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102 ハーフエルフっ娘とドラゴン

「何?この手紙の山」

 王都に大量のドラゴンが訪れた竜集う12の月ドラグーヌ・デュオディセンバー事件から一〇日、フォーリィはカデン領都の執務室で自分の机の上に山積みになっている封蝋(ふうろう)(ほどこ)された手紙を見て首を傾げる。


「いつものやつですよ。縁談の話しやら、パーティーのお誘いとか」

 近くの机で書類の作成をしていたラントゥーナ補佐官が、何を今さらと言う顔で答える。


「えっ?これ全部?多くない?」

 手紙の数は、今までで一番多かった日の三倍を超えていた。

 だが、ラントゥーナだけでなく、同じく書類仕事をしているヴェージェ、クリザテーモ北カデン内政担当、そしてアントゥーリアも呆れた顔をする。


「フォーリィ。それは生脚のせいよ」

「生脚?」

 ヴェージェから、ため息混じりに言われたフォーリィは、首を傾げた。

 それを見たラントゥーナは、静かに立ち上がると、額に青スジを浮かべてフォーリィに詰め寄った。


「火竜王との決闘直後ですよ!伯爵様はテレビで放送されている中、生脚を曲げたり伸ばしたりして披露してましたよね!?」

「確かに、そんな事した記憶はあるけど……あれだけで?」

 ラトゥーミアの件でホーズア王達に下着を見られたのは、さすがに恥ずかしかったが、フォーリィにとっては生脚くらい何でもなかった。

「当たり前です!!どこの世界に、結婚前の女性が生脚を披露しますか!」

 目を吊り上げて怒るラントゥーナ。この世界の一般常識的には生脚は衝撃が強かったようだ。


「それでなくとも伯爵様の脚は、女性の私から見てもとてもお美しいのです。人前に(さら)したりなんかしたら、それこそかがり火に群がる蛾のように、たくさんの殿方たちが集まって来ますよ」

「げっ」

 これまでも自分の胸目当てで縁談話が結構来ていてうんざりしていたが、先日の生脚でそれがもっと酷くなるのかと思うと気が重くなった。

「……全部、お断りして」

「分かってます。いい加減、自重してくださいね。伯爵様」

 項垂れるフォーリィに、ラントゥーナはやれやれと言った顔でそう答えた。


「んっ?」

 その時、フォーリィの魔道音伝器(ケータイ)の呼び出し音が鳴る。


      ◆      ◆


「物凄い特別なお客様?」

 ケータイで呼び出されたフォーリィが、急いで街から離れた場所にあるドラゴン様窓口にと向かうと、そこには、全身金色のドラゴンが陽の光を浴びて光り輝いていた。


「一〇〇士気(しき)ドラゴン?」

 思わずそんな言葉を口にしたフォーリィに――

『黄金竜王だ!間違えるな小さき者よ』

 グワッと口から光を零す黄金竜。聖魔法だろうか。

 それを見て気が短い竜なのかと思い、彼女は言い訳をする。

「いえ、間違っていません。お客様の神々しいウロコの輝きに、一〇〇体のドラゴンの士気に引けを取らない強さを感じたのです」


『おおっ!さすが、分かっているではないか』

 彼女の心にも無いおべっかに気持ちを良くしたのか、バンバンと激しくシッポを振り始める。


『そうなのだ。我こそ竜王を名乗るに相応しいのだ。それなのに、我よりちょこっと強いと言う理由で、あの赤いのは竜王などと名乗りおって』

 どうやら黄金竜は自称竜王だったようだ。


『そこでだ、()()()()()よ』

 ぐぐっと顔を近付けてくる黄金竜。

『誰もが我を王と認めるようにできないか?例えば、爪をもっとカッコよく彫るとか。角を彫るのもいいかも知れぬぞ』

 つまり実力で勝てないから、見た目だけでも竜王っぽくして欲しいと言う事だった。

 フォーリィとしてはドラゴンの見栄に付き合わされるのは、まっぴらだった。

 だから黄金竜の要望通り、適当に爪と角にデコレーションを施して……


『代金は、我の寝床に散らばっていたこのウロコだ』

 渡されたのは三〇枚ほどの金色のウロコだった。

 オークションに掛ければ、恐らく三億クセルは下らないだろう。

 それを見たフォーリィの目の色が変わった。


「そうですね……」

 彼女は真剣な目で黄金竜の頭の先から爪先まで眺めた。



『テレビの前の皆さん。緊急放送です』

 テレビから緊急放送を告げるベル音が響き、国内外の人々が急いでテレビを起動すると、テレビ画面からはレポーターのホシャロンが映し出された。

『なんと、今、カデン伯爵様は黄金竜にトリミングなるものを行っているそうです』

 後ろに映っているのは黄金竜。

 先ほどとは比べ物にならないくらい輝いていた。


「伯爵様。トリミングとは何でしょうか」

 ホシャロンにマイクを向けられ、フォーリィは急遽集めた作業員たちに指示を出しながら答える。

「トリミングは、ウロコなどを綺麗に揃えることよ」

 本当は犬の毛などを綺麗に刈り揃えることなのだが、フォーリィは今やっている事がドラゴン達の間でブランドとして定着するだろうと思い、敢えてトリミングと言うこの世界にはなかった言葉を用いる事にした。


