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13 ハーフエルフっ娘と第2の神器

「あはは、あははははは♪」

 フォーリィはとても嬉しそうに笑いながら、両手を広げてクルクルと回っていた。

 そんな妹を見て、ヴェージェは朝食をテーブルに並べながら小さく息を吐く。


「フォーリィ。現実逃避しても何も解決しないわよ」

「!」

 姉の言葉にフォーリィの動きがピタリと止まり――

「はぁぁぁぁぁぁぁ」

 肩を落として項垂れた。

 フォーリィの開発、絶賛行き詰まり中だった。


「私、才能が無いかも……」

「何言ってるの?貴方が色々と発明したから期待が高まってしまったんでしょ」

 そう言いながら、フォーリィを席につかせてコップにホットミルクを注いだ。


「みんな期待しすぎよ!毎日、毎日、何十件もの問い合わせが来て大変よ。洗濯機なんてそんな簡単に出来ないわよ」

 裁判から一〇日、彼女は魔道モーターを使った洗濯機の開発に力を入れていたが、その威力は未だに実用レベルに達していなかった。


「それだけ画期的なアイデアって事だよ」

 突然リビングに現れた人物に、フォーリィは弾かれたように席を立った。


「パパァ♪」

 フォーリィが駆け寄って抱きついた青み掛かった銀髪で長身のイケメンは彼女の父親、スタニェイロだった。


「どうしたの?こんな時間に家にいるなんて」

 ヒューマン感覚で一二歳に見えるフォーリィが、同じくヒューマン感覚で一八歳に見える男をパパと呼び、胸に顔を埋めて嬉しそうにしている絵面は、地球では完全にアウトだが、長寿のエルフやハーフエルフでは普通だった。


「ははは、相変わらず甘えん坊だな」

 フォーリィがグリグリ押し付けている彼女の頭を、スタニェイロが優しく撫でた。するとフォーリィは「にゅぅぅ」と可愛い声を漏らして、とろけそうな顔になる。

 そんな彼女の姿を見る度にスタニェイロは安心する。

 彼女の甘えかたは記憶を失う前と全く変わっていなかったから。


 父親にベッタリ甘えているフォーリィを見て、ヴェージェはムスッとした顔をする。

「フォーリィ。お父さんに甘え過ぎよ。私達もう成人しているんだから――」

「ヴェージェお姉ちゃんもこっち来て一緒にパパに甘えようよ♪」

「なっ?」

 手招きするフォーリィ。

「わ、わ、わ、私はお姉ちゃんだから、も、もう甘えたりは――」

「じゃあ、私一人で甘える♪」

「フォーリィ、ズルい!私だって」

 耐えられなくなったヴェージェも、並んで父親の胸に顔を埋めた。


「おっと、こうしては居られない。急いで朝食を食べないと視察に間に合わなくなる」

 暫く娘達を愛でていたスタニェイロが、優しく彼女達を引き離す。


「パパは今日視察だから、いつもより遅かったんだ。どこまで行くの?」

 食卓に着きながら、フォーリィはスタニェイロに尋ねる。


「レスタニエの農村地帯だよ」

 スタニェイロは、王城で王都近辺の町や村を管理する仕事をしていた。

「良かった。そんなに遠くないわね」

「ああ、お昼頃には王都に戻って結果を纏めるつもりだよ。それで?フォーリィは何に行き詰まっているんだい?」

 勿論、悩みを聞いたからと言って技術的なことは何も分からないのだが、ここ二、三日娘が悩んでいるの知っているのでとても心配していた。

 しかしフォーリィは自分が悩んだり苦しんだりしている所を父親に見られるのをとても嫌う。それは記憶を失ってからも変わらなかった。だから悪夢にうなされ続けていた時は部屋には入らずにドアの外からそっと見守る事しか出来なかった。

 そして、最近娘が悩んでいるのを知っていても、声を掛けられないでいた。

 だが、娘が自分の胸に顔を埋めて気分を良くしているこのタイミングならサラリと聞けるのではないかと思ったのだ。


「洗濯機に必要な出力の魔道モーターが作れないの。小さな風の魔石を四八個組み込むとどうにか出力が確保出来るけど、そうなると製造がとても複雑になっちゃうから作るのに時間が掛かるのよ」

「ん?何で大きめの魔石を使わないんだ?」

「それはブルドゥさんが掃除機を量産したから風の魔石の相場が…………あっ」

 ブルドゥは現在、掃除機を販売していないから相場は戻りつつあった。


「あ、いや、その……そ、そう、少しでも安い値段で提供しようと思ったの。でも、あまり待たせたら悪いわね。うん、少し大きめの魔石を使うわ。教えてくれて有難う、パパ♪」

