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179 ハーフエルフっ娘と戦後1

 帝国軍が退却を始めると、各領地は帝国軍の反転を警戒しつつ、復興作業を始めた。


 アンジェラトゥ子爵の義伯父の領地では、領都を守る北門と石壁が崩壊したため、急いで土嚢などを積んで外敵にそなえ、その傍らで石壁の修理を行っていた。


 大河……いや、かつて大河だったミシャッシプ川は、歩いて渡る事こそできないが、その水量は十分の一まで減ってしまったため、干上がった岸部に取り残された渡し船の移動と、簡易船着き場の建設に領民達が追われていた。

 更に、ミシャッシプ川に流れていた湧き水の大半が、今は新しく出来た巨大な湖に溜まり、地下を通ってどこかに流れて行ってる。

 一部、地下に流れきれなかった水は、帝国軍が進行に使った渓谷に流れ込んでしまい、その先の林に大量の水が流れ込んでいた。いずれ林の木々は根腐れし、新たな川となるだろう。


 ミシャッシプ川より西側は、水路まで水が行き届いていないため、畑が干上がり始めていた。

 その上、いくつかの領地が帝国軍により領主不在となってしまったため、領民達は大混乱となっていた。

 まあ、帝国との停戦協定を結ぶ際は、この西側の領地は正式に帝国に併合されるだろうから、今後発生するだろう不作などは王国が心配しても仕方がない事なのだが。



 一方、王都では……


「返却……ですか?」

 王城に呼ばれた国王軍騎士団長は、ホーズア国王の前で青い顔をしていた。

 国王の後ろにはフォーリィが佇んでいた。


「ああ、カデン伯爵が、国王軍騎士団が伯爵から没収した武器などの返却を求めている」

「あ、あの、その武器はシプレストゥール伯爵様にお渡しして……」

 騎士団長が、そう答えると、ホーズア王が彼をギロリと睨む。

「つまりお主は、カデン伯爵から没収した武器を無許可で他の貴族に横流ししたと言うのだな」

 その声には怒気が含まれていた。


 この話は国王にとって初耳だった。

 カデン軍の武器の規格外な破壊力は、これまでの戦いをテレビ中継で観て知っている。

 その究極系が、先の戦いでカデン軍が見せた『神の審判』だ。

 もし、アレと同等以上の武器が持ち出され、シプレストゥール伯爵に渡されていたとしたら、今頃帝国の手に渡っている可能性もある。

 目の前の男が、独断でカデン軍の武器を横流しして、フォーリィ達の管理下から外れているとなると、それは新たな国家存亡の危機と成り得るのだ。


「そ、それは……」

 騎士団長は口ごもる。

 言えるはずも無かった。九番(ナイン)からの指示だなどと。

 そんな事をすれば、自分は組織から死ぬより恐ろしい目にあわされるのが目に見えていた。


「ここに預かり証が二枚ある。一つはカデン領の空軍で……何々?竹飛竜(ヘリコプター)が五十機、ジープ?が三十台、ト、トラック?が四十台、魔道筒状連射武器アサルトライフルもどきとやらが三十丁、弾丸二万三千個、重機関銃?が四門と弾丸三万五千。全て稼働可能状態で破損無し。そしてもう一枚が……」

「ちょ、ちょっと待って下さい」

 書かれている単語の意味を殆ど理解しないまま読み上げる国王に待ったを掛ける騎士団長。

 国王の言葉を遮るなど、臣下としては有るまじき行いなのだが、没収していない物まで含まれている事に、騎士団長は思わず声を上げてしまった。


「竹飛竜は没収していません!我々では満足に動かす事ができませんでしたので、その場に置いて行きました」


「カデン伯爵。このように言っているが」

 振り返り、確認する国王に、フォーリィは眉尻を下げて困った顔をする。

「国王様。押収した武器などを彼がどこに放置しようと、正式な手順を踏んで返却されていません。現にカデンの領民達から、王都に繋がる街道や、その付近の畑にトラックなどが放置されていたとの苦情がたくさん寄せられています。カデン領としては、王国がそれらの武器や乗り物を回収して私達に返却する事を求めます。没収された武器をこちらが勝手に手を出す訳にはいきませんので」

「うむ。確かに没収した武器の保管、管理は国王軍騎士団の責任だな」

「そ、そんな……」



「連れて行け」

 結局、没収した物品の返却どころか、その所在も明らかにできなかった事から、国王軍騎士団長は横領の罪で連行されて行った。


「ところでカデン伯爵。騎士団が持ち去った武器の中に、先日の……『神の審判』だったか?あれ位の破壊力のものは、あったのか?」

 とても重要な質問だった。

 シプレストゥール伯爵に武器を渡したとなると、それは当然、帝国の砦攻撃に使われたのだろう。

 そして彼等が敗戦し、放棄していったカデン軍の武器の中に、あのような大規模な破壊をもたらす物があったとしたら、彼等はいつでも王都を壊滅させる事ができると言う事なのだから。


