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閑話休題 大魔導師レイトゥルー

今回は、第六話で話の中に出て来た大魔導師レイトゥルーの視点でのお話です。

「レイトゥルー様、これが今月分の特許使用料です」

「うむ」

 渡された羊皮紙に書かれた値を見る。うん、安定した収入じゃ。


 毎月の月初めは、こうして商業ギルドに顔を出して、(わし)の口座に入金された特許使用料を確認するのが楽しみなんじゃ。

 受付のお嬢さんも美人ぞろいで目の保養にもなるしの。

 特に今、儂を担当しているお嬢さんは胸も……げふんげふん……いや、何でもない。


 ん?(ふいご)の魔道具の使用料が結構減っておるな。

 じゃが収入の殆どが着火の魔道具の特許使用料じゃから、あまり気にする事ではないか。


 うん?これは?

 今回は、値段の上に何やら見たこともない模様が描かれている。

「お嬢さん、値段の上に付いている、この模様はなんじゃ?」


「ああ、それはですね、カデン伯爵様が考案されまして、今月から公式資料にも併記する事になりました『数字』と言う、数を表す文字です。文字一つ一つが数になっていまして、数字の数で桁を表すんです。例えばここは、1・2・8・4・6・0・0と書かれていますので百二八万四千六百クセルです。この数字と言うのは画期的ですよね。お陰て計算がとても楽になりました」

 ちっ。ここでもあの小娘か。

 最近、色々な製品を開発して、いい気になりよって。


 まあ、テレビとやらはそこそこ楽しいし、ちょっとは良い物だとは思うがの。


 うむ……

 ここいらで、少しあの小娘の鼻をへし折ってやるか。

 魔道具開発では、まだまだ儂には敵わないのじゃから。それをしっかりと教えてやらなきゃならんからな。


「ああ、お嬢さん。そのカデン伯爵の開発じゃが、彼女の特許の写しを貰いたいのじゃが」

 ふふ、小娘の技術を参考に、儂独自の技術で遥かにすごい物を作っちゃるわい。


「あの、レイトゥルー様?カデン伯爵様のどの特許の写しでしょうか」

 どの特許だと?

 ああ、特許の写しは一件につき六万クセルするからの。ギルドのルールとして一応聞くことにしておるのじゃな。

 じゃが、儂は天下の大魔導士じゃ。

 特許使用料で稼いだ金がたんまり有るから、例え特許の数が多くても数十万クセルなど、はした金じゃ。


「全てじゃ。カデン伯爵の特許、全ての写しを頂きたい」

「す、全てですかぁぁぁ!?」

 な、何じゃ?目の前のお嬢さんだけでなく、商業ギルドの受付嬢たちが一斉に目を剥いてこちらを見ておるぞ。


「ああ、全部じゃが。何か問題でも?」

 むっ?受付嬢の何人かは顔が蒼白になっておるぞ。

 何かまずい事でも言ったのか?儂。


「あ、あの……二四三〇件、全てですか?」

 今、お嬢さんは何て言った?

 いや、まさか。聞き違いじゃろ。


「すまんな、お嬢さん。どうも歳のせいか耳が遠くなってな。二四三〇件って聞こえてしまったわい。あはははは」

「はい……二四三〇件って言いました」

「な……」

 何だって?

 いやいや、おかしいじゃろ。だってカデンの製品って何千種もなかったはずじゃ。


「あの小娘、じゃなくて伯爵様はそんなに特許を取得しておるのか?」

「はい。あ、いいえ」

 どっちじゃい。


「正確には先月の締め日までに申請され、正式に受理されて王都で管理されているのが二四三〇件でして、こうしている間も、毎日のように特許が申請されています」

 ま、毎日っ!?


「カデン伯爵は、そんな毎日新しい商品を出しておるのか?」

 そんな事をすれば、世の中が物で溢れかえるぞ。


「あ、いえ。製品の中に組み込まれる部品の特許とか、製品のデザイン特許とかも申請されています。また、どうやら製品化するか分からないけど、取り敢えず特許を申請しているケースもあるようです」

「手あたり次第かぁぁぁぁぁぁ!?」


 特許一件につき、申請料がいくら掛かると思っとるんじゃ?

 いや、あの小娘ならそれくらいの金はあるか。いや、でも。それでも、普通そんなに特許を出願するか?


「ま、まあ、そんなにあるんじゃ仕方がない。ではとりあえず、例のテレビとやらの特許の写しを頂こうかの」

「あ、はい、分かりました」

 そう言って受付のお嬢さんは奥に入って行ったが、またすぐに戻って来た。

 何かあったのか?


「レイトゥルー様。テレビは先月、新型の特許が出願されていますが、どちらの写しをご希望でしょうか」


―― ざわり


 おおっ、怖っ!

 周りの商人達の目つきが変わったぞ。


―― おい、聞いたか?新型のテレビだって

―― いつ発売するんだろう

―― 俺も一口乗せて貰いたいな

―― 俺も特許の写しを貰おうかな

―― 止めておけ。どうせ見ても分からないから


 うーむ、やはりテレビは注目の的らしいの。

 これは、あの小娘より出来の良いテレビを出せば、儂の知名度はあの小娘を凌げるぞ。


「最新型の特許でお願いするかの」

「はい、分かりました」


 おお?彼女だけでなく、他に二人の受付のお姉さんが奥に入っていったぞ。


「レイトゥルー様」

 おおっ!ビックリした。商業ギルドのギルマスか。

 歳寄りに、いきなり横から声を掛けるな。ポックリ逝ったらどうするんじゃい。

「写しが完了するまで、どうぞこちらで、おくつろぎ下さい」

 なんじゃ?ただ、写しを作成するだけじゃろ?何で移動してまで、くつろがなければならないんじゃ?

