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144 ハーフエルフっ娘の奇跡炸裂!

すみません、番号がずれていました。前回が143話で、今回が144話です。

「……危ない……」

 皇帝、フューニィ・アガパートゥオ四世は、妻を亡くした悲しみと、フォーリィの奇行に思考が追い付かず、真っ白な頭の中、フォーリィの言葉をオウム返ししながら呆然と彼女の背中を見ていた。


「あなた達、これから起こる事を記録するのは許さないわ。だから携帯カメラは停止して」

 続いて、フォーリィは部下たちに携帯カメラの停止を命じた。

 携帯カメラの映像は、直接カデン領の作戦本部に届けられる。だが、これから起こる事が間違って国王の目にでも触れれば、色々なトラブルに巻き込まれる事は目に見えていた。だから彼女は、映像と言う形で残らないようにカメラを止めさせた。


 そしてフォーリィは、軽く深呼吸をした後、意を決したように表情を引き締めた。

 次の瞬間、彼女の右手から光る棒状のものが出現した。

 その魔法のような現象に、その場にいたヴェジェルータ帝国軍は条件反射で身構える。

 だが、フォーリィからは魔力の残滓が一切漏れ出ていないのが分かると、彼等は構えを解き、その棒状の光を注意深く観察する。


 その光は何とも不思議だった。

 ソレは魔法では無い。その事はその場の全員が確信していた。一切の魔力の残滓を感じ取れないからだ。

 そして、ソレはどことなく神々しさを感じた。

 ソレを説明できる理論や理屈を、彼等は持ち合わせていなかった。

 強いて言うなら神器だった。


 フォーリィはその神器、もといエクスカリバーの(さや)に魔力を注ぎ込むと、そっと彼女の姉ルーフェの亡骸に押し当てた。


 その後に起こった事に、帝国軍だけでなく、カデン軍も全員驚きのあまり目を見開き、口を半開きにする。


 ルーフェ首元の肉が盛り上がり、ひしゃげた頭部と結合したかと思うと見る見る内に頭部が再生して、元の姿に戻って行った。

 その奇跡も彼らが言葉を失うのに十分だったが、更に彼らを驚かせたのは、彼等が全員フォーリィの背中に翼が生えているような錯覚に陥ったからだった。

 帝国軍もカデン軍も、目をこすってフォーリィを見直す。

 彼らの目には翼は映っていない。だが翼が生えているように感じてならなかった。

 今、目の前に天使がいる。彼らの心は感動でいっぱいだった。


 そんな彼等とは裏腹に、彼等に背を向けているフォーリィは、顔を苦痛に歪めて集中していた。

 彼女自身の再生なら殆ど意識せずに行えるのだが、他者の身体となると話は別だった。

 彼女は鞘を使ってルーフェが死ぬ直前の身体の状態を細かくサーチして、その情報を元に再構築していった。

 その作業はとても細かく、そして短時間の間に膨大な処理が必要だった。

 その上、この勇者スキルは燃費が非常に悪かった。

 そう、魔力をドカ食いし、三割ほどが鞘から逆流して彼女の元に戻って来ていた。

 その逆流したエネルギーは、この世界の魔力とは異なる異次元魔法(エキストラマジック)の残滓として、彼女の背中から翼のような形を取り、大気に放出されていった。

 その結果、異次元魔法を感知できないこの世界の人々からは、「見えるような気がする」翼として感じ取られてしまっていたのだが、当のフォーリィはその事に全く気付いていなかった。


