暗殺計画
「命を…狙う…?」
イザベルは男の言ったことに困惑した。黒装束の男は更に続ける。
「そうだ。アルフレッド・エアハルトは聡明で人柄も悪くない。正に当主として相応しい人物だ。しかし、ある人物とその一派がアルフレッドの当主就任を妨害しようと暗躍している。」
「一体、誰ですか?」
「『ギュシュタイン・エアハルト』。アルフレッド・エアハルトの弟だ。」
「弟様が?」
「彼は自分こそ当主に相応しいと思っている。自分が当主になる為なら殺人も厭わない。例えその対象が実の兄であっても、な。」
「嘘でしょ……。」
イザベルは呆気にとられた。日雇いで参加した警備の仕事に、まさか貴族の陰謀が絡んでいるとは思わなかった。そして、その陰謀に自分が巻き込まれていることも・・・。その様子を見て察した黒装束の男がイザベルに尋ねる。
「その感じだと、君は奴等の仲間ではないな?」
イザベルは大きく首を縦に振る。
「勿論です!私は広告を見て警備の仕事に参加しただけです!計画のことは全く知りませんでした!」
「広告?」
「はい!私が今利用している宿の郵便受けに入っていたそうで…あっ、ということは!他にも広告を見て参加された方がいるのでは?!」
「…なるほど。そういうことか。」
「えっ?」
黒装束の男は納得する様に言った。その様子を見てイザベルは何のことか分からず、首を傾げる。
「イザベル君。警備員の数が異常に多いと思わなかったかい?」
「あっ、はい!」
「実はな、暗殺者達は警備員に扮装しているのだよ。」
「えっ!?」
「警備員ならたくさん配置しても怪しまれないからな。実際、アルフレッドはこれまでに何度も命を狙われてきた。むしろ警備員を増やした方が感謝される。」
「じゃあ、広告で警備員を募集したのも…。」
「恐らく計画と無関係な人間を紛れ込ませ、特定されるのを防ぐ為だ。人員が多いとそれだけ顔を覚えられにくい。もっとも、警備員の顔を覚えている奴なんていないだろうけどな。」
「警備員の人選や配置は全て弟様が?」
「そうだ、奴が担当した。1階に配置しなかったのはパーティー会場で確実に殺す為だ。人を多く配置し、対象から目を離さない様にする。そしてチャンスがあれば動ける奴が動く。実行した後、会場は混乱するだろうがそれに乗じて逃げればいい。警備員の中には無関係な人間もいるから確認に時間がかかる。その間に証拠隠滅すれば事件は闇の中だ。実に用意周到、というより執念深い男だ。」
「ど、どうしましょう!?誰が暗殺者か分からない上にアルフレッド様のお命が!」
慌てるイザベルに黒装束の男が冷静に対応する。
「大丈夫だ。紛れ込んだ暗殺者達の顔は割れている。後はどうやってこの計画を秘密裏に終わらせるか、だ。イザベル君、すまないが手伝ってくれないか?」
「はい!もちろんです!」
男の頼みにイザベルは迷いなく即答する。酷い仕打ちを受けても、彼女の心にはまだ騎士道精神が残っている様だ。
「よし、ではついて…その前に。」
移動しようとした直後、黒装束の男は立ち止まってイザベルの方を向いた。そしてフードを取り、正体を明かした。
「自己紹介をしておかないとな。俺は『アルベルト・シュパイデル』だ。」
「よろしくお願いします、アルベルトさん。」