 父親に抱きついて、その頬にチュッチュしているフォーリィを見て、ヴェージェはズルいと言う気持ちと、元気を取り戻した妹への安堵の気持ちが入り交じった目で見ていた。


「と、ところでパパ。農村の視察って、何かあったの?」

 フォーリィは別に父親の視察に興味があった訳では無い。

 ただ、魔石での失念をうやむやにしようと、スタニェイロにキスしたり話題を変えたりしているだけだ。

 スタニェイロもその事は分かっているため、娘に合わせる事にした。


「ああ、東の方は農作物に被害が出始めているらしいわね」

 答えたのはヴェージェ。

「農作物の被害?」

 ヴェージェの言葉に首を傾げるフォーリィ。

「もう7の月(セプテンバー)に入ったと言うのに、今年はまだ雨が殆ど降っていないからな」


 この世界の一年は1の月(ウノセンバー)から13の月(トリディセンバー)までの一三か月で、一か月は三〇日。13の月(トリディセンバー)だけは二〇日で、一年は三八〇日だ。

 そして雨季は6の月(セクセンバー)の終わり頃から7の月(セプテンバー)の終わり頃までだ。


「へぇ、そうなんだ」

 深刻な顔をする父と違って、フォーリィはあまり真剣には捉えていなかった。所詮、彼女にとって対岸の火事だ。

 だから、次の彼女のセリフは特に深い意味は無く、雨=水と言うキーワードで頭をよぎったに過ぎなかった。

 だがそれが後に大きくこの国の歴史を変える事になるのだが。この場にはそれを予測できる者はいなかった。


「水不足なら水車を使えばいいんじゃない?」

「水車?」

 初めて聞く言葉に、スタニェイロが首を傾げる。

「フォーリィが裁判の時にお披露目した、川などの水の力で車を回す物よ」

 父親にホットミルクを渡しながら、ヴェージェが答えた。


「その水車とやらを使うと、どうやって水不足を解消できるんだ?」

「大きめの水車を使うと、数メアトル高い水路に水を供給できるから、人の手を介さずに川から遠く離れた所まで水を送り続けられるのよ」

 フォーリィの説明にスタニェイロは目を見開き、彼女に顔を近づけた。

「なにっ?そんな道具があるのか?」

 そんな父親の反応に、フォーリィはニヘッと嬉しそうに顔を崩す。


「私が特許申請した時の写しがあるわ。持ってこようか?っと、パパは急いでいるんだったわね」

「遅れても構わない。こちらの方が大事だ。是非頼む!」

「分かった♪」


 フォーリィは自分の部屋へと走って行く。

 それを見てヴェージェが関心したようにつぶやく。

「相変わらず殆ど足音をたてずに走るわね」

「まったく、変わらないな。走り方もそうだけど、話し方や甘え方まで。ついついあの娘が記憶喪失だって忘れてしまいそうになるよ」

「私もよ」


 そうしてる内にフォーリィが羊皮紙を数枚持って戻ってきた。


「これが水車よ。川などに設置して、水がこの下を流れると、水の力でこの水車が回るの」

「回るとどうなるんだ?」

 スタニェイロの質問に、フォーリィはもう一つの羊皮紙を広げた。

「これを見て。水車の横に四角い箱が取り付けられているでしょ?この箱は横向きで水車に固定するの。で、水の流れる先に向いている所だけふさがずに開けておくの」

「開けておく?」

「そう、この箱が下に来ると、下を流れている水が開いている所から箱の中に入るの。そして水の力で水車が回るとこの箱も一緒に上に持ち上げられるの。そして箱が上の方に行くにしたがって箱が横倒しになるでしょ?そうすると水が箱から出てくるから、樋などで水を受けると遠くまで水を運べるわ」

「こ、この水車はどのくらいの大きさなんだ?」

 スタニェイロが目を見開き、食い入るように羊皮紙を見る。


「半径二メアトル以上でも可能よ。まあ、大きくなれば強度を上げなければならないし、水車を動かすための水量も多く必要だから限度はあるけど。そこらへんは試行錯誤していくしかないかな」

「凄いじゃないか。これを導入すれば多くの畑に水を届けることができるぞ。お手柄だ」

 褒めるスタニェイロに、フォーリィは『もっと褒めて』と言わんばかりに頭を突き出す。

 そしてスタニェイロが彼女の頭を優しく撫でると、「にゅぅぅ」と、とろけるような笑顔で父親の胸に顔を埋めた。



      ◆      ◆


「洗濯機の開発が全然進まなぁぁぁぁい!」

 あれから二日後、フォーリィは城に呼ばれて、お役人達に水車の事についての質問攻めに会い、挙句の果てには役人達と工房に行って数日間水車作りの指導をする羽目になったのだ。(代金はたんまり貰ったが)


「どうして、こうなった」

 嘆くフォーリィだが、父親の役にたてたようなので、後悔はしていなかった。



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