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169 ハーフエルフっ娘の反撃4

今回、だいぶ執筆が遅れました。

全体の話は決まっていたんですが、今回はちょっとした言葉の使い方にも気を付けなければならないシーンばかりでしたので、何度も書き直しました。

「フォーリィ。いったい何が起こっているの?」

 ホーズア王の発表から二時間後、疲れ切った顔でカデン領に戻ったフォーリィにヴェージェは心配そうに声を掛けた。

 リビングには、緊急放送を観た彼女の家族が全員集まっていた。


「伯爵様。まさか伯爵様が僕たちの結婚を国王様にお願いして下さっていたなんて知りませんでした」

 そしてただ一人、嬉しそうな締まりのない顔をしているアンジェラトゥ子爵。

「あんたは、どこまで頭の中お花畑なのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「げふっ……」

 そんな彼のみぞおちに、フォーリィに拳がめり込んだ。


「……な……何が……?」

 苦しそうにしながらも、訳が分からないと言う顔を向けるアンジェラトゥに、フォーリィは深くため息を吐く。


「アンジェラトゥ。あなたの領地は王都から見てどの位置にあるの?」

「え?……えっとぉ……隣?」

 その答えに、フォーリィは再び深いため息を吐いた。

「東西南北の方角よ」

「ひ、東です……けど?」

 まだ理解出来ていない彼に、フォーリィはうんざりした顔を向ける。

「そう、東ね。それでカデン領はどの方角に位置するの?」

「えっとぉ、北。いや、東です」

「北と東ね。そして南側にはアルプレス山脈がそびえ立っているのよね」

「えっと、それが?」

 ここまで説明してまだ理解出来ていないアンジェラトゥに、フォーリィは再度ため息を吐く。


「あなたも私も領主として領地を持っているわよね。そして互いの領地は公爵領としては小さいわ。そのため、国王は私達の領地を統合して公爵領にすると言っているのよ」

 ここまで言われ、アンジェラトゥはハッとした顔になった。

「それって、僕たちの領地が王都を取り囲む形になるじゃないですか」

「そうよ。本当は今日、遷都(せんと)についての発表を行う予定だったのよ。やっとの思いで説得に成功したと思ったのに。それなのに、いきなりの養子縁組と婚約発表よ。つまり、自領と共に王都を守れって事なのよ」

 遷都を決意する条件として、国民に向けて謝罪と経緯の説明を自ら行いたいとホーズア王が言って来た。

 そして、彼の決意のこもった目を見て安堵したフォーリィがテレビスタッフを呼んで緊急放送を行ったのだが、ホーズア王の決意は彼女が思っていたものと違っていた。結果、国王の爆弾発言により、生中継が仇となってしまっていた。


「伯爵様はこの婚約、お断りするのですか?」

 心配そうに、仔犬のような目を向けて来るアンジェラトゥに、洗脳魔法の効果が残っているフォーリィのハートがドクンと跳ね、胸を熱くするが努めて顔に出さないようにする。

「断れるわけ無いじゃない。国王様が公の場で発表した事よ。つまり国王命令なの」

「じゃあ」

 ばあっと花が咲いたような笑顔になったアンジェラトゥ。

 そんな彼を視界に捉えないようにフォーリィは顔を逸らす。


「まあ、婚約はほぼ決定ね」

 そして家族全員に視線を向けて「だけど」と言葉を続ける。

「婚約期間は一年として、その間は王都もアンジェラトゥ子爵領も守る気は無いから、結婚前にアンジェラトゥは領主でも貴族でも無くなるんだけどね」

「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」

 アンジェラトゥとその護衛騎士達が驚きの声をあげる。

「当たり前でしょ?自分の領地くらい自分で守りなさい。そのための領主でしょ?何、最初から他の領主を当てにしているのよ」

 くるりと振り向いた彼女は心底呆れた顔をしていた。

「私、自分を守れないような人は嫌いよ」



「いいの?あんなキツイことを言って。顔面蒼白で帰って行ったわよ」

 心配そうな顔を向ける母、アントゥーリアに、フォーリィは眉尻を下げる。

「なんか、最近ますます甘えられている気がするのよね。もう五十三歳なんだから、そろそろ家族を守るという気概くらいは見せないと、家臣の心は離れて行ってしまうわ」

 少し拗ねたような顔をするフォーリィに、アントゥーリアは軽くため息を吐く。

「『家臣の心』じゃなくで、『あなたの心』でしょ?あなたには男心が分かってないわ。いいから、こっちにいらっしゃい。お説教よ」

 アントゥーリアは、彼女を引きずられるように自分の執務室に連れて行くと、内側から鍵を掛けた。


(しかし、まあ。お前、2の月(デュオバー)に十九歳になったばかりだろ?五十三歳の相手って、地球だったら結構噂になるレベルの歳の差だよな)

 アントゥーリアの姿のまま、兄弟子は呆れたように言った。

(エルフやハーフエルフの平均寿命は七〇〇歳だから、これくらいの歳の差は珍しくないわ。どちらかと言うと、この歳で結婚と言うのが問題だと思うわ、私は)

 エルフは大体、五十歳くらいで成長が止まる。ハーフエルフに関しては、どのくらい他種族の血が混ざっているかにもよるが、四〇〇歳から七〇〇歳くらいまで生きられる。

 特にフォーリィ達家族のように銀髪掛かった髪のハーフエルフは七〇〇歳くらい生きると言われている。

(まあ、三〇〇年前の激しい戦争でエルフやハーフエルフの人口が激減した事により、身体が成長しきっていない十四歳を成人としなければならなかったのは理解出来るけど)

 ハーフエルフの結婚適齢期を考えると、十代で結婚した彼女の兄姉は、かなりの早婚だったと言える。


(それで、お兄ちゃんはこの婚約騒動をどう見る?)