 やがてルーフェの身体がすっかり元に戻ると、フォーリィは深くため息をつき、その場で膝を付いた。

「伯爵様」

 カデン軍の面々が慌てて駆け寄り、彼女に肩を貸した。


「ああっ……ああっ!ルーフェ、ルーフェ!!」

 そんな中、フューニィ皇帝は一人、最愛の妻ルーフェの元に駆け寄る。

「ああ、良かった……良かった……生き返って」

 そしてルーフェの身体を抱きしめて嬉し涙を流す。


「ルーフェ……ルーフェ……ルーフェ?」

 そこで彼は気付いた。ルーフェが息をしていない事に。

「えっ……?生き返って……ない?」

 再び絶望が彼の心を覆い始める。

 そして恐る恐る彼はフォーリィに顔を向けた。

 そんな皇帝に、フォーリィは疲れの滲んだ顔で答える。

「欠損部分も含めて治癒しただけよ。死者を蘇らせる力は無いわ」


「そ、そんな……」

 皇帝はフォーリィから天使の翼が生えているように感じた。そして目の前で最愛の妻が元の姿に戻って行った。それは正に奇跡だった。

 だから、彼はルーフェが蘇ったと思い、疑わなかった。

 それが、姿を元に戻しただけで生き返った訳では無かった。

 その事を告げられ、皇帝は目の前が真っ暗になり、再び絶望が彼を覆った。


 そんな彼を見て、フォーリィは深くため息をつくと、カデン軍の仲間たちから離れて皇帝の横に立った。

「だから、まだ早いって」

 フォーリィは皇帝の胸倉を掴むと、再び片手で七メアトルほど先に放り投げた。重力操作を使って。


「!?」

 放り投げられた先で、皇帝は倒れたまま目を見開き、フォーリィを見る。


「今から蘇生を試みるけど、危ないから近付かないで」

 フォーリィは皇帝に向かってそう言うと、次にカデン軍に顔を向ける。

「あなた達も危ないから離れてて」

 フォーリィにそう言われ、彼女の部下達も慌てて数メアトル下がった。


 そう、現代地球では当たり前となっている常識。

 心肺停止状態でもすぐに人工呼吸などを行えば蘇生する可能性があるのだ。

 エクスカリバーの鞘は治癒能力がある。だが死者復活ができたと言う話は無い。

 だが、身体を元の状態に戻しさえすれば、例え復活させられなくとも、地球の知識を使って処置を行えば蘇生できるのではないかとフォーリィは考えたのだった。


 フォーリィは全員が離れたのを確認すると、ルーフェの横で膝を付き、自分の両手をそっとルーフェの胸元に押し当てた。


―― バンッ!


 次の瞬間、破裂音のような物が響き、ルーフェの身体が大きく跳ねた。


「ルーフェ!」

「まだよ、近付かないで!」

 ルーフェが動いたのを見て、慌てて立ち上がった皇帝に、フォーリィは待ったを掛けた。


 フォーリィは異次元魔法を使い、高電圧を極短時間、ルーフェの身体に叩き込んだのだった。

 そう、医療現場などで使われる電気ショックだ。

 前世で彼女は、咄嗟の時には手持ちの部品でも仲間を蘇生させる事ができるようにと、蘇生に必要な電圧などの知識は叩き込まれていた。そして今、それを忠実に再現したのだった。


 だがこれだけでは足りない。

 フォーリィはルーフェの鼻をつまみ、顎を上げて気道を確保すると、唇を合わせて人工呼吸を行った。


 そして数回の人工呼吸の後、今度は両手を合わせてルーフェの心臓の上に置き、グッ、グッと押し込んで心臓マッサージを始めた。


 何度か人工呼吸と心臓マッサージを繰り返した後、再びフォーリィは電気ショックを行った。


 そして、何度目かの人工呼吸を始めた時……


「!!」


 フォーリィがその場から飛び退こうとした時は既に遅かった。


 残像を残したルーフェ両腕にフォーリィはガッシリと捕まってしまった。

 更にルーフェは両足も使ってフォーリィを抱きしめ、彼女の唇を思い切り吸い出した。


―― チュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ


 大きな音が辺りに響く。

 そんな中、フォーリィは手足をバタバタさせて暴れていた。


 ルーフェが生き返った。

 それは確かなのだが、フォーリィに近付くなと言われた両軍は、動けないでいた。


「ウグッ!!」

 突然フォーリィがうめき声を発した。

 ルーフェの舌がフォーリィの口内に侵入して、彼女の舌を絡めとったからだ。


「ぐぅぅぅ、うぐぐ、ぐぐぅぅぅぅぅぅ」

 激しく暴れるフォーリィ。

 だが、姉にガッシリとホールドされている彼女は、逃げ出す事ができなかった。


―― バンッ!


