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139 ハーフエルフっ娘とヴェジェルータ帝国軍 ~ その1

誤字脱字報告ありがとうございます。

この場を借りてお礼申し上げます。

 フォーリィ達が、大神殿周辺の様子を撮影した竹飛竜(ヘリコプター)の映像を確認している最中も、テントの外では重機関銃の掃射音が断続的に響いていた。

 夜遅くなっても少し離れた所にいた聖騎士団が次々とやってくるため、簡易飛行場の周りに固定した重機関銃を操作している隊員が、暗視カメラの映像を頼りに攻撃をしているのだった。

 そんな中でも、フォーリィ達は交代で仮眠をとった。


 そして翌朝。


「ん?」

 フォーリィの目に、一組の聖騎士団が映った。

 聖騎士団長と思われる、一際(ひときわ)立派な鎧を着けた男の前に、その男を庇うようにして白旗を手に一人の騎士が立っていた。


 フォーリィ達とは結構離れている。

 だが近付いて来ないのは、重機関銃の射程距離が長いからだ。

 フォーリィもそれを知っているため、魔道音声拡張機(メガホン)を手に取り、相手に話しかけた。

『そこの騎士団。あなた達は投降するのか?』


 初めて聞く魔道音声拡張機の音に、聖騎士団達は驚く。

 だが、立派な鎧の男がすぐに答える。

「一応そのつもりだ!だが、その前に確認したい事がある!そちらに行っていいか!?」

 喉を傷めるのではないのかと思うほどの大声だった。

 だが、そこまで大声で話さなくても、フォーリィ達には魔道収音機があるので、じゅうぶん聞き取れたのだが。


『分かったわ。とは言え、それだけの数で来られると、こちらも困るので、五名以内で代表者を決めて来てちょうだい』

 フォーリィがそう言うと、立派な鎧の男が了解したと返事をし、やがてその男を含む聖騎士五名がフォーリィ達の元にやって来た。

 その時、彼等は怯えた目で視線をさまよわせていた。やはり、未知の強力な武器の射程内に入るのは怖いのだろう。


「私は第二十七聖騎士団長、クァレスミー・ティボウティヌだ。あなた達の代表者と話がしたい」

 立派な鎧の男は、フォーリィの前に立つと、そう言った。


「私がこの軍の代表者。フォーリィ・ルメーリオ・カデン伯爵よ」

 毅然とした態度で名乗った彼女に、クァレスミーが目を見開くが無理も無かった。

 彼らはテレビを持つ事を禁止されているため、フォーリィの容姿など知らなかった。

 神殿内を守っていたエリート集団達なら、少なくとも彼女の年齢や髪の色などは耳にしただろうが、大神殿の北側の離れた場所に配置されていた彼らには、そのような情報など入って来るはずもなかった。


「お前が東の死神……」

「フォーリィよ」

 まさか目の前の少女が敵の総大将だとは思わなかったのだろう。思わずつぶやいてしまったクァレスミーに、フォーリィはやや強い口調で訂正を入れた。


「あ?ああ、申し訳ありません!失礼しました!」

 話し合いを申し出た相手の総大将に、いきなり失礼な事を言ってしまった事に気付いたクァレスミーは、大慌てで謝罪した。ここで相手の機嫌を損ねれば、交渉するにしろ情報を求めるにしろ、不利になるのは目に見えていた。

「それで?何を確認したいの?」

 だが、そんな彼の心配は杞憂に終わり、フォーリィは特に気にしたようすも無く相手を促した。

 そんな彼女に、クァレスミーは多少面食らうものの、聞きたかった事を口にした。


「多分、あなた達が置いたものと思われる魔道具を神殿内で見かけました。それで……その……」

 そこで少し目を泳がせる。

 その先の言葉を続けると、サリデュート聖教に対する背信行為になるのではないのか。そんな迷いが心を過ぎっていた。

 そんな彼の胸の内の葛藤は当然だと思い、フォーリィは続きを促す事はせずに黙って待っていた。

 そして彼は、やがて意を決したように聞いた。

「あれは事実なのですか?……その……大司教様が……」

 悪魔族と入れ替わっていたのか。

 さすがにそこまで口にする勇気は彼には無かった。


「あなたが見たままよ」

 フォーリィは、彼に最後まで言わせるような事はしない。

 聖騎士達の殆どは、生まれてからずっと、サリデュート聖教に信仰を捧げ、その代弁者たる大司教を崇拝するように教育されてきた。そんな彼等が、ここまで言うのにどれ程勇気が必要だったのか。

 フォーリィは前世で、宗教に限らずあらゆる思想や信念を掲げる団体で、そこに属する者がこれまでの生き方や考え方を否定するような考えを持つ事に激しい抵抗感を示す事を嫌と言うほど思い知らされていた。