 フォーリィの問いかけに、兄弟子はアントゥーリアの顔で暫し考えてから口を開く。

(単に王都の西側の領地と言うだけなら、アンジェラトゥを養子にする必要は無いな。だが、アンジェラトゥがホーズア王の隠し子だったとしたら、全て辻褄が合うんだがな)

(でもお兄ちゃんが調べた限りでは、公式発表通りホーズア王の甥なのよね?実の息子は何人もいるのに、甥に王座を譲るなんて変よね)

 アンジェラトゥの母親はホーズア王の妹で、当時公爵だった前アンジェラトゥ領主と結婚したのだった。


(アンジェラトゥが生まれたのが五十三年前と言うと、失われた十年が終わった頃ね)

 失われた十年とは、ホーズア王の指示で行われた農業改革の失敗で、飢饉が起こり、その後の疫病蔓延で国力が大きく下がり、多くの国民が苦しんだ十年間を指す。

(そもそも、あの人災は、改革に不満を持った貴族達にハメられたって感じよね)

(ああ、肥しの使用や輪作によって畑を休ませるなんて、収穫量を増やすには当たり前の事だしな)

 以前フォーリィが、当時の事を知る農家の人達に話を聞いたところ、あり得ない量の家畜の糞を何の処理もせずそのまま畑にまくように指示されたり、ある年には一斉に小麦の栽培を止めさせて綿の栽培を指示されたりしたとの事だった。それは、貴族達がわざと改革が失敗するようにしていたように思えた。


(表には出ていないけど、他にも政治や経済面で改革を強行して、貴族達の反感を買っていたのかしら)

 王国の黒歴史として関連資料を全て廃棄していたら、調べるのは不可能とは言わないが、かなり困難だろう。

 どちらにしろ、今すぐ調べなければならない事でも無いので、改革失敗の原因についての追及は、一旦保留する事にした。


(その改革を進言したとして、当時公爵だったアンジェラトゥ家が子爵に降爵されたけど、おかしいわよね。農業改革なら、アンジェラトゥ家も当時は広範囲な農地を持っていたんだから、自領で試せば良かったのに)

(改革案が王族の中から出た可能性もあるな)

(そして、国民の怒りが王家に向かないように、アンジェラトゥ家が罪を被った?)

 それは自ら望んだことか、それとも王命によるものか。

 そもそも、改革が王家の中から出た案と言うのも、今のところは憶測でしかない。

 分かっているのは、この改革の失敗で、当時改革に猛反対していたストラペイオ伯爵が侯爵に昇爵してアンジェラトゥ公爵領の東側の広大な農村地帯を手に入れた事だった。


(お兄ちゃん。すぐにアンジェラトゥ子爵領に行って子爵の母親に『フェニックスの涙』を使って)

 兄弟子に自白剤を使って聞き出すようにお願いする。

 兄弟子も、何を、とは言わない。訊くのはアンジェラトゥ子爵が自分の本当の子供かどうかだ。

 だがそこで、フォーリィはある可能性を思いついた。

(お兄ちゃん。アンジェラトゥ子爵が前アンジェラトゥ子爵の子供かどうかも確認しておいて。一応)

 兄弟子がアントゥーリアの顔でピクリと眉を動かす。

(国王との近親相姦……いや、隠された側室か?となると、国王の妹と言うのが嘘だったか、もしくは入れ替わったか?)

 どうやら兄弟子は彼女の考えを理解したようだ。

 フォーリィは他の可能性も考えたが、口にはしなかった。

 彼が色々調べてくれるだろう。

 後は、彼に任せる事にした。

(分かった。となると、あの取り調べに参加していた貴族の数名も何か知ってそうだったから、そちらも調べないといけないな)

(うん。お願いね)


(しかし、もしアンジェラトゥが国王の実子だったとしても、あのようすだと全て私に丸投げして現王家諸とも命を捨てるかも知れないわ。全て諦めたような、それでいて何かに取り憑かれたように、私を見るのよね。まるで崇拝するように)

 フォーリィはそう言って、眉尻を下げる。

 彼女としても、王国を押し付けられるのは困るのだ。

 それでなくとも短期間で一気に伯爵まで登り詰め、領地改革が全然追い付いていないのだ。

 そんな状態で、今度は国家丸ごと抱えろと言われても、有難迷惑だった。

(それは、天使であるお前が王都を守らないって宣言したから、神に見放されたと思ったんだろうな)

(止めてよ。これまで何度も王都を守って来たけど、天使なんてガラではないわ。どちらかと言うと戦乙女ね)

 彼女の言葉に、兄弟子はアントゥーリアの顔で目をパチクリさせる。


(気付いてなかったのか?お前、蘇生の魔法を使うと天使の翼と頭の輪っかが出てるぞ)

 フォーリィの動きが止まる。

 そして瞬き二回。

(……マジ?)

