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162 ハーフエルフっ娘包囲網5

 さかのぼること八時間前。


「これで全部だな?隠したりしたら処刑される事もあるぞ」

「はい、これで全部です。騎士様達にも確認頂いています」

 空軍将軍の返答に国王軍騎士団長は顔が綻ぶのを堪えていた。

 彼の前に並べられているは五十機の竹飛竜(ヘリコプター)と、空軍所有の武器や弾丸が梱包されている木箱だった。

 この後、陸軍基地で鉄象(せんしゃ)なども受けてれるとなると、笑いが止まらない。

 彼は、にやけてしまうのを抑え、顔を引き締めていたが――


「では、この預り証に署名をお願いします」


 将軍の言葉に、一気に笑いが吹き飛んだ。


「何だ?預り証とは」

 騎士団長の疑問に、将軍は表情を変えずに淡々と言った。

「伯爵様は今はまだ容疑者の段階ですので、武器などの没収は罪が確定してからとなるはずです。そして、仮に無罪となり、これらの武器などが変換となった場合、数が合わないなどのトラブルが発生するのを避けるためです」

 もっともな意見だった。

 だが騎士団長としては、こんな書類に署名などしたくなかった。

 彼は上からの命令で動いているだけ……いや、伯爵にまで登り詰めた混ざり者から武器を取り上げられる事に喜んだが……それでも、自分がそれを決定した訳でも無く、ましてや謀反の容疑が掛かる経緯などは聞かされていない。

 今日、ここから持ち出す品々の総額がいくらになるかは分からないが、そんな責任など負いたくはなかった。

「むぬぬ……」

 苦渋に満ちた顔で暫らく書類を睨んだあと、それをひったくると乱暴に署名して、押し付けるように返した。

 カデン軍の武器を運び出す事。それが命令なのだから彼に拒否権はなかった。それに、例え伯爵の容疑が晴れたとしても、持ち出した物をそのまま返せば問題ないはずだ。

「では、竹飛竜が五十機、ジープが三十台、トラックが四十台、魔道筒状連射武器アサルトライフルもどきが三十丁と弾丸二万三千個、重機関銃が四門と弾丸三万五千。全て稼働可能状態で破損無し。確かにお渡ししました」

