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132 ハーフエルフっ娘VSサリデュート聖教 ~ その12

「まだ見つからないのですか!?」

 通信用魔法陣の前で、第一八聖騎士団の団長は本日何度目かの怒鳴り声をあげていた。


 偵察部隊がフォーリィ達を見失って今日で五日。探知系の魔法が使える者を中心に、三〇の部隊を動員して砦から放射線状に調べさせているが、未だに彼女達の足取りは掴めていなかった。


「大司教様にどのように報告すればいいんだ?」

 通信を終えて頭を抱える聖騎士団長を興味なさそうな目で見ていたダガーの勇者は、軽く肩をすくめる。

「まだ俺の出番はなさそうだから、部屋で休ませてもらうよ」

 そして、勇者は(きびす)を返して部屋から出て行った。


 彼は、自分の妹弟子が既に国境を越えているだろうと予想がついていた。

 だが、その事で彼がフォーリィに対して特に思う所はなかった。

 彼女の目的が、大司教と直接対峙して決着をつける事である以上、この砦を迂回してサリデュート聖教国入りをする事は当たり前だったからだ。



「皆離れて。魔力供給を絶つから」

 砦から馬車で北に八日の距離。

 フォーリィ達は、たった今渡った簡易橋の前で作業を行っていた。


 フォーリィは手元のレバーのロックを外すと、レバーを手前に倒して魔力供給を絶つ。

 すると、目の前の簡易橋が一気に崩れて谷底に落ちていく。


 この簡易橋は、魔石により強化された土で出来ていた。

 作成方法は簡単で、崖の向こう岸まで等間隔に二本のロープを張り、その二本のロープに被せる形で薄い布を乗せた後、手前から薄っすらと土を被せて土の魔石で強化していく。

 そして向こう岸まで強化した土を届かせると、同じ工程で強化した土を重ね掛けしていった。鉄象(せんしゃ)が乗っても壊れない強度に達するまで。

 最後は、ロープと布を回収すれば、土と魔石、そして魔力線で構成された簡易橋の出来上がりだ。

 この簡易橋の利点は、それほど多くの資材を必要としない点と、魔力供給を絶てば一瞬で橋を消し去り、彼女達がそこを渡った痕跡を残さない点だ。


 実は、捜索隊は完全にフォーリィ達を見失っていた訳ではなかった。

 簡易橋に使った土が谷底に落ちていたし、鉄象(せんしゃ)のキャタピラ跡やトラックの(わだち)を消した跡も残っていた。

 だが、そもそも彼らは簡易橋など見たことも聞いたことも無い。それに、鉄象のキャタピラ跡などは聖騎士団が見慣れているはずもなく、目に付いたとしてもそれがフォーリィ達によるものだと思わなかったのだった。


「さあ、サリデュート聖教国の聖都まで後二日よ。頑張りましょう」

 トラックに設置されている魔道モーターにより土の魔石が付いた魔道線が巻き上げられたのを確認すると、フォーリィは出発の指示をだした。


 最後尾を走るトラックの後部に設置されている轍を消すためのブラシは、二日前からすでに下ろさずに走っている。

 三日も移動すれば、砦の聖騎士が轍の跡を見つける確率は極めて低いからだ。


 フォーリィは、砦を守る聖騎士団の中に彼女の兄弟子がいる事が分かると、急遽、第二プランに切り替えた。つまり、砦を迂回してサリデュート聖教国に入るプランだ。


 第一プランである砦の聖騎士団殲滅は、遠くからようすを見てイケそうだったらと言う程度のものだった。

 だから、相手が兄弟子と分った今、第二プランに切り替える事にためらいは微塵にもなかった。

 正面からぶつかるのは論外だ。

 例え同門であっても、それぞれ敵対する勢力からの依頼を受ければ、命懸けで殺し合う。それが地球での彼女達のルールだった。

 でもそれは、今回の彼女の目的から外れていた。

 彼女の目的はサリデュート聖教国の聖騎士団を根絶やしにする事ではなく、彼女を聖敵と断定している大司教とその取り巻き達をどうにかする事だ。


 しかし、迂回ルートをとると言っても、この世界に精密な地図などあるはずがない。

 そのため、フォーリィは竹飛竜(ヘリコプター)部隊を使って周辺の地形を動画に収めてもらい、その映像を元に隈なく地形を調査してルートを決めていった。


      ◆      ◆


「あなた達はそれでも聖騎士ですか!?命を投げ打ってでも神敵を倒すと言う志は無いのですか!?」

 ここ数日、全く変わらない第一八聖騎士団長からの報告を受け、大司教は通信用魔法陣に向かってヒステリックな声を上げていた。


『た、大変申し訳ございません!で、ですが、東の死神達の姿が忽然と消えまして……その……(ひづめ)の跡すら残さず……その……まさしく死神の軍団とも言える……』

「その言い訳は聞き飽きました!!言い訳をする暇があるのなら、一刻も早く東の死神を探し出して打倒すのです!分かりましたか!?」

『は、はい!!今すぐ!』

 第一八聖騎士団長が怯えの混じった声で答えると、すぐに通信用魔法陣から光が消えた。


「くったれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 大司教は叫び声と共に、手に持っていた聖典を前方の祭壇に投げつけた。

 すると、運悪くその聖典は祭壇に祭られていた教祖サリデュートの陶器の象に当たり、一緒に床に落ちた。


 激しい音と共に砕け散る教祖の象。

 それを見て司教達は青ざめるが、大司教だけは顔を真っ赤にして更に怒りを高める。


「くそっ!くそっ!くそっ!あの無能により教祖様の象が破壊されてしまった!全部あの聖騎士団長のせいだ!東の死神の件が片付いたら、あいつを宗教裁判にかけて『無二なる御方』の元に送ってやる!」

 ダンダンと足を踏み鳴らして大声をあげる大司教。


「大司教様!!た、た、大変です!

