎通が出来ちゃうんだから。

 そう、これは立派な勇者の仕事よ。


「頑張って通訳して来ます!」

 そう、これは勇者である私にしかできない仕事。

 私の、この勇者の力は、皆に求められているんだ。

 私は力いっぱい床を踏みしめ、テレビ電話がある部屋に向かった。



      ◆      ◆


【忘れられた人達】


「おい。伯爵様は俺達の事を忘れているんじゃないだろうな」

 スピニーヤ王国のコロンボ艦長と直属の部下達は、今は牢獄で過ごしていた。

 カデン領の監獄に連れて来られて二ヵ月。全く音沙汰が無いのである。

 まあ、最初の一か月は日の差し込まない地下牢暮らしだったから、それに比べればここは天国だ。牢屋の中は明るいし、午前と午後には軽い運動のために中庭に出る事が許されているうえ蹴鞠などの遊具を使う事も許されている。

 だが、彼の部下たちで操船技術を持った者達は、カデン領の海軍への指導をするため、ある程度自由に外で動けるのに比べて、囚人として監獄に囚われ続けるのは苦痛だった。

 あのスピニーヤ王国語を話せる嬢ちゃん、この国の偉い人と掛け合ってくれるって言っいたんだが、今はどのような状況なのだろうな。


「皆さぁぁん。今日は皆さんの国から来た別の兵隊さん達を連れてきましたぁぁ」

「何と」

 噂をすれば影。あのお嬢ちゃんだ。

 しかも、スピニーヤ王国の兵隊を連れて来たとのこと。

 それは嬉しくもあり、あまり嬉しく無くもある。

 新たな艦隊がここに来たと言う事は、国が自分達を心配して数か月後に艦隊を追加で派遣してくれたと言う事だからだ。

 そして、彼等も自分達と同じように、この国の空飛ぶ乗り物や連射する鉄砲により敗北を()した事を意味する。

 まあ、それでも自分たちが旅立った後の国の情勢くらいは知る事ができる。


 だが、そんな期待は見事裏切られた。

 彼女の後に続いてやってきた者達が着ている軍服で分かる。


「ポルート国の海軍じゃねえかぁぁぁぁぁぁ!!」

 どこをどう間違えたらスピニーヤ王国の者と間違える?

 言葉は似通っていて、ある程度意思疎通はできるが、聞けば違う言語だって分かるだろう?

 しかも、停戦中とはいえ敵国だぞ?その国の軍人と同じ監獄に入れるか?普通。


      ◆      ◆


【アミエーリオ王子】


「くそっ!軍事だけでなく経済も、あの混ざり者に牛耳られてしまった」

 彼が投げつけたガラス製のグラスが砕け、ワインが床に撒かれる。

「王子。お気持ちはお察ししますが、今は堪えて下さい」

 そんな彼を、従者たちがなだめる。


 アミエーリオ第三王子。

 スッポンポン王子ことペルペティーオ王子が失脚した今、王位継承権第二位となっている。

 そして彼もエルフ主義者だ。

 いや、正確には兄であるアミエーリオの影響で、ペルペティーオがエルフ主義者になったのだった。


「いつまで待てばいいのだ!?」

「そ、それは王国がカデン領への借金を返し終わるまでで……」

「それはいつだ!?何十年?何百年後か?」

 平均寿命が七百歳のエルフにとって、数十年はあっという間だ。

 しかし、苦汁をなめ続けるには十年でも長すぎるのだ。


「え、えーと、このまま財政を引き締めれば、三百年後には……」

「ふざけるな!それまであの混ざり者にこの国を好き勝手させ続けろと言うのか?」

 彼が怒るのも無理はない。

 五日後に控えている年末パーティーは、カデン領から派遣されて来た財政担当により大幅に規模が縮小されたのだった。


 その上、王子達が使えるお金も大幅に削られていた。

 これに関しては、ホーズア王の判断だ。

 国が大きな借金を背負っている中、未来のホーズア王国を担う子供たちも節約の意識を持つべきとの考えからだ。

 しかしアミエーリオは、これもカデン領から来た財務担当によるものと思い込み、逆恨みをしていた。


「待てよ」

 アミエーリオは、ふと何か閃いたと言う顔をしたあと、ニヤリと口角を上げた。


「カデン伯爵が()()()()などで死んでしまったら、あの混ざり者への借金は帳消しになるし、俺達がこんな貧乏くさい思いをしなくても済むんじゃないか?」

 その発言に、何人もの従者たちが顔色を変える。

「アミエーリオ王子。そのような発言は……」

 このような多くの従者たちがいる場所で、そのような発言をすれば、そのすぐ後にカデン伯爵が命を落とした場合、宮廷魔術師達によって自白させられてしまう。

 そうなると、もし王子の関与が立証されれば、それを知って止めなかったとして自分達も罪に問われるのだ。

「黙れ!!」

 だが、アミエーリオは忠告しようとした従者を一括した。


「そう言えば、あの組織の連中は元気かな?」

 不気味な笑顔を傍らの護衛騎士の一人に向けると、その騎士は無言で頭を下げてから王子の部屋を後にした。



 ――五日後の年末パーティー


「帝国が攻め込んで来た時は、もうダメかと思いましたが、さすがカデン伯爵ですな。彼女がいればこの国は安泰です」

「ああ、そうだな。こちらから無謀な戦争を始めなければ、彼女はこの国を守るために大いなる力を使ってくれるそうだ」

 ホーズア王が他の上流貴族達と交流している時、それは起こった。


「だ、誰か!助けて下さい!!」

 衣服を引き裂かれた王城のメイドが、下着がはだけないように裂けた胸元をしっかりと抑えながら会場に入って来た。

 その様子にデジャブを感じた国王は、動きを止めて彼女が入って来たドアを見つめた。


「はははは♪逃げても無駄だよ、子猫ちゃん。さあ、大人しく俺の子供を身ごもるんだ」


 赤ら顔で、手にワインの瓶を持って、全裸で会場に入って来たアミエーリオ王子に、ホーズア王は両手で顔を覆った。

 そして、「地下牢に放り込んでおけ」と小さくお付きの者に指示を出した。


 このパーティー以降、「ホーズア王家は下半身で物を考える」と言われる事になったのは言うまでも無かった。。

 そして余談だが、ホーズア王家の暗部組織の一つが、メンバー全員の突然の失踪により、事実上壊滅となるにはそれから一月後だった。

スッポンポン王子2号の誕生です。

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[一言] >スッポンポン王子2号の誕生です。 ・嫌な王子が増えた。_ : (´ཀ`」 ∠)
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