 無表情な将軍に、騎士隊長は腹立たしく思った。

 かと言って、勝ち誇った顔を向けてきたら、それはそれでもっと腹立たしいが。


「う……うむ。では、これらの武器や乗り物を、こちらが指示する場所まで運んでもらおう」

 騎士団長がそのように指示を出すと、将軍が不思議そうな目を向けた。

「騎士団長様。これは没収のための一時預かりですよね?」

「ああ、そうだが、それが何か?」

 騎士団長は将軍が何を言いたいのか分からず、首を傾げた。それを見た将軍は目を瞬かせた。

「国王軍では、例えば盗賊の容疑が掛けられた集団の武器を取り上げた後、その集団に武器を運ばせるのでしょうか?」

「!!」

 そこまで言われ、彼はやっと自分の失言に気付いた。

 竹飛竜が大きいうえ、彼等はそれを動かした事が無いので、ついついカデン軍が操縦して運んでくれると先入観を持ってしまっていた。

 だが言われてみれば、謀反の容疑が掛けられている貴族の武器を、その貴族の軍隊に運ばせるのは非常識であり、軍規違反でもあった。

 下手をすると、彼等がその武器をもって王城に乗り込み、謀反を成功させる事に繋がりかねなかった。


「くっ……列車で運ぶしかないのか。でも、王都から先はどうやって運べばいいのだ?」

「王都で保管されるのでは無いのですか?」

 彼のつぶやきに将軍の目が鋭く光る。

 それを見て、騎士団長はヒッと小さな声を漏らし、一歩後ずさった。

「シ、シプレストゥール伯爵領に、お、お、大きな倉庫がある。これらの武器は一時的にそこに保管される事になっている」

 怯えの混じった顔の騎士団長に、将軍はずいっと顔を近付ける。

「シプレストゥール伯爵領ですか?なぜ、わざわざ遠い西の端に運び込むのですかな?」

 その迫力に、騎士団長は更に一歩下がる。

「そ、そんなこと、お前らが気にする必要はない!」

 振り払うように腕を振る騎士団長に、将軍は数歩下がると、顔を引き締めて背筋を伸ばす。

「仰る通りです。失礼しました」

 あっさり引き下がった将軍に拍子抜けしながらも、騎士団長はどのように輸送しようか悩んだ。


 彼を暫らく見ていた将軍は、軽く溜息を吐くと彼に進言する。

「武器や弾丸の輸送でしたら、カデン・カンパニーの民間チャーター機を手配して、ここから旅客機で空輸する事もできます」

「旅客機?……ああ、あの王都とグァニューム子爵領を行き来している空飛ぶ魔道具か。確かにあれを使えばシプレストゥール伯爵領まで運べるな」

「こちらから連絡して、チャーター機をここに寄越してもらいましょうか」

「おお、有難い。早速手配してくれ」

 少なくともカデン軍の規格外れな武器をシプレストゥール伯爵の元に届けられる。

 これで、帝国侵攻が楽になるだろう。騎士団長はそっと胸を撫で下ろした。

 後は竹飛竜だが、これについては、どのように運んだらいいのか見当もつかなかった。


「ん?そうだ、何を悩む必要がある?」

 妙案が浮かんだとばかりに顔を上げると、勝ち誇ったような笑顔を向けてくる騎士団長。それを見て、将軍は嫌な予感がした。

 そしてその予感は的中し、騎士団長からとんでもないアイデアが伝えられる。

「そもそも、竹飛竜は乗り物ではないか。つまり、我々が操って乗って行けばいいのだ。簡単な事では無いか」

 胸を張って「俺、天才」と言わんばかりの笑顔を向けて来る彼に、将軍は眉尻を下げて忠告した。


「騎士団長様。竹飛竜は簡単に操縦できるものではありません。翼人ですら機体を浮かせるのに三日は掛かります」

「それは亜人だからだろう?誇り高き我々、純エルフなら魔道具ぐらい簡単に使いこなせるに決まっているではないか」

 騎士団長はそう言うと、将軍の忠告を無視して部下たちに竹飛竜を操縦するように命じた。



「いいですか?最初は少し浮かせるだけですよ。浮いたらすぐにコレクティブ・レバーを倒して着地して――」

「ゴチャゴチャうるさいな。たかが魔道具だろ?」

 カデン軍パイロットの忠告を無視して、騎士団の一人がローターを回転し始めた。

「うわっ。いきなり?」

 パイロットは急いで竹飛竜から離れる。

 それを見て、将軍が号令をかける。

「全員、速やかに離れろ!」


「お、おい!きさまら!逃げる事は許さんぞ!」

 カデン軍の動きに、彼等が逃亡を図っていると勘違いした騎士団長は、将軍を止めようとする。

 だが、将軍はそんな彼の言葉に振り返りもせず、走り続けた。

「騎士団の方達も距離を取ってください。大変危険です」

 そんなカデン軍の態度に騎士団長は、彼等が純エルフの自分たちを見下し、魔道具もろくに扱えないとバカにしているのだと思い、怒りをあらわにした。


「貴様あぁぁ!!我ら純エルフを愚弄する――」

 騎士団長の言葉が終わる前に、背後からバリバリと激しい破壊音が響いて来た。

 慌てて振り返ると、彼の視界には、竹飛竜が横倒しのまま自分に向かって来る光景が広がっていた。



「貴様。竹飛竜に何か仕込んだのか?」

 竹飛竜の残骸が広がっている空港。

 死者や重傷者は出なかったが、騎士団員に多数のケガ人が出て、治癒魔術を受けていた。

 騎士団長もケガを負い、治癒を受けながら将軍を睨みつけていた。


「いきなり高度を上げようとしたからです。この魔道具はバランスを取るのがとても難しいのです。そのため、最初は低い位置で上昇と下降を繰り返し、次に低い位置でホバリングを続ける訓練をするのです」

