手紙をもらいました
「これ、クラークからの手紙。ちゃんと見てあげろよ」
とある男子クラスメートから、このように言われて、なにも考えずに、とりあえずベッドの上で読んでみた。
現在、昼御飯後の昼寝タイム。
読む前に、クラークのことを考えてみよう。
なぜなら手紙をもらう理由が見つからないからだ。
知っての通り、彼はこの学校にやって来た転入生である。
彼も私も父の国のアニメが大好きで、絵を描くのも好きだ。
共通の話題は結構ある。
席は同じグループのお隣さん。
この学校の変なシステムについていけないとき、私がそれを解説する役だ。
そして、私は最近ピアノをやめて吹奏楽のフルートをやるようになった。彼は吹奏楽部でトランペットをやっている。
一緒にいる時間が多いから話すタイミングも、手紙でも渡す時間とかはあったはずだ。
なぜ他人から間接的に手紙は届いたのだろうか。
読んでみないことにはなにもわからないので、読んでみた。
『真水千夜さんへ
あなたはまるで芙蓉のように美しく、声も鶯のように心地がいい。
転校してきた僕をあなたは天使のように支えてくれた。
僕はあなたの優しさに引かれた。
聖母のようなあなたは笑顔で困っている人をよく助けていた。
僕はあなたの多才さに引かれた。
ダンスができ歌も上手く、フルートやピアノまで扱える。
僕はあなたの少し抜けているところに引かれた。
たまに無意識に外国語の単語が会話のなかに混ざっていたりする。その事に気付いたときのあなたは天真爛漫で、何かに失敗して落ち込む姿は庇護欲をそそる。
その虹のようなあなたが、僕は好きだ。
林海翔より』
なんと、恋文・ラブレターでした。
このように私を見てくれる人がいると言うのは正直嬉しい。
ただ、あまりにもキザすぎる言葉遣いはマイナスだ。
作文として提出したら結構いい点数がとれるんじゃないか?
芙蓉なんてよく知っていたよね。
偏見だけど、男の子ってあんまり花の名前とか知らなさそうだし、花言葉も「お淑やかな美人」とかだからまあ悪くはないね。自分がお淑やかかどうかはもちろん別として。
確かに、このクラスで彼はイケメンの部類に入る。
先生の話をあまりよく聞こうとしない悪い生徒ではあるけれど、先輩後輩に人気はあるそうだ。
よし、これで私はリア充だ!っと思ったとき、自分でストップをかけた。
実は彼、数週間前まで、友達のジェニファーのことが好きだと噂で聞いた。
私は噂に疎いから、私の耳に入ってくる噂といったらよっぽどのものなんでしょう。
その噂を信じる、信じないに関わらず、私は現時点でちょっぴり人間を信じられなくなっていた。
彼は自分の好意を私に伝えてくれた。
もちろん、彼が嫌いなわけではない。
ただ、『愛』が怖い。
愛とは、一体なんなんだろうか。
人を好きになって、その人が相手に降られたら、普通の場合、次の愛を探すだろう。
だが、夫婦になってしまったらそんな簡単な気持ちで次の愛を探す訳にはいかなくなるんだ。
もし、今私が彼のお付き合いを受け入れて、恋人になったとしても、それは多分一時的な幸福にしかならない。
世の中に『初恋』という言葉がある、ということは、その恋が終わり、新しい恋がどんどん増えていくことを意味指すと私は思う。
少しだけ深くクラークについて考えていたら、
彼はイケメンで、女の子への口説き文句もちゃんと頭のなかに入っている。
次の女の子に心写りするのが、私には見える気がする。
でも、断るのも、せっかく勇気を出して、書いてくれたのに、少し可哀想だな、と思い、「読んだよ」とだけ伝えることにした。
だって、「付き合ってください」などの言葉は書かれていないのだから、答える質問がない。
ただ、伝えるだけ。
このように、つらつらと断る理由を考えていたのも、自分の弱さが原因だ。
両親を間近で見てきたんだ。
「もう無理よ。仲直りなんてできない」と、呪文のようにぶつぶつと母が言っているのをよく聞いた。
どうせ結婚しても離れるときは離れるんだ。
だったら、できるだけ長続きする相手がいい。
お互いに利益があるウィンウィンの関係になれる人がいい。
恋愛なんて、私にとってはただの幻だ。
結局私は、恋愛に臆病になっているだけだ。