見えない未来
「はあ、これからどうしよう…。」
イザベルはベッドの上で呟いた。彼女は今、宿の部屋にいた。部屋にはベッドが2つある。1つはイザベルが使い、もう1つは昨日涙の別れをした親友が使っていた。だが、今はもういない。
「リディ…1人でうまくやっているのかな…。」
2人で立派な騎士となり、国の為に働く。幼い頃、何度も約束した。その約束を果たす為、2人で頑張ってきた。故郷を出て王都に行き、養成学校に入り、耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、そして今年卒業した。ようやく、夢だった騎士になれる。昨日まで、期待が心を満たしていた。しかし、今は絶望と空虚が満たしている。何故自分だけが騎士になれなかったのか、誰がこんなことをしてくれたのか、怒りの疑問が、頭に浮かんでくる。しかしそれ以上に、親友との約束を果たせなかった悲しみが、上回っている。
「…っ!」
目が熱を帯びる。また再び、泣きそうになる。しかしイザベルはぐっとこらえ、涙を拭う。そしてベッドから起き上り、前を向く。
「いつまでも落ち込んでいては駄目!これからのことを考えないと!」
そう決心したイザベルは荷物をまとめ、宿を後にしたのだった。
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宿を出たイザベルは中心街からはずれた通りに座り、落ち込んでいた。通りは人々が歩き、いつもの平和な風景を見せていた。
「はぁ〜…。」
深いため息をつく。これからどうすればいいのか、全く分からなくなっていた。仕事を探そうと求人のお店に行ったりしたが、全てお断りされてしまった。いっそ故郷に帰ろうかと思ったが、家族の悲しむ顔が浮かび、それもやめた。何よりも…。
「やっぱり諦めきれないよ…。」
これまでの人生を全て騎士になる為に費やしてきた。しかし昨日、その全てを否定された。唐突に、納得のいく説明もされず。そう簡単に見切りをつけられるわけがない。騎士になる夢は彼女の足枷となり、彼女の負担となってしまった。
「どうしよう…。」
先の見えない未来に、イザベルは絶望感を抱いていた。いっそのこと、命を…。彼女の頭に、危険な考えがよぎった。
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その時。
「きゃ――――――!」
「今のは!?」
突然、どこから女性の叫び声が聞こえた。声といっても非常に小さく、周りの人々には聞こえていなかった。ただ1人、イザベルだけが気づいた。
「さっきの声、何かを恐れる声だった。助けに行かないと!」
さっきまで絶望に染まっていた顔は生気に満ちていた。落ち込んでいた彼女の心に、再び騎士道精神の火がついたのである。
「声はあっちから聞こえた。そんなに遠くはないはず!」
イザベルは声のする方を見た。その目は鋭く、手には拳ができていた。そして彼女は力強く駆け出し、走っていった。彼女の心から、絶望や悲しみは消えていた。