「いいえ。騎士団が押収した武器は、全てサリデュート聖教国との戦い以前から使われていたものばかりです」

「そうか。それは良かった」

 カデン軍の武器が帝国に渡っていたのだとしたら、脅威である事には変わりはないが、少なくともいきなり王都が壊滅するような事は無さそうだと判明し、国王は安堵の息を吐いた。



「それはそうと……」

 フォーリィは、ホーズア王に向き直り、ニッコリと微笑む。

 その笑顔に、国王はとても嫌な予感がした。

「騎士団長が武器などを横流ししたとは言え、正式に書面を交わして引き渡されたものですので、返却できないとなると、カデン領は王国に対して賠償を求めなければいけませんね」

「ま、まあ、そうだな。それで、賠償金はどのくらいになるのだ?」

「はい。詳しい資材リストと作業工数は後でお渡ししますが、竹飛竜は一機十三億クセル、鉄象(せんしゃ)が一輌六億クセル、ジープが一台二千万クセル、トラックが……」

「ま、待った、待った」

 ホーズア王が慌てて待ったを掛ける。

「そ、そんなに高いのか?あれらの魔道具は」

「そうですよ。だから私は散々戦争に参加するのを渋っていたのです。戦争はとにかくお金が掛かるものなのですよ。あと、作業工数に関しては、王国から監査員を派遣して下さい。実際に制作現場を見て頂いて、確認してもらいます」

 笑みを深めるフォーリィに、国王は背筋に冷たい物を感じた。


「長期分割払いでは……ダメか?」

 つぶらな瞳ですがるような顔を向けて来る国王。

 だがフォーリィはツイッと顔をそむける。

「ダメです。カデン領も、カデン・カンパニーに多額の借金をして、それらの武器を作らせているんです」

「だ、だが、竹飛竜だけでも総額六五〇億クセルなのだぞ。それをすぐ払えと言われても」


「国王様。そんな事を言ってて良いんですか?」

「良いのか……とは?」

「カデン軍に似た武器を携えた軍隊が、別の大陸から押し寄せて来るかも知れないんですよ?今、彼等を迎え撃てるように軍艦を作っているんです。だけど、お金が無いと製造を途中で止めなければなりませんよ?船も無しにどうやって彼等と戦えと言うのですか?」

「ぐっ……」

 小さく呻く国王。

 だが、シプレストゥール伯爵や、他の西側の領主達を止められなかったのは彼自身であり、友であり信頼を置いていた家臣でもあった宮廷魔術師に騙されて、フォーリィを捕える命令を出してしまったのも彼の落ち度だった。

 それは彼自身わかっていた。

 それでも、彼女に支払わなければならないお金は、例え国家予算をかき集めても、到底揃えられる額では無かった。


「ん?」

 国王は、ふと、ある事に気付いた。

「カデン伯爵は、どうやってそれだけのお金を用意できたのだ?領地の税収では、そこまでの収入は無かったはずだが?」

 ホーズア王はフォーリィを『無二なる御方』の御使いであると信じきっている。だから、彼女の言葉を微塵にも疑っていない。

 だが、辻褄が合っていないのも確かだった。

 だから、何らかの『無二なる御方』の奇跡が行われたのでは無いのか。そして、もしかしたら、その御力をもって王国も助けてくれるのでは無いのか、と言う淡い期待を持ってしまったのだ。