 だから彼女は、相手を真っ向から否定するのではなく、相手が納得いく形で方向修正をするのだった。


「私達は見たままを記録して、何度でも再生する魔道具の開発に成功したわ。だけど見ていない映像を作り出す魔道具は無いわよ」

 キッパリと言い放つフォーリィ。

 だが、そんな言葉だけでは彼は納得できなかった。

「でも、でも、信じられません!あの魔道具以外に何かあるのですか?大司教が実は大司教様ではなかったと言う確たる証拠は!」

 彼自身、すでにこれまでの大司教の言動を(いぶか)しんでいた。

 だが彼は、自分のその考えを、自身の信仰心が揺らいでいるせいだと言い聞かせて、心の隅に押し込んでいた。

 だから彼は否定したかったのだ。相手は、自分が納得できるに足りる証拠を示せないのだから、それは自分の信仰心を揺さぶる悪魔の囁きだと突っぱねたかったのだ。


「証拠だと!?まだそんな事をぬかすか!恥を知れ!」

 何か言い訳が返って来ると思っていたクァレスミーは、いきなり目の前の少女から浴びせられた罵倒に目を瞬き、思わず後ずさった。


「大神殿の周りの状況を見ろ!疫病が蔓延して死体の山ができているだろうが!」

「で、でもそれは、彼等の信仰心が弱いからで……」

 そもそも彼らは、疫病は東の死神による呪いであり、その呪いに打ち勝つだけの純粋で揺るぎない信仰心を持たない者達は、呪いに負けて命を落とすのだと司教達から聞いていた。

 元凶そのものは目の前の少女がもたらしたものだが、命を落としたのは信者達の弱さであると信じて疑っていなかった。


「まだ、そんな寝言を言っているか!!」

「で、でも……」

「でも、じゃない!聖典の『メテュルリーナ村の騒動』は読んだのか?そこでも流行り病が流行して多数の死者が出ていただろ?その時のサリデュート様の行いや言葉を覚えていないのか?」

「でもそれは、サリデュート様だから……」

 彼らにとって、教祖サリデュートは神に近い存在だった。

 だからサリデュートが行った事は、教祖だからできた事であり、信徒が実戦できるものではないと言う強い先入観が働いていた。

 それを知った上で、フォーリィは更に畳掛ける。

「誰にそんな嘘を教わったんだ?聖典にハッキリと書かれているだろ?『私の言葉を忘れず、私がこれまで行って来た事を、今度はあなた達が続けて行って欲しい』と。それとも何か?自分の行った事を真似するなと、どこかに書いてあるのか?言ってみろ!」

 クァレスミーは言葉が出なかった。

 目の前の少女が言っている事が正しい。

 聖典にも、教祖が度々信徒たちに、自分が行った事を実践するように勧め、手を貸していた。

 それなのに、聖典に書かれている事は教祖だから出来た事で、信徒が真似をするものではないと決めつけていた。

 自分はいつから間違っていたのだろう。彼の心は不安でいっぱいになった。


「『ウッディーヌの章』ではお弟子さん達がサリデュート様を看病しているよな?お前たちは病人たちを看病したのか?祈っていれば治ると言って彼等を無理やり教会に行かせたんじゃないのか?」

「……そ、それは……」

「『クーティン村の章』では他のお弟子さん達に病気がうつらないように隔離していたよな?お前たちは病人たちを隔離したのか?しているはず無いよな。隔離していたらこれ程広まってはいなかったはずだからな。『ラルミスフィの教え』では、病人の看病をしたお弟子さんに、水で身体を清めるように指示していたが、お前たちはそれを実践したのか?」

 彼女に指摘され、クァレスミーは思い知らされた。これまで彼らが、聖典の教えを一つも守っていなかった事に。

 彼の頭の中を、聖典の教えの数々が渦巻く。

 彼女が指摘した以外にも、このように疫病が蔓延した時に取るべき行動が聖典には数多く記されていた。それなのに自分達は聖典の教えから目を逸らし、盲目的に司教達の言葉だけに耳を傾けていた。

 それはつまり、自分達こそが背信者だったと言う事だ。


 クァレスミーはその場で力なく膝を付くと、両手で顔を覆った。

「私は……私は……なんて罪深いことを。……ああぁぁ……サリデュート様の教えに背いて……多くの信者達を殺してしまった……ああっ、『無二なる御方』よ。どうかお許しを……」

