黒装束の男達
「……。」
イザベルは唖然とし、言葉を失った。さっきまで威勢の良かった男達が、僅か数分の間に無力化されてしまった。突然現れた、黒装束の男達によって。
「で、コイツらはどうする?」
「放っておけ。後で誰か気づくだろう。だが俺達がいた痕跡は残すなよ。」
「分かってる。」
銃を持った男が、カエストスを嵌めた男に指示を出す。どうやらこの男がリーダー格の様である。
「さて…。」
リーダー格の男は振り向き、イザベルに目をやる。そしてフードを取り、その顔を見せた。髪は茶色でショート、黒色の瞳を持ち、肌は少し焼けている。
「すまなかったな、巻き込んでしまって。君が助けた女の子から君のことを頼まれてな。」
「えっ、あの子が?彼女は無事でしたか?」
「大丈夫だ。無事に避難した。」
「そうですか…良かった。」
「武器を持った相手に臆することなく啖呵を切ったな。実に勇敢だ。一体君は…。」
「おい、アルベルト。誰か来る。さっさと立ち去ろう。」
「!分かった。君、すまないが俺達がここにいたことは言わないでくれ。俺達と会ったこともな。頼む。」
「えっ?あっ、はい。分かりました。」
「ありがとう。ではまたどこかで会おう。」
アルベルトと呼ばれた男はそう言うと手を振り、他2人の男達と共に去っていった。1人残されたイザベルは、呆然とその場に立っていた。
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その後、街の警備を担当する『警備騎士団』によって暴漢達は拘束された。現場にいたイザベルは質問をされた後、解放された。
「ふー、疲れた。今日はもう休もう。」
緊張と長時間の質問で疲れたイザベルは早めに休むことにし、中心街に戻ることにした。その時。
「あっ、お姉さん!」
「あれ、貴女は・・・。」
イザベルに声をかけてきたのは、先ほど助けた少女であった。イザベルのことが気になり、戻ってきたようである。
「お怪我はありませんでしたか?」
「私は大丈夫。貴女も無事みたいね。」
「はい!命を救っていただき、ありがとうございます!何かお礼をしたいのですが、困っていることはございませんか?」
「ありがとう。でも困っていることは特に・・・あっ。」
ふと、あることを思い出したイザベルは少女に尋ねた。
「ねえ。宿を探しているのだけど、貴女どこにあるか知らない?」
イザベルは今朝宿を引き払ったばかりであった。騎士になれば専用の宿舎があるため、寝床には困らない。しかし、イザベルは騎士になれなかった。故に、また宿を探さなければならないのである。
「宿ですね!分かりました!ご案内しますのでついてきてください。」
「ありがとう、助かるわ。そういえば、まだ名乗っていなかったわね。私はイザベル・コーランよ。」
「私はロミルダと言います。ロミーと呼んでください。」
「よろしくね、ロミー。」
こうしてイザベルはロミルダ、通称ロミーという少女と出会い、ついでに宿に泊まることが出来た。
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ロミーが案内した宿は、彼女の両親が経営している宿だった。ロミーの両親は助けてくれたお礼に宿代を半額、さらに無期限で利用していいとのことだった。イザベルにとって、この優しさはとても心に沁みるものだった。
「・・・。」
夕食を済ませ、部屋に入ったイザベルは荷物を置くと、すぐにベッドの上で横になった。ふと、天井を見ながら、今日出会ったあの黒装束の男達を思い出す。
「あの人達は一体、何者だったのかしら?」
気配もなく現れ、圧倒的な力で敵を倒し、そして風の如く立ち去る。ほんの数分の出来事であったが、イザベルの心に深く印象付けられた。
「騎士の様には見えないけど、力は騎士と同じ、あるいはそれ以上・・・。あんな強い人たちがいるなんて・・・。」
初めて会った彼等にイザベルは興味を持った。しかしそれ以上考えることをやめた。今はとにかく、これからどう生きていくかを考えることが先決である。
「もう、騎士にはなれないからね・・・。」
昨日のことをまた思い出したイザベルは涙を浮かべた。だがすぐにぬぐい、布団をかぶって眠りについた。