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14 ハーフエルフっ娘と魔石の秘密

「なんか、発電する鬼娘になった気分だわぁ」

 フォーリィが、完成した洗濯機の試作機から伸びているコードの先を握って魔力を供給しながら、椅子に座って項垂れていた。

「フォーリィ、何言ってるか分からないわよ」

 夕方、仕事から帰ったヴェージェはフォーリィが洗濯機を動かしているのを見て安心した。


「ようやく試作機が完成したのね。結構力強く回っているじゃない」

「んー、確かに洗濯機自体は良く出来たんだけど。ずっとこうして魔力供給し続けるのは退屈だわ」

「それでも、疲れて帰った後、服一つ一つにクリーニング魔法を掛けるより良いわ。独り身だとそれでも良いでしょうけど、家族の分もクリーニングすると結構大変よ。それに比べて、リクライニングチェアとか置いておけば、体を休めながら魔力供給だけしていれば洗濯してくれるんだから、全然楽だわ」

 ヴェージェから高評価を得られたのは嬉しかった。

 それでも魔道洗濯機の側を離れられない時点で、この製品の使い勝手はフォーリィの満足行くレベルを大きく下回っていた。


(あか)りの魔道具みたいに魔力を蓄えて置ければいいのに」

「フォーリィ知らなかったの?灯りの魔道具は魔力を蓄えているわけじゃないわよ。光を生み出す物を生成して、その物質が燃え尽きるまで光り続けるのよ」

「ええっ?そうだったの?」

 初耳だった。

 それが本当なら、フォーリィが作った洗濯機は人が常に魔力を供給し続ける他ないのかも知れない。


「そう言えば、貴方が取っておいた壊れた灯りの魔道具が物置に放置されていたわね」

「私が取っておいた?」

 彼女にはそのような記憶はない。つまり彼女が記憶を失う前の事だろう。


「ええ。何でも()()()が見えるとか訳分からないこと言って、取っておきたいって言ってたのよ。ちょっと待って、今持ってくるから」

 ヴェージェがパタパタと走って行くのを目で追う。

「コジョ?」

 頭に疑問符を浮かべていると、ちょうど脱水が終わったので、フォーリィは洗濯機から衣服を取り出してチェックする。

「んー♪いい匂い」

 クリーニング魔法では実現できない洗剤のいい香りに満足する。


 洗剤は、洗濯機の開発とほぼ同時にスタートした。

 既に、特許裁判の噂と共に洗濯機の話が王都中に広まっていたため、開発に名乗りを上げた職人が数名いたので、香水を作っている職人や石鹸を作っている工房長などに細かい要望を伝えて作らせたのだ。


