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ジェット騎士団〜影の守護者たち〜  作者: 如月
第一章 絶望と脱却
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刺客

入団式から1週間が経過した頃、未だ生活の手段が見つからないイザベルにある情報が入った。


「パーティー会場の警備?」


「はい!日雇いの仕事ですが、報酬が良かったのでイザベルさんにどうかなと思いまして。」


「なるほど…。」


そう言うと、イザベルはロミルダから1枚の貼り紙を受け取る。それは2日後、ある貴族の屋敷で行われるパーティーの警備員を募集する内容が書かれていた。ロミルダ曰く、朝ポストを確認した際、入っていたとのことである。


「イザベルさん、元気がないみたいだったので少しでも気分転換になるかな、と思いまして…。」


「ロミー……ありがとう。」


イザベルは静かにお礼を言った。ロミルダには全てを話している。彼女は何かとイザベルを気にかけ、元気付けようとしてくれる。そんなロミルダの優しさが身に染みたのか、彼女の目に涙が浮かぶ。


(このままじゃ、駄目だよね…。)


あの日からイザベルはやる気を無くしていた。騎士になる夢を断たれたことで他の仕事への興味が湧かず、食べて寝るだけの味気ない日々を過ごしていた。


(そろそろ私も変わらないと!)


しかしロミルダから貰ったこの貼り紙をきっかけに、彼女の気持ちが立ち直った。彼女は、警備員の仕事を受けることに決めたのであった。

2日後、イザベルはパーティー会場にいた。無論ゲストとしてではなく、ガードマンとしてである。


(さすが貴族のパーティー。会場も参加者も凄いなぁ。)


イザベルが警備するパーティーは『アルフレッド・エアハルト』の当主就任を祝うパーティーである。『エアハルト家』はウルカ王国の設立に大きな貢献をした『12貴族』と呼ばれる名家の一つで、アルフレッドは初代から数えて15代目の当主となる。博識で頭が良く、人を思いやる心を持ち、判断力もある。広大な領地を持つ大貴族でありながら決して偉ぶらない振る舞いから領民は彼を慕い、彼の治める地域では暴動がほとんど起きていない。まさに理想の領主である。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「君、1階の警備を頼む。人手が足りない。」


「は、はい!」


イザベルは会場の警備リーダーの指示で、1階に降りた。2階にあるパーティー会場とは違い、1階は静かで寂しいものだった。そして変なことに、()()()()()()()()()()()


(人手が足りないと言っていたけど、そもそも人がいない。)


不審に思うイザベル。ふと、ある疑問がよぎった。


()()()()()()()()()()()()()()()()。)


参加者の名簿と警備員の数を見比べたとき、明らかに警備員の数が多かった。理由を尋ねると、アルフレッド・エアハルトはかつて命を狙われたことがあるらしく再び同じことが起きないようにするための対策、とのことだった。だがそれならば1階にも警備を配置するべきである。2階にだけ警備が集中しているのは明らかにおかしい。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()かのようである。


(嫌な予感がする。戻ったほうがいいかも!)


そう考えたイザベルが踵を返した瞬間、背後に殺気を感じ、振り向くと同時に一歩後ろに下がった。間一髪、振り下ろされたナイフの攻撃を避けたイザベル。目の前には、覆面をした男が立っていた。男はナイフを構え直すとイザベルと距離を取り、相手の出方を窺う。イザベルも構え、男の出方を窺う。しばらくの睨み合いが続いた後、男が動き出した。男は右手でナイフを振り回し、イザベルを惑わせる。イザベルはナイフの動きに集中し、攻撃を仕掛けなかった。それを悟った男はわざとナイフを手から落とし、イザベルの油断を誘った。イザベルは落ちたナイフに気を取られ、男から目を離した。自分の思い通りに動いたイザベルを見て男はにやりと笑い、左手でもう一本のナイフを抜き、そのままイザベルの首に向けて、突き刺す・・・はずだった。


「!?」


男のナイフは届かなかった。イザベルの右手で制止されたからである。同時にイザベルは左手で短剣を抜くと距離を詰め、男の首に突き刺した。男は段々と力を失い、ゆっくりと倒れた。イザベルは短剣を抜き、刃に付いた血を拭うと鞘にしまった。


「……。」


仮入団の時は戦地に出ることもあったが伝令や負傷者の手当てをし、戦闘に参加することはなかった。また、殆どが騎士団総本部『ドラコナイト」』での事務仕事ばかりであったため、そもそも戦地に出ることが少なかった。故に、イザベルは初めて実戦を経験した。当然、人の命を奪ったのもこれが初めてである。


「……相手は私を殺そうとした。」


だが彼女が感じたのは死への恐怖や殺人に対する悲しみではなかった。


「相手が私の命を狙うなら、私も相手の命を狙うまで。そうしないと、何も守れない。」


彼女は小さな声で、しかしはっきりとした口調で言った。それは自らの行いを正当化する様に言い聞かせたものではなく、自分はこうするという覚悟を決めたものだった。それは養成学校で教えられたことでもなく、騎士道精神にもない、イザベル自身が導き出した答えであった。


「見事だな。」


誰かの声が聞こえる。イザベルは声の方に視線を送る。柱の影から誰かが現れる。


「貴方は!?」


「やあ。また会ったね。」


声の主は以前イザベルを助けてくれた黒装束の男だった。


「あの時も勇敢に立ち向かっていたけど、ただ勇敢なだけではないようだ。相手の思惑にわざと嵌り、敵の油断を誘う。そしてチャンスが出来ると躊躇うことなく相手を仕留める。あの僅かな間にそこまでやれるのはなかなかいない。君は一体、何者だ?」


「…私はイザベル・コーラン。日雇いで参加したただの警備員です。」


「日雇い?では、奴等の仲間ではないのか?」


「奴等?」


「アルフレッド・エアハルトの命を狙う一派さ。」

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