Episode 5
数分経たないうちに、家族がいる海岸へ戻ってきた。既に辺りは夜の帳が下り始めており、近くに寄るまで父親の顔もはっきり見えなかった。
「全く、どこへ行っていたんだイルアス! 遠くへ行くなと言っただろう!」
「も、申し訳ございません父上……」
「はあ……お前は一週間謹慎だ! 自室で大人しくしていなさい!」
「う……は、はい……」
「あまり手を掛けさせないでくれ……ただでさえここ数年はダルノ公爵の処罰だったり国民の革命運動の対処だったりで忙しいんだ。これ以上課題が増えたら私の身がもたん」
「……」
父の叱咤を受けて、思わず黙り込んでしまう。確かに父の言う事は反論の余地がない事実であり、ここ数年忙しくしていた事は自分もよく知っている。父親に不必要に気を使わせてしまった事を悔いていると、父親の視線が僕から裏にいる海龍に移った。
「……それで、お前が乗ってきたそこの海龍はどういうことだ? 一体何があった?」
「あ、じ、実はさっき……
僕は、先ほどあった海龍の事を洗いざらい全て話した。夢中で泳いでいたらいつの間にか知らない場所に居た事、そこで見つけた近場の陸で、海龍に会った事。その海龍がひどい傷を負っていて、自分の持っていた傷薬を塗ってあげた事。その後暫くの間一緒にいた事。帰る方向が分からないといったら、僕を呼んで送ってくれたこと。帰り際、また来てほしいと言っていた事。そして、その海龍の名が『アシリア』であるという事。
父は海龍の名を聞いた瞬間、少し顔を歪めたような気がしたが、恐らく気のせいだろう。
「……なるほどな。随分と、楽しんでいたようじゃないか」
「……」
「まあ、その……アシリア、と言ったか? その者が望んでいるのであれば、お前の謹慎を解いた後も定期的にここに連れてきてやろう。」
「――ッ! 本当ですか父上!」
「但し! お前が日が隠れ始める前に戻ってこないようなことがあれば、もう二度とここに連れてくる事はない。いいな」
「! 分かりました!」
正直に言えば、父の提案は願ってもないものだった。謹慎が終わったらアシリアの元に行きたいと後々願い出るつもりではあったが、父の方が先に言い出してくれるのであれば、僕としても都合がよかった。僕は父の提案にすぐに乗った。これでアシリアとの約束を破らずに済むと考えれば、父のつけた制限などないに等しい。僕はここまで送ってきてくれた海龍にお礼を言って、ここに来るときに乗ってきた馬車に素早く乗り込んだ。
「……はあ、全く、元気な子だな……。面倒なことにならなければいいが……」
そんな父の呟きが、馬車の外から聞こえてきた。