「カデン・カンパニーから長期ローンで購入しているんです。いわば、借金です」

 だが、フォーリィからの答えは、そんな小さな希望すら打ち砕くものだった。


「だけど、これ以上のローンは難しいですね。あまり無理をすると、カデン・カンパニーの蓄えが底を付きますので、戦艦を製造するための資材さえ調達できなくなります」

「そ、そうか……でも全額一括でと言うのは難しい。こちらでも払えるプランを財務官達とまとめたいのだが」

 全額は無理だったが、王国は次の戦いに向けて、フォーリィにある程度まとまったお金を払う方向で調整する事になった。



 そして二十日後、緊急テレビ中継で、国王自ら国民に発表する事となった。


『……では、ホーズア国王様から説明をお願い致します』

 テレビ事業カンパニーの看板アナウンサーのホシャロンは、現在のミシャッシプ川近辺の地形の変化や復興状況を、映像を交えて説明した後、映像を国王側に引き継いだ。

 玉座に深く腰を掛けるホーズア国王。

 そしてその後ろには新宮廷魔術師や新宰相、将軍達が並ぶ。

 その中、国王の斜め後ろにはフォーリィが社交的な作り笑顔で佇んでいた。

 前回、国王が暴走して突然アンジェラトゥ子爵との婚約発表をしたため、今回はフォーリィがすぐ近くにいる事を条件に、テレビ中継を引き受けたのだった。


『我が国民の皆、すでにテレビで何度も報じられているが、我が国はヴェジェルータ帝国から侵攻を受け、多大な被害を受けた』

 ここで国王は、シプレストゥール伯爵の侵攻の失敗が原因などとは言わない。

 対外的にも公式にはホーズア王国側から侵攻の企ては無かったとする事は、フォーリィも聞いていて、それに不満はなかった。

 国家の言動は、個人とは違って感情よりも面子や利害によって決定付けられるのだ。


『シプレストゥール伯爵達が行った軍事演習が、あまりにも帝国の砦に近過ぎたため、我々が侵攻を開始したと勘違いした帝国が、我が国に侵攻してくる結果となってしまった』

 詭弁であるが、フォーリィの逮捕によってテレビ中継による宣戦布告が行われなかった事と、砦への攻撃が行われる前にシプレストゥール伯爵軍が自爆した事を利用し、開戦前の帝国側の早とちりで帝国から侵攻を受けたと言い張る事にしたのだった。

 勿論、帝国はそんな言い訳を受け入れるはずは無いのだが、こちらも譲らなければ平行線に持っていく事ができる。帝国側としても、不服だからと言って、また侵攻してくる経済的余裕も無ければ、その再侵攻で得られる物も少ない。

 国王と王国のブレイン達、そしてフォーリィも交えて話し合い、そのような結論に達した。

 その結果を踏まえて、ここ数日は両国の代表者達が集まって、責任のなすり合いの最中だったりする。


『現在、帝国との停戦協定に向けた話し合いの最中だが、最終的にはミシャッシプ川の西側に新たに出来た「神の審判川」より西側を帝国に割譲する事になる』

 この新しい川は、帝国が侵攻して来る時に通った渓谷を流れ、林を水没させ、更に隣の領地の真ん中辺りで南下してミシャッシプ川と合流する新しい川だ。

 最初は新しく出来た巨大な池から溢れた水が流れ込んで出来た小さな川だったが、十日目ごろには複数個所から大量の湧き水が溢れだし、今ではミシャッシプ川の上流よりも水量が多くなっている。


 帝国としても神の審判川より東側を譲渡されても実質的な飛び地となり不便であるため、それよりも次回停戦協定が破られた時の罰則や、帝国からの輸出品に課せられる税金の優遇などを求めた方が良いと考えている。


 その後国王は、神の審判川より西側を統治していた領主達の処遇を帝国に委ねる事や、ホーズア王国に戻りたいと願う領民達の受け入れなどを説明した。


『そして最後に、此度の最大の功労者であるカデン伯爵についてだが。褒章を与えようにも与える土地も無ければお金も無い状態なのだ。実は、王国騎士団長がカデン領の武器などの資産を勝手に横領し、回収不能な状態になっているため、王国はカデン伯爵にその賠償金を借金している状態なのだ』

 国王の言葉に、国民は不安半分、怒り半分と言った感じだった。

 不安は、国の財政状況に対するものだ。武器と言えば剣や槍、そして大掛かりな攻城兵器くらいしか無いこの世界、横領された武器の弁償だけで国が傾くと言われれば、国がそれだけ貧乏だったのかと思うのも当然だった。

 国民はカデン軍の兵器の値段など知らないし、フォーリィや国王もそれを公表するつもりは無いので、国民の勘違いは正される事は無いだろう。


 そして残りの半分、「怒り」だが、それはこれまで散々国の為に尽くして来た彼女に対して褒章を与えるどころか、逆に彼女から借金をする王国に、そして救国の英雄の武器を奪って横領した騎士団長に対する怒りだった。


『そのため、彼女への褒章と借金返済のため……』

 そこで国王は言葉を止め、軽く目を閉じた。

 そして再び目を開けると、その瞳には意を決した覚悟が宿っていた。


『王国を全て、フォーリィ・ルメーリオ・カデン伯爵に譲渡して、王国はカデン領の属国に……』


――バッチィィィィィィィィィィィン


 突然、大きな音が響き、国王の頭上の冠が床に転がった。


 その後ろ、フォーリィが手を振り切った状態で止まっていて、その顔は、笑顔なのだが怒っているようにしか見えなかった。


国王がまた暴走。

さあ、フォーリィはどう収拾を図るか?

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[一言] 国王がまたやらかしました。(呆)
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