「くっ……おい、お前。純エルフだったら、もっとまともに魔道具を使いこなさんか!」

 怒りの矛先を向けられた騎士は、慌てて弁明をする。

「こ、この魔道具は簡単に扱える物ではありません。操る棒がたくさんありますし、足も同時に使います。それに浮き上がった途端にグラグラ揺れるんです」

「何を言っている?魔道具だろ?」

 これまで、着火の魔道具やカデン領の家電魔道具ぐらいしか見たことがなかった騎士団長は、その騎士が自分の失敗の言い訳をしているのだと思った。


「騎士団長様。これが操縦レバーとそれぞれの役割です」

 その時、将軍が騎士団長に一枚の(パペル)見せた。

「何だ……これは」

 それは、コクピットの絵とレバーなどの名称、そしてそれぞれの役割が印刷された物だった。


「こ……こんなに複雑なのか?たかが魔道具だろう?」

 これほど複雑な魔道具は、例え戦場に持って行っても、まともに使えるはずがなかった。



「本当に大丈夫ですか?」

「くどい!地面を走る魔道具だったら我らでも扱える!」

 結局、竹飛竜は全て置いていく事となった。

 そして騎士達は自分たちが乗って来た馬と、没収したトラックやジープに乗って行く事となった。

 そんな彼等を見送った後、騎士団長は騎士五名と共に、武器が積み込まれた旅客機に乗り込んだ。


「ここに行ってもらおう」

 騎士団長は地図を広げて旅客機パイロットに見せると、とある場所を指さした。

「騎士団長様!ここはジアルジーヌ砦のすぐ近くですよ?」

「いいから、さっさとこの場所に向かうんだ!」

 驚きの声を上げるパイロットを黙らせ、旅客機を離陸させた。


 旅客機が離陸するのを見ていた空軍将軍は、と言えば……

「よし、お前らすぐに竹飛竜を隠せ。そして滑走路の掃除だ。ネジ一つ残すんじゃないぞ」

 預かり証に署名は貰っているため、例え騎士団長が置いて行ったとしても、それは彼らのあずかり知らぬところだ。

 こちらは、後で預かり証を見せて、返却されなかった分の代金を請求するつもりだ。


 ちなみに、陸軍基地でも、彼等は鉄象の操縦を諦めて置いていく事になった。


 余談だか、トラックやジープに乗っていた騎士達は、そのスピードに最初は恐々運転していたが、その内速さに慣れてくると、今まで体験した事が無いスピードに酔いしれ、徐々にスピードが上がり、曲道などで曲がり切れずに畑に突っ込んだり、飛び出してきた動物を避けようとハンドルを切り木に激突するなどして、無事に王都にたどり着いたのは、トラック三台とジープ七台だけだった。




 そして数時間後。

「これは……さすがに着陸できませんよ。距離が短すぎますし、地面も平らではありません」

 上空からシプレストゥール伯爵の陣地を見ていたパイロットと騎士団達は、着陸できる場所を見つける事ができずに困っていた。


 旅客機の到着に、最初シプレストゥール伯爵軍でパニックが起こり、血相を変えて逃げていく者多数。

 何人かは青ざめた顔で槍をこちらに向けていた。


 それでも、何度か旋回している内に、カデン領の物だと理解したようで、慌てて天幕などを片付けて場所を空けてくれた。

 だが、彼等は飛行機がどのくらいの広さの滑走路が必要なのかまるで分かっていなかった。


「おい、お前。ちょっと飛び降りて、彼等に説明して来い」

「む、無理ですよ!死んじゃいます」

 青ざめた顔でブンブンと首を横に振る騎士。

 だが、騎士団長もそんな事は無理だと分かっている。ただ言ってみただけだった。


「仕方がない。上から落とすか。おい、皆手伝え」

「ええっ!?騎士団長様、あの荷物を上から落とすんですか?危険ですよ」

「大丈夫だ。お前ら、落ちないように全員、身体を縄で手すりに固定しろ!」

「「「「「了解しました」」」」」

 騎士団長の指示に、部下たちがテキパキと投下の準備を始める。

「いや、騎士団の方ではなくて、下にいる人たちがですね……」

 心配そうなパイロットを他所に、騎士団により武器や弾丸が入った木箱が次々とシプレストゥール伯爵軍の上に落とされて行った。


 地上では悲鳴と血しぶきが飛び交ったが、騎士団達はそれに気付かず、任務終了とばかりに清々しい顔でパイロットに帰還を指示するのだった。

こうして、シプレストゥール伯爵軍は戦う前から多くの逃亡者とケガ人を出したのでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 扱い方を熟知していないで素人が触れば・・・、更に、投下される事を前提に作られた箱に入っているならいざ知らず、只の木箱をそのまま投下とか・・・。
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