 あと、中年のおっさんにエスコートされても嬉しくもなんとも無いのじゃが。


「で?いつまで待たされるんじゃ?」

 あれから二〇分。

 出された茶菓子は旨かったが、いい加減、飽きてきたぞ。

 時々、受付のお嬢さんがお茶のおかわりをくれるが、淹れ終わったらすぐ戻って行ってしまうし。


「お待たせしました」

 おお、やっと出来上がったか。

 それにしても、たかが写しで結構待たされ……

「な、何じゃ?その羊皮紙の束は」

 儂は最新型テレビの特許と言ったよな?

 いや、まさか、最新型テレビの特許の写しを複数部もってきたのか?


「これが、最新型テレビの特許の写しでして、一部で一〇枚となっています」

「一〇枚?一つの製品の特許で?」

「はい、そうです」

 いやいや、申し訳なさそうな顔をしても、多すぎじゃろ?非常識じゃろ?あの小娘。


「では、こちらが代金です」

「えっ?」

 一五万クセル?

 差し出された木札には、しっかりと一五万クセルと書いてあるぞ。

「確か特許の写しは一件につき六万クセルじゃったはずだが」

「それが……最近やたらと枚数の多い特許ばかり出願されていますので、一件で五万クセル、更に羊皮紙代が一枚に付き一万クセル頂く事になりました。大変申し訳ございません」

 これもあの小娘のせいか。まったく。

 まあ、お金はあるからいいのじゃが。何しろ儂は天下の天才魔道具技師じゃからの。

 でも、一件で一五万クセルって……全ての写しを頼まなくて良かったぞ。危うく破産するところだったわい。



「ふうっ」

 やっと家に着いたぞ。

 あの小娘のせいで結構時間をとられてしまったわい。


「旦那様、紅茶を用意しました」

 うん、うちのメイドは、いつも絶妙のタイミングで紅茶を出してくれるな。

 それに、先ほどの受付のお嬢さんと負けず劣らずの美貌じゃし。


「さて、どれどれ。テレビとはどんな構造なんじゃろうな」


 えーと……


「この特許は特許番号五三番のテレビを改良し、より高画質の番組を、同時に複数送信する技術の特許である……」


 ……


「特許番号二四一八番の高精細パネルを使うことにより……」


 ……


「特許番号二四二九番の圧縮技術で圧縮された情報を、特許番号二四二八番の魔力シー・ピー・ユーを使って……」


 儂は羊皮紙の束を机の上に置くと、ティーカップに手を伸ばして紅茶を喉に流し込む。

 口の中に広がる紅茶の香り。

 そして、紅茶の暖かさが程よい心地よさを与えてくれる。


 ふと、窓の外に目を向けると、そこには透き通るような青空が広がっいた。


「うん、さっぱりわからん」


 って言うか、何じゃこれは!?

 パズルか?謎解きなのか?

 これは複数の特許を組み合わせないと読み解けない暗号なのか?


「そもそも、これは本当にホーズア王国語なのか?高精細パネルってなんじゃぁぁ!?圧縮って何なんじゃ?中に布団でも入っておるのか?毎秒五〇フレームって何じゃ?内部でそれだけの画面が表示されているのか?動いている映像が一つだけ送られてきているんじゃないのか?」


 はぁ、はぁ、はぁ


 どうやらあの小娘は、自分の製品を他人にパクらせ……げふんげふん……参考にされたくないようじゃの。


「ふうっ……」

 叫んだら少しは落ち着いたわい。


 気付いたら、思わず立ち上がって、特許の写しを床に投げつけてしまったようじゃ。

 取り敢えず座って、紅茶を飲もう。うん。


 あ~、窓の外で小鳥が飛んでおる。


「……ジジイの時代は終わったと言う事じゃの……」


 どうあがいても、あの小娘には追い付けそうもないな。


 …………


「そうじゃ!これからは魔法の術式開発に力を入れよう」

 何でも、あの小娘は魔法が使えなくなったとか。


 術式ならあの小娘に追い抜かれる事もない!

「ふふっ、ふふふっ、儂は自分の才能が恐ろしい。とても天才的な妙案じゃ」

 そして術式にも特許申請ができるように、ホーズアの奴を脅し……げふんげふん……お願いしてみるかの。


 見ておれ、小娘。

 魔法術式でお前さんをぎゃふんと言わせてやるわい。


「あーはっはっはっはぁ~!」


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― 新着の感想 ―
[一言] これの詳細知ろうとすれば 山のような特許の写しが必要になっちゃいそうww
[一言] あ~、特許係の残業時間が~ カデン側からするとパソコンプログラムみたいなもや ソースコードみたいなもんを外注出来て楽できる その分、別の開発に手が回せてさらに職人の生気が減っていく って所…
[一言] じい様、進んだ技術(科学)は魔法と変わらないのだよ?。
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