 ポタポタと涙が落ちて、地面に浸み込んで行く。

 そして、他の聖騎士達も辛そうな顔をして、必死に耐えていた。


 そこでフォーリィは、クァレスミーの肩に手を置くと優しく微笑んだ。

「大丈夫よ。サリデュート様も仰っていたわよね。『悪魔族に騙されるのは罪だが、それ以上の罪は、それに気付いて歩みを止めてしまう事だ』って」

 クァレスミーはゆっくりと顔を上げ、目の前に天使を見た。

 その少女はとても優しく、慈愛に満ちた笑顔で彼を見ていた。

「あなたは、自分が聖典の教えに従っていなかった事に気付いたのよ。つまり、試練を一つ乗り越えたの。では、次にあなたが行う事は何?聖典には何て書いてあった?」

 その優しい声は、彼の心の奥底まで清めるかのようだった。

 そうだ、自分は試練を乗り越えたのだ。なら自分が成すべき事は、他の聖騎士団達にサリデュート様の教えを説いて、説得する事だ。

 それに気付かせてくれた目の前の少女は、『無二なる御方』が自分たちを導くために遣わされた御使い様ではないのか?

 彼は目の前の少女に崇拝に近い感情を抱き、彼女とサリデュート様の言葉を広く伝えるべく立ち上がった。

「天使様!大神殿にあった物と同じ魔道具を、いくつかお貸し頂けますか?」

「え?なに?天使?」

 突然の天使発言に、面食らうフォーリィ。

「ま、まあ、まだ二〇台ほどあるから持って行って」

「有難うございます。このクァレスミー・ティボウティヌ、必ずや貴女様達の期待に応えて見せます」

 そう言って、片膝をついて頭を垂れる聖騎士団長に、いささかやり過ぎたかなと思いつつも、これで聖騎士達の説得を丸投げできると、フォーリィは心の中でガッツポーズをしていた。


 最初に彼女が激怒したのも、最後に微笑みかけたのも、彼女の演技だ。

 こうやって、真剣に訴えかけていると相手に思わせて、共感を得る。

 だが、そこで口にする言葉には嘘を含めてはいけない。

 多少でも相手が違和感を感じれば、その後いくら真実を述べようとも、相手の心には届かないからだ。


 こうして彼女は、頼もしい支援者ができた。

 天使扱いされた事には、いささか引いたが。



      ◆      ◆


「あれが帝国軍ね」

 後続部隊とクァレスミー達に後の事を任せたフォーリィは、その日の午後に西に移動して、翌日の正午には帝国軍が見える位置まで来ていた。


「圧巻ね」

 帝国軍は五千の騎兵。それに比べてフォーリィ軍は七〇名の兵士と八台の鉄象(せんしゃ)、五台の重機関銃を乗せたジープ、そして三台のトラック。

 騎馬の機動力を生かして囲まれたら勝ち目はなかった。


「取り敢えず、交渉してみるわね」

 フォーリィ達に気付いた帝国軍は、歩みを止めてこちらの動きを伺っていた。

 そんな彼等に、フォーリィは魔道音声拡張機(メガホン)を使って伝える。


『ヴェジェルータ帝国軍に告ぐ、我々は悪魔族にすり替わっていた大司教を成敗した。その事はテレビを通じて国内外に発信している。あなた達に我々と戦う大義は無いので、即刻引き返して貰いたい』

 帝国は、フォーリィがこれまでの戦闘で、その様子をテレビで報じていたのは知っているはずだ。

 それを踏まえての警告だった。


『そんなの知らねえな』

「うわっ!」

 新しく開発された術式か。突然、かなりの大音量が響いて来た。

 そんな音を拾い、魔道収音機が更に音量を上げたのだから、たまったものではない。

 フォーリィ達は思わず耳を抑えた。


 急いで魔道収音機のスイッチを切るフォーリィ。


『戦いに行くのに、そんな魔道具持ち歩いてるわけ無いだろうが』

 なおも響いてくる声。

 勿論、彼等が嘘をついているのは分かっていた。

 戦争では多くの情報を得る者が有利になる。

 ブラフであるかの判断をするにも、まずは情報を得なければならないので、貴重な情報源であるテレビを持ってきていないはずは無かった。


「うーん、知らなかったで済まして、私達を攻撃するつもりみたいね」

 しょうがないな、と言いながら、フォーリィは再び魔道音声拡張機に魔力を流した。


『では、一騎打ちしましょう。私とあなた達の代表一人で』

 ここに来てフォーリィは、ゴキブリ勇者の時には戦争だからと言って否定した一騎打ちを持ち掛けたのだった。

さて、帝国軍は一騎打ちに乗ってくれるのか?

あと、フォーリィの天使説は広まってしまうのか?恐るべし、フォーリィの人心掌握スキル。

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― 新着の感想 ―
[一言] フォーリィ嬢になら導かれ(洗脳?)たいと思ったり思わなかったり・・。
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