「作業が終わる前にテレビカメラが到着して良かったわ。こちらを映してちょうだい。ここはまだ手付かずのウロコよ」

 案内されたのは尻尾の先。

 フォーリィは作業員に少し手を休めてもらい、テレビカメラでウロコのアップを映してもらう。

「ウロコの大きさや形がバラバラ。それに表面も傷だらけで輝きが弱いでしょ?だからまず、こちらの機械を使って大まかに削り取るの」

 フォーリィが指示を出すと、作業員が魔道モーターで動くドリルのような機械を手にする。

 機械の先には円盤状の目の粗いヤスリが装着されていた。

 そして機械に魔力を流して起動させると、ガリガリと表面を削っていく。


 通常、ドラゴンはウロコを硬化魔法で保護しているので、こんなに簡単に削れないが、今は硬化魔法を切って貰っている。


 暫らく表面を削り凹凸を無くしたあと、大きさや形を整えていく。


「次に、もっと目の細かいヤスリで削るの」

 今度は別の作業員が、先ほどの機械と同じものを持ってウロコを削りだす。

 先端に付いているヤスリは先ほどより細かい物で、間違えないように色分けされていた。


「このように、五段階で徐々に目の細かいヤスリで磨いていった後、こちらのワックスを付けて布で磨くの」

 そのワックスは、フォーリィが自動車を磨くために開発させたもので、細かい研磨剤を混ぜ込んだクリームだ。

「すると、このように綺麗に仕上がるわ」

 そう言ってフォーリィが指示した場所をテレビカメラがアップで映し出す。

「「「おおぉぉぉ……」」」

 その映像を見て、テレビの前の人々が思わず声を漏らす。

 そこにはピカピカに磨かれた鎧のように、見事な光の反射でカメラマンの姿を映し出している立派なウロコがあった。


「では、こっちに来て」

 続いてフォーリィは、ホシャロン達を黄金竜の頭の所まで誘導した。


「一〇〇士気さん。どうですか?気に入りましたか?」

 そこには、目の前に光を反射する壁を魔法で作り出し、自分の姿に見惚れている黄金竜の顔があった。

 フォーリィが敢えて一〇〇士気と呼んだのは、黄金竜と呼ぶと「王」を付けろと怒りだすのが目に見えていたし、かと言って黄金竜王などと呼べば火竜王たちの怒りを買いそうだったからだ。


『素晴らしい♪素晴らしいぞ♪これこそ王たる者の輝きだ』

 後ろの方で、尻尾を押さえつけている紐がぎしぎしと音を立てる。

 途中から黄金竜がしきりに尻尾を振り始めたので、急遽、紐で固定したのだ。


(また、この前みたいに一〇〇体のドラゴンさんが来ても大丈夫なように、人員や機材の確保をしないといけないわね)

 そのような事を考えながら、フォーリィは黄金竜の肩あたりに刻む「百」と言う漢字を思い出そうとしていた。

 だが、日本で暮らした記憶が殆どない彼女は、ついぞ思い出せずに断念したのだった。


「トリミングは、珍しいウロコなら三〇枚で受け付けています。前回、ネイルアート・マシンをご購入されたドラゴンさんは、もうすでにウロコがたくさんありますので、鉱物とかでお願いします。そうですね……金剛石や金塊なら人の頭の半分くらいの大きさです」

 ぼったくりだった。

 だが長年、人の寄り付かない山奥で暮らしているドラゴンたちはその価値など分かりようがなく、彼らにとっては単に山に落ちている石ころや金属の塊に過ぎなかった。



 その頃、ヴェジェルータ帝国では……


『ご覧ください。トリミング作業の完了です。何と神々しい光でしょう。今までこのように光り輝くドラゴンを見たと言う話があったでしょうか。いえ、ありません。これこそ、ドラゴンと人間の融和によってもたらされた神秘の輝きです!』

「くそっ!」

 興奮気味のホシャロンの声がテレビから響いてくる中、フューニィ・アガパートゥオ四世が忌々し気に水の入ったコップを投げつけた。


「やってくれるじゃないか、お前の妹は。これで俺たちは迂闊にホーズア王国に手出しできなくなったと言うわけだ」

 テレビでは作業が完了して、嬉しそうにバタバタと尻尾を振る黄金竜が映し出されていた。

 つまりそれは、ホーズア王国に攻撃を仕掛けるとドラゴン達の怒りを買うことを意味していた。


「全くあの娘は、いつも想像の斜め上を行くわね」

 近くに控えていたフォーリィの姉、ルーフェが、薄っすらと頬を染めて体をクネクネさせている。


「ねえぇ、()()()♪どうやって口実を作るの?私、早くあの娘を叩き潰したいわ♪」

 大勢の家臣たちの前で、ルーフェはわざと皇帝ではなく旦那様と呼んだ。

 それは彼女の強いおねだりのポーズだった。

「簡単に言ってくれるな……」

 力を振るうのは彼女で、知恵を絞るのは皇帝の役割だ。

 だが、今回ばかりは皇帝もその方法が思いつかなかった。

 今はまだ……



 そして三日後……



 カデン領のドラゴン様窓口には五〇〇体を超えるドラゴン達が集まって来ていた。


「何でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 予想を遥かに超える数に、フォーリィの叫びが響き渡る。


 そんなこんなで、もうすぐクリスマス・ウィークの準備が始まる。

ドラゴン編は今回で最後です。

本作のストーリーは全て、0話を書き始める前から大まかに決まっていますが、ドラゴン編は予定にはありませんでした。

でも、ネタが思いついたので、ねじ込ませて頂きました。

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[一言] そのうち、千年竜王も来ちゃいそうであるww
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