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0 ハーフエルフっ娘、戦う

「きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!矢が!矢がぁぁぁ!」

 一四歳位の、青み掛かった銀髪の少女が頭を抱えて城壁の上でうずくまっていた。


「落ち着けフォーリィちゃん。あの距離なら矢が城壁の上まで届く事は滅多にないから」

「隊長さん。それって届く事もあるって事じゃないですか!どこに落ち着く要素があるんですか?」

 少女は、明らかにサイズの合っていないライトメイルで身を覆い、初めて戦場に出たと言わんばかりに慌てふためいていた。

「ひぃぃぃ!何でこんな目に。安全な場所って言ったじゃないですか!」


「おい、お前たち。フォーリィちゃんの側に行って守ってやれ」

 やれやれと言った顔で、要塞の防衛を任された部隊長が部下に指示をだした。


「それよりお嬢ちゃん。敵はまだポイントに到着してないか?」


部隊長の質問に、フォーリィは涙目で恐る恐る近くに固定してあった望遠鏡を覗き込むと、すぐに目を離して慌てた様子で振り返った。


「ぶ、部隊長さん!部隊長さん!」

「どうした?フォーリィちゃん!」

 何か予期せぬ事でも起こったのか?部隊長は返事をしながら携帯望遠鏡で敵の状況を確認し始める。


「あの、城門破壊兵器を引いている大きな生き物は何ですか?」


 フォーリィの質問に脱力感を覚える部隊長。

 彼女が言っているのは身の丈六メアトル(約六メートル)程の一つ目の巨人だった。


「あの生き物って…………どう見てもサイクロプスだろうが。まあ手懐けて戦場に投入するのは珍しいが」

「ふわぁぁぁぁ。あれがサイクロプスですか」

 フォーリィが望遠鏡を覗き込んで感動していた。

「お嬢ちゃん、元魔法騎士団だろ?」

 部隊長は彼女が元魔法騎士団だと聞いていたし、その活躍も耳にしていた。なので彼女がサイクロプスで大騒ぎする理由が分からなかった。


「ああ!もしかして火に強かったり?どうしよう」

 だが、当のフォーリィはもう部隊長の話を聞いていなかった。


「安心しろ。革の鎧に金属板を張り付けたものを装備させているが、ドラゴン等と違って特に火に強いわけじゃないから」

「あ、一番と五番の投下位置にサイクロプスが到着します。準備させて下さい」

 部隊長の説明はフォーリィの耳には届いていなかった。彼はは小さく溜息をつくと、隣に控えている部下に指示を出す。 

「おい、カタパルトチームに合図を」


「はっ!」


 部下の一人が要塞の内側に向かって手旗信号を送る。すると、要塞内では兵士たちがカタパルトに壺を設置して、壺の上に取付けられている布に火を付けていく。


 その間も、フォーリィは怖々と望遠鏡を覗いていた。



「隊長さん、敵のサイクロプスが投下ポイントに到達しました」

「良し!射出の合図だ!」


 部下の一人が、再び手旗信号を要塞の内側に向けて送った。



 ダン、ダァン!



 カタパルトから射出された壺が二つ、城壁を越えてサイクロプスに向かって飛んで行く。

 そして壺がサイクロプスにぶつかると中の油がサイクロプスに掛かり、そして火種から油が引火する。


 だが、サイクロプスの大きさに比べると油が掛かった範囲は小さかった。

 サイクロプスは特に慌てた様子もなく、手で払いのけるようにして火を消した。

 いや、火を消そうとした。そして火を消せなかった。

 壺に入っていたのは粘着質の油。そしてその油はサイクロプスが火を消そうとした事によりその範囲が広がり。更にはその手にも火が付いた。


「ぐうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 サイクロプスが慌てて火を消そうとするが、その度にますます火は広がっていった。


「ぎぃああああああああああああああああああああ」


 サイクロプスの叫びが悲痛なものに変わり。そしてゴロゴロと転がってのたうち回った。城門破壊兵器を壊し、周りの兵士達を潰しながら。

 魔術師が火を消そうとするが、暴れまわるサイクロプスを前に近付けないでいた。



「あ、重騎兵などの密集ポイントが二番、三番、そして六番の投下地点に近付いて来ます。準備させて下さい」

 フォーリィがサイクロプス達がのたうち回っている様子を視界の隅に捉えて、怪獣大戦争の様だと思いながら、次の指示を出していく。


 ダン、ダン、ダァン!


 再び発射される壺。そして、落下して砕けた壺から周囲に撒き散らされた大量の油は壺の蓋に取り付けてあった火種から引火し、重騎兵達を巻き込み、辺り一面を火の海にする。


 敵の魔術師達が慌てて駆け寄り水を掛けるが、何故か火が消えない。

 魔力の残骸すら感じられない所を見ると、何らかの魔法が掛けられている訳ではなかった。

 説明の付かないその光景に、魔術師達だけでなく、周りにいた兵士達も得体の知れない恐怖に包まれていった。


「スナイパー。消火作業をしている敵の魔術師を撃て」

 事前に打ち合わせした通り、城壁の上の部隊長が指示を出す。すると、魔道筒状武器(ライフル)を構えた兵士が次々と発砲していく。

 発砲が終わると、あるいは即死したのかピクリとも動かなかったり、お腹を押さえてうずくまる様な姿勢で倒れていたりして、立っている魔術師は一人もいなかった。


 これは攻撃なのか?


 敵軍の兵士達は呆然と立ち尽くす。

 近くにいた魔導士達が何の前触れもなく次々と倒れていくのを見て、何が起こっているのが理解出来なかった。

 そして恐怖が彼らの心を一気に覆い、一部の兵士は走って逃げだし、残った兵士は魂の抜けたような顔で呆然と立ち尽くしていたり、腰を抜かして震えていた。


「部隊長さん。四番カタパルト、メモリ三まで絞って準備させて!」


 腰が引けながらも、フォーリィは次々と指示を出す。


「分かった。おい、信号を送れ。四番は絞り三で準備」

「はっ!四番は絞り三で準備!」

 隣に控えている兵士が復唱をして、要塞の内側に向かって手旗信号を送る。



「部隊長さん。新たな城門破壊兵器が四番カタパルトの射程に入りました」


「分かった」

 部隊長の指示でカタパルトから発射された壺が敵の城門破壊兵器にヒットし、勢い良く燃え上がる。

 だが、そこに近付いて行くグループがあった。


「部隊長さん。一時の方向。先程攻撃した城門破壊兵器に、盾を掲げた兵士が三人ほど近付いて行きます。ひょっとして、魔術師を守っているんでしょうか」

 フォーリィの言葉に、部隊長は携帯型望遠鏡で確認する。

「十中八九そうだろうな。スナイパー!一時の方向。キャンプファイヤーに近付いて行く集団に集中砲火!」


 パパパパパァァァァン


 盾を易々と貫通する弾丸の前に蜂の巣になる兵士と魔術師。その様子を敢えて見ないようにするフォーリィ。

 そして、城門破壊兵器や、梯子を持った集団がいないか望遠鏡で探しつつ、敵が今回の攻撃で侵攻を諦めて欲しいと痛切に願っていた。


「嘘つきぃ!ここのどこが安全な場所なのよぉぉぉぉぉぉぉ」


 後に『東の死神』と呼ばれる少女の、ある意味初めての戦場だった。

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