 大きな音と共に、両者の身体がビクンと大きく仰け反り、そのままグッタリと動かなくなった。

 フォーリィが、自滅覚悟で電気ショックを食らわせたのだ。


「……ああ……フォーリィ……からの……熱いキス……痺れるようだわ」

「実際に……痺れたのよ……まったく……とんだ災難」


 本来ならば生き返った事を喜ばなければならない帝国軍も、変態チックなルーフェの行動に、どう反応して良いのか分からなかった。




「ふふふ……ふふふふ♪私、フォーリィの初めてを貰っちゃったのね♪」

 暫らくして、どうにか二人とも立ち上がれるようになると、ルーフェは頬を染めて身体をクネクネさせ始めた。

「蘇生処置よ。キスじゃないから」

 そんな姉に、フォーリィは不貞腐れた顔でそっぽを向いた。

「あんっ♪素直じゃないんだからん♪」

「キモイ」

 更に激しくクネクネさせるルーフェに、フォーリィは侮蔑の目を向ける。

「ああん♪その冷たい目もたまらないわ♪」

 激しく見悶えるルーフェ。

 そんな姉に付き合っていられないと、ため息をつく。


「とにかく、お姉ちゃんは一度死んでいたんだから、今日は一日、安静にしてて」

「何言ってるの?私はこの通りピンピンしているわよ」

 妹の言葉を冗談と捉えたルーフェはニコニコ笑いながらも身体をクネクネさせ続けている。

 ルーフェの頭部は、死ぬ直前の状態に再生されているため、自分が死んだと言う自覚は無く、愛する妹を庇ってシールドを展開した後の記憶が抜け落ちていた。


「あー、はいはい。詳しい事は旦那から聞いてね」

 そう言うと、フォーリィは(きびす)を返して歩き出した。

 それを見て、ルーフェは慌ててフォーリィの方に手を伸ばして呼び止めようとする。


「今のままじゃ、お姉ちゃんは私には勝てないわ」

 その言葉に、ルーフェの動きがピタリと止まり、途端に真顔になる。

「私がシピルーナ王国の反乱軍をどのように倒したのか、旦那に聞いてちょうだい。その上で、私に勝てそうだと思ったら……」

 フォーリィは足を止めてクルリと振り返ると不敵な笑みを浮かべた。

「また姉妹喧嘩しましょう」

 そしてまた背中を向けると、そのまま振り返らずに去って行った。

「フォーリィ……」

 そんな彼女の背中を、ルーフェはいつまでも愛おしく見つめ続けた。




「伯爵様。ご無事で何よりです」

「皆、ご苦労様」

 翌日、フォーリィ達が大神殿南側の簡易拠点まで戻ると、聖騎士団達と強力して事態を収めていた居残り組が駆け寄って来た。

 魔道音伝器(ケータイ)では無事を知らせていたが、戦闘に参加できなかった彼らは心配で仕方が無かったのだ。


「こちらの様子はどう?」

「聖騎士達の協力により、抵抗する者はいなくなりました」

 あの時、協力を約束した聖騎士団達が身体を張って他の聖騎士達を無理やり捕まえ、テレビを観させた結果、賛同する聖騎士達が増え続け、やがて全ての聖騎士達がカデン軍に協力を申し出て来ていた。

「だが、疫病の蔓延はかなり深刻です」

 抵抗勢力の沈静化に伴い、聖都に溢れる大量の感染者が問題になってきた。

 少し大通りから外れると、道端にたくさんの死体が転がっている有り様だった。

 そして、聖騎士達の中でも、具合の悪そうな者が多数いた。

「カデン領から治癒魔術師をこちらに空輸させるわ。他に問題は?」

「あと、深刻な食糧不足のようです」

 これだけ疫病が蔓延していれば、流通も滞る。

 行商人などは誰もこちらに食料を持ってこようとは思わないため、食料が底を付きかけていた。

「モヤシも空輸する必要があるわね」


 そんな話をしている時、一人の聖騎士が彼女達の元に走って来る。

 良く見ると、最初に協力を約束した第二十七聖騎士団長のクァレスミー・ティボウティヌだった。


 彼は輝くような笑顔でフォーリィの前に立つと、その場で片膝を付いた。


「お帰りなさいませ、天使様!」


 嬉々とした彼の言葉に、フォーリィが嫌そうに顔を歪めた。

ハーフエルフっ娘、初めてを姉に奪われてしまいました。

そして、彼女の意志に反して天使伝説が広がって行きます。

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[一言] まぁ、可愛いから仕方がない。
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