1 ハーフエルフっ娘、転生する
砦での戦闘の六か月前。
一人の少女がベッドに寝かされていた。
「ここは……どこ?」
目を覚ましたその少女、小牧詩織は見知らぬ天井に困惑した。
(えーと、何がおきたの?)
周りを見渡すと、病院?いや、診療所のようだった。
「痛っ!」
上半身を起こすと、頭に激痛が走る。
頭に手を当てると、包帯のようなものが巻かれていた。どうやら怪我をしてここに運ばれて来たようだ。
「フォーリィ?」
詩織を看護していたのだろうか。椅子に座って、彼女が寝かされていたベッドに身体を預けて寝ていた少女が目を覚ました。
歳の頃は一六歳くらい。
(人…間…?)
詩織が驚くのも無理はない。何故ならその少女は青み掛かった銀髪に青眼の超美少女だったからだ。
「フォーリィ、良かった。全然目を覚まさないから心配したんだから」
少女に抱きつかれて詩織は困惑する。
(誰っ、この娘?それにフォーリィって?)
胸元に抱きついてきた少女に困惑しつつ、詩織は違和感を覚えた。
(私の胸が大きくなってる。って、驚く所はそこじゃない)
自分の髪が、その少女と同じ青み掛かった銀色になっていた。しかもかなりのロング。
ちょっと試しに引っ張って、それがカツラでない事を確認する。
パニックになった詩織が辺りを見回すと、壁の張り紙が目に入った。そこに書かれている文字は平仮名でもアルファベットでもなく、今まで見たことも無い変わった文字だったが、不思議とその意味は理解出来た。
私は何処にいるの?ここは本当に地球?って言うか、そもそも私は誰?この髪は?
「私は……何処!?ここは?誰!?」
混乱して上手く言葉を纏められない自分に、抱きついていた少女は顔を上げた。
「…………せ…………先生!フォーリィがおかしくなった!」
「つまり、フォーリィさんはこれまでの記憶が全く無いと……」
「はい……」
医師の質問に、そう答える詩織。
地球での記憶はあるが、それを口にしたら本当に気が触れたと思われてしまうので彼女は黙っている事にした。
「先生、フォーリィは……」
目の前の少女は心配そうに医師を見る。
「まだ何とも言えません。頭を打ったショックで一時的に記憶を失っているかも知れません。暫く様子を見ましょう」
医師はそう言い残して部屋を出ていった。
残された二人は顔を見合わせる。
「…………」
「…………」
沈黙が流れる。
「あ、あの……」
沈黙に耐えられなくなって詩織が口を開く。
「貴方は私の家族の方ですか?」
少女は一瞬とても辛そうな顔をしたが、すぐに作り笑顔を浮かべる。
「私はヴェージェ。貴方のお姉さんよ」
ヴェージェは色々と話してくれた。彼女は詩織の、つまりフォーリィの一つ上の姉で、更に三つ上の兄ラトゥールと、四つ上の姉ルーフェがいること。そして二人とも既に結婚して家を出ていて、フォーリィは共働きしている両親とヴェージェの四人で暮らしている事。
「で、フォーリィは学校の魔力検査で、優れた魔法の才能を認められて――」
ここでヴェージェがとてもファンタジーで素晴らしい単語を口にした。
魔力検査。
それは前世では実在しなかった魔法が、この世界にはあると言うことだ。
そして自分は魔法が使える。それもかなり優秀。フォーリィは踊りだしそうな衝動を懸命に抑える。
「そして、一四歳で成人を迎えると同時に魔法騎士団に入団したの」
「一四歳で?」
魔法騎士団員だった事も驚きだが、それよりも成人年齢が一四歳というのがとても気になった。
そんな歳で成人となると考えられるのが……
①一年が地球に比べて永い
②頻発する戦争などで若者の死亡率が高い
後者だと、戦争に駆り出される可能性が高い。
「そう言えば、ここは病院ですよね?」
「フォーリィ、姉妹なんだから敬語はいらないわよ」
そう言ったヴェージェの笑顔に悲しさが滲んでいた。
それを見たフォーリィは慌てて言葉遣いを直す。
「えっと、こんな感じで良い?」
「うん。それで良いわ」
砕けた話し方と言っても色々あるが、まあ、ヴェージェと同じような話し方をすれば良いだろうし、そこの所は少しずつ慣れていくしかなかった。
「それで、ここは病院だよね。なんか私怪我してるみたいだけど、何があったの?」
魔法騎士団員と言う事は、戦争で怪我を負った可能性があり、それは今後も危険に晒される事を意味している。フォーリィはその事を心配していた。
だが、ヴェージェの答えは右斜め上を行っていた。
「貴方は火竜との戦いで怪我をしたと聞いてるわ」
「か……火竜?」
いくら魔法有りのファンタジーな世界とは言え、まさかドラゴンまでいるとは彼女は想定していなかった。
「そうなんだ……ま、まあ、火竜の攻撃を食らって、この程度の怪我で済んだのは不幸中の幸いよね」
相手はドラゴンだ。地球の知識通りのモンスターなら、死んでもおかしくない相手である。
「あ……その……えっと……」
ヴェージェが何故か気まずそうな顔をする。
「ん?まさか火竜と戦う前に雑魚にやられて負傷したとか?」
「違うわ!貴方の攻撃魔法で火竜に致命傷を与えられたから楽に倒せたって、アルニー団長も感謝していたわ」
「?」
イマイチ話が見えて来ないフォーリィは首を傾げる。
「その……ね、貴方が大攻撃で火竜に深手を追わせて地面に叩き落とした時にね……その……貴方が火竜にトドメをさそうとして、走り寄った時にね――」
ヴェージェはフォーリィから目を逸らして言葉を続ける。
「何も無い所で派手に転んで、近くの岩に頭をぶつけたらしいの」
「なっ?」
「何なの?そのドジっ娘キャラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
火竜に致命傷を負わせただけでも大活躍なのに、功を焦って自滅。しかも何も無い所で転ぶとか、とんだ赤っ恥物の話を聞かされて、フォーリィは顔を真っ赤にして頭を抱えて叫んだ。