(ああ、マジだ)


 フォーリィはアゴに手を当てて暫らく考え込む。

 そしてその後、彼女は顔を上げると、兄弟子に抱きつき彼の腰に手を回した。

(お兄ちゃん。教えてくれてありがとう♪)

 天使のような笑顔を向けるフォーリィ。

 だが付き合いの永い兄弟子は騙されない。

(こら、離せ。何を企んでる?)

 次の瞬間、彼等を取り囲むように数十本ものオレンジ色の矢が現れ、一斉に射出された。


 フォーリィの新しい異次元魔法(エキストラマジック)無限カタパルト(アイシー) と増殖型であるオレンジの矢の複合自滅攻撃だ。

 フォーリィや兄弟子クラスだと、相手が暗器などを使おうとすると、動作に入る前に何らかの対抗措置を行うが、無限カタパルトの起動時間の短さと、逃げ道の無い攻撃、そしてフォーリィに取り押さえられていて反応が一瞬遅れたため、まともに攻撃を食らってしまった。


(お、お前……いくら無敵の再生能力を持っているからって、自滅型かよ……)

 辛うじて急所は避けたが、矢が消えた今、全身から大量の血が噴き出ていた。

(大丈夫、すぐ治すから)

 瞬時に自己再生したフォーリィは、ニコニコ笑顔で(さや)を出現させると、兄弟子に押し付けた。

 すると、逆再生したかのように、見る見るうちに兄弟子の傷が治って行く。


(やだ、本当に天使の輪と翼が出てる。これを見られたからサリデュート聖教国でも聖騎士団員達は私を崇拝するような行動をとったのね。失敗したなぁ)

 兄弟子を治療しながら、部屋に設置されている姿見で自分の姿を確認したフォーリィは、げんなりした顔をする。


(今後は、無暗に人前で使わないようにしないといけないわね)

(翼を確認するだけだったら別に俺を傷つける必要ないだろ?)

 アントゥーリアの顔で目を吊り上げる兄弟子に、フォーリィはニッコリと笑う。

(ついでに新しい技のお披露目と、この技を使ったらお兄ちゃんに勝てるかなぁ、と思って)

(おい!)



「ママ!フォーリィ!どうしたの?」

 その後、ボロボロの服で執務室から出た二人を見て、フォーリィの家族はギョッとした。

 するとフォーリィは父、スタニェイロに駆け寄って抱きついた。

「パパ。ママったら酷いのよ。容赦なく魔法で攻撃してくるの。私は魔法が使えないのに」

 今にも泣き出しそうな声、だが彼女はグリグリと彼の胸に頭を押し付け、とろけるような顔をしていた。

「何が『魔法が使えないのに』よ。スタニェイロ、これ見てよ。これだけ激しく暴れたのよ。この娘、全然悪いとは思っていないんだから」

 頬を膨らませて訴えるアントゥーリア。

 服がボロボロになるまで酷い喧嘩は今まで無かったが、フォーリィが自分が悪くないと思った時には母に激しく抵抗するのは、これまでも度々あったので、家族の皆は特に何も言わず、ため息を吐くだけだった。



      ◆      ◆


『お兄様。誰かが責任を取らなければ事態は収まらないわ』

『だが、お前を犠牲にするなんて、できるわけ無いだろう?』

『いいえ、これは私がやらなければならないの。今朝、『無二なる御方』からご神託を受けたの。いずれお兄様の前に、『無二なる御方』によって遣わされた天使様が現れるって』

『何を言っているんだ?』

『いいから聞いて。ご神託によると、あの人の子供とその天使様を合わせるようにって。そうしなければ、この国は近い将来滅びるだろうって』

『国が滅びる?』

『そう。だからあの人を、私として王城から逃がして』



 そこで目が覚めた。

 辺りは真っ暗だ。

 また、あの日の夢。

 妹を最後に見た日。


 あれから多くのものを失った。

 若い頃から親友と思っていた宮廷魔術師と宰相。今まで悩み事は彼等に話していた。

 だが宮廷魔術師は自分を殺そうとした。そして宰相も何も言わずにどこかに行ってしまった。

 今は、悩みを聞いてくれる者は誰もいなかった。


 あの日、妹が言った通り、天使様は現れた。

 だが、遅かったのかも知れない。

 まさかカデン伯爵が天使様だとは思わなかった。

 今まで散々、彼女を利用してきた。そして彼女の忠告は無視してきた。

 見限られても仕方がない。

 一応ご神託に従って、あの人の子供を天使様に合わせたが、当の天使様は自分たちを見限っているようだった。


 そう、何もかも遅すぎたのだ。


 願わくば、天使様が王家を見捨てても、この国を救って下さるように。



ご神託が下った妹。彼女については後に触れる予定です。

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