 その時、聖騎士の一人がノックもせずに通信用の部屋に入って来た。


「何ですか、あなたは!?ノックも無しに!!」

 振り向いて睨む大司教。

 そんな大司教の怒声に怯みもせず、聖騎士は叫ぶ。

「だ、大神殿の上空に何やら奇妙な物が飛んでいます!!」



「こ、これは……」

 慌てて中庭に移動した大司教達は、空を見上げてそう呟いた。

 そこには竹飛竜(ヘリコプター)が五機、大神殿のようすを伺うようにホバリングしていた。


「くっ!何なんですか!何で東の死神がもうここまで来ているのですか!?」

 大司教は振り向くと、後ろで控えていた近衛聖騎士隊長に怒鳴りつける。

「何をやっているのですか!?さっさとあの聖敵を撃ち落としなさい!!」

 その命令に、隊長は慌てた声で返事をする。

「大司教様。あの距離ではどのような遠距離魔法でも届きません」

 それを聞いて、大司教は顔を真っ赤にして彼に聖典を投げつけた。

「言い訳は聞きたくありません!あなた達の信仰心を示しなさい!!」

「はっ!失礼しました!」

 隊長は慌てて右手拳を自分の心臓の当てて敬礼をする。そして、部下たちに遠距離魔法攻撃の指示を出す。

 そのようすを視界の隅にとらえながら、大司教は小声で司教達に告げた。

「こうなったら勇者召喚を行います。皆さん付いてきてください」

 その言葉で、司教達の間に緊張した空気が流れる。



      ◆      ◆


 大神殿一階の奥に設置されている召喚の間。

 ステンドガラス越しに降り注ぐ太陽の光が、金や銀で装飾された内装を輝かせていた。

 そこに訪れたのは大司教と司教達。そして近衛聖騎士隊長率いる一六名の聖騎士達。


 聖騎士達は手際よく中央の魔法陣を取り囲む形で陣取ると、いつでも魔法を放てるように準備する。

 召喚された勇者が暴れたり、大司教に危害を加えようとすれば、即座に倒すためだ。


 大司教は祭壇の前まで来ると両膝をついて祈りを捧げるポーズをとる。だがしかし、彼からは祈りの言葉は聞こえて来ず、彼の口も微動だにしていなかった。

 そしてその瞳はしっかりと見開かれ、祭壇の上の教祖の象を呪い殺さんとするかのように睨みつけていた。


 やがて大司教はゆっくりと立ち上がると、後ろで真剣に祈りを捧げている司教達に振り向いた。顔に不自然な笑顔を貼りつかせながら。


「さあ、今から勇者召喚を行います。皆さん、準備はいいですか?」

「「「「はい!!!」」」」

 笑顔のまま問いかける大司教に元気よく答えたのは四人の司教。彼らは尊敬のこもった眼差しを大司教に向けていた。

 それを見て、大司教は満足げにうなずく。

 そして次に、大司教は汚物を見るような目を、残りの司教達に向けた。


「おや、他の方達から返事がありませんね。まさか『無二なる御方』への信仰心が無いとは言いませんよね?」

「いえ!決してそのような事はありません!!」

 慌てて、司教達は口々に弁明の言葉を発する。

 だが、彼等は血の気の失せた顔をしていた。


「よろしい。では皆さん、所定の位置についてください」

 大司教の指示に、四人の司教は嬉々として魔法陣の周りに描かれている小さな魔法陣の近くに移動した。

 その小さな魔法陣の中央には大きな魔石が埋め込まれていた。

 本来、その魔石に魔力が満たされていれば煌々と輝き、勇者召喚に必要な魔力が蓄えられた事を示すのだが、今は微かな光を発しているだけだった。


 四人の司教達は、その小さな魔法陣の上に、頭を中央の魔法陣に向けた形で仰向けに横たわると、胸の上で手を組み、喜び満ちた顔でゆっくりと目を閉じた。

 そんな彼等とは裏腹に、残りの司教達は真っ青な顔をしてカチカチと歯を鳴らしながらゆっくりと移動していく。


「ほら、あなた達。ゆっくりしている暇はありませんよ。こうしている間も死神がこの大神殿を破壊しようとやって来ているのです。早くしてください」

 大司教に急かされるが、それで司教達の足取りが早くなる訳でもなく、ガタガタと身体を震わせながら歩く彼らの姿を大司教は苛立たし気に見ていた。


 やがて司教達が中央の魔法陣を囲む形で横たわると、大司教は再び不自然な笑顔を貼りつかせた。


「さあ只今より、()()()()()()()()()()勇者召喚を行います」

 大司教は満足げな顔を浮かべ、両手を広げて儀式の開始を宣言する。


「あなた達の生命力は魔力となり、勇者をこの世界に召喚するでしょう。そして、大神殿を守る勇者を召喚したあなた達の魂は『無二なる御方』の元に送られ、永遠の幸福が約束される事でしょう」


 それは、勇者召喚の魔力が不十分な時の緊急措置。

 八名の司教を生贄にして執り行う召喚術式だった。

今回、キリの良い所で区切ったら短くなってしまいました。


司教達は権力と贅沢が約束されていますが、緊急事態では命を捧げる義務があります。

拒否すれば宗教裁判にかけられて、一族もろとも処刑されますので、彼等に選択肢はありません。

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