 フォーリィは、洗剤の出来栄えに満足しながら、柔軟剤はどうしようかと思考を廻らす。

 そうしている内に、ヴェージェが小さな機器を持って戻って来た。

 カバーが取り外された状態の照明器具だ。


「ここ、魔石に直接触れて少し魔力を流せば分かるわよ」

 ヴェージェが指さした先には淡い青色の直径八センチ程の魔石があった。

「直接触れればいいの?」

 今までフォーリィは魔石を直に触れて魔力を流した事は無かった。

 記憶を失った後のリハビリで使っていた灯りの魔道具は魔石が剥き出しではなかったし、掃除機などは機器に組み込むまで魔力を流す事はなかった。


 フォーリィは言われるままに手を伸ばし、魔石に触れて軽く魔力を流し込む。

「うわっ!」

 目の前に浮かんだビジョンに、慌てて手を離す。


「工場だ……」

 思わず溢れた言葉だが、この世界には工場などまだ存在していなかった。

 フォーリィは再び魔石に触れて魔力を少し流す。

 彼女の目の前に、巨大なプラントが広がる。

「そのコジョが何かは分からないけど、どのように見えるかは人それぞれよ。私には広大な森に見えるわ」

「そうなんだ。ドワーフさん達もそれぞれ違う見え方してるのかな?」

「魔石に触った時にビジョンが見えるのはエルフと、私達ハーフエルフだけよ」

「私達だけ?」


 フォーリィは考え込んだ。

 エルフとハーフエルフだけがビジョンを見れるのは、魔力の操作と関係があるんだろうかと。

 魔力を操作して魔法を行使できるのはエルフやハーフエルフ達だけだ。

 翼人やドワーフなどは、魔力を持っているが魔道具などに魔力を注ぎ込むことは出来ても術式を構成するほど細かい操作は出来ない。

 魔力の操作に長けた種族が魔石を触る事でビジョンが見えると言うのなら、魔石をもっと細かく操作出来るのではないか。


「ほら、魔石の北東方向に意識を集中してみて」

 フォーリィの思考はヴェージェの言葉で中断した。

「そこに光を生み出す何かがあるんだけど、この魔石ではその何かが殆ど残っていないの」

 フォーリィが魔石に魔力を流し込んで意識を集中させると、再び巨大なプラントが見えた。

 ヴェージェが北東と言うのも頷ける。何となく東西南北が感じ取れた。

 そしてヴェージェの言っていた方角に意識を集中させると――

「倉庫だ」

 そこには巨大な倉庫があった。

 倉庫の中は殆ど空で、残っている数少ない箱がフォークリフトで隣の工場に移動されていた。


「フォーリィには倉庫に見えるのね。私にはリンゴ畑に見えるわ。そして成っているリンゴは残りわずか」

 ヴェージェの言葉を聞きながら、フォークリフトが荷物を運んでいる工場に意識を集中させる。

 そこでは荷物が分解されていた。フォーリィはそれがイオン化の工程だと感じ取れたが、何をイオン化しているかまでは分からなかった。

 どうやら触れた者の知識によって見え方、感じ方が違うようだ。


「お姉ちゃんが言った事がやっと理解出来たわ」

 でもこれでは、やはり洗濯中は誰かが近くにいて魔力を供給し続けなければならない。


「魔力を別のエネルギーに変換して、その後少しずつ魔力に戻すとか?何か方法は無いかしら?」

 フォーリィの言葉は姉への質問ではなく単なる呟きだ。だから答えが返ってくるとは思っていなかった。

「うーん、難しいわね。エンチャントの魔石を使えば洗濯機の近くにいる必要はないけど、それでも魔力を流し続けなければ――」

「何それ?エンチャントの魔石?」

 フォーリィが目を輝かせてヴェージェの両肩を掴む。

 その反応を見て、ヴェージェはフォーリィが記憶喪失だった事を思い出す。


 フォーリィは魔法や魔石に関する記憶を完全に失っている。

 それはエンチャントの魔石のような一般常識から、エルフやハーフエルフがスプーンを持つのと同じくらい無意識に使う魔法も含めて、()()()()()()キレイさっぱりと。

 だが、普段の生活では記憶喪失前と全く変わらなかった。

 話し方、姉や父親への甘え方まで。だから、ついつい記憶喪失である事を忘れてしまうのだ。


「エンチャントの魔石は二つ一組になっていて、片側に魔力を注ぐと、もう片側から魔力が放出されるのよ」

「それよ!もう、お姉ちゃん天才!チュッチュ」

 フォーリィがヴェージェを抱きしめて頬にキスをする。

「ちょっ、ちょっと?」

 顔を赤くして慌ててフォーリィを引き剥がす。

 妹のこういった挙動は嫌いではない。いや、むしろ嬉しかったりするのだが、恥ずかしさが勝ってしまうのだ。


「エンチャントの魔石をバンドにして手首などに巻いておけば行動が制限されないから、慣れれば家事などをしながら洗濯出来そうね」

 フォーリィは嬉しそうに笑いながら洗濯機から洗濯物を取り出してカゴに入れていく。


「それは思いつかなかったわ。確かにそれだと食事の仕度をしながらでも魔力供給ができそうね」

 関心するヴェージェ。

 ヴェージェは、妹が自分の言葉から常に予想以上の発想を導き出す、その才能を凄いと感じていた。


「はい、お姉ちゃん。どう?良い匂いでしょ?」

 フォーリィはカゴの中から服を一つ取り出して姉に渡す。

「あらホント、とってもいい匂いだわ。それにしっかりと洗えてるわね」

 姉の評価に、フォーリィは嬉しそうに顔を綻ばせる。


「洗濯機と洗剤。まさに革命的だわ。洗濯が楽になるだけでなく、こんなに良い匂いに仕上がるなんて。ね、フォーリィ。完成したら家にも一台置いてくれない?」

「もちろん♪」


 こうして、掃除機に続く第二の神器、洗濯機が爆誕した。



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