1ー1 旅客車より
主人公は登場。双子ちゃんはまだ出ません。
ガタンゴトン、ガタンゴトンと一定のリズムが聞こえる。それに交わって時折汽笛の音が鳴り響く。心地いいリズムであるが振動は驚くほど感じない。そんな旅客車の一席で少年は目を覚ました。
「お客様。お客様。乗車券を拝見したいのですが、よろしいですか?」
正確に言うならば肩を揺さぶられて起こされただが。
ゆさゆさと少年を起こしたのはきれいな顔をしたお姉さんと呼ぶべき女性の車掌さんだった。青の制服に白いシャツ、長い銀色の髪を編み青い帽子を被っている。
「あ、すいません。寝ぼけちゃって。」
起こされた少年は自分で染め上げたのか、茶髪ではあるが所々黒い色が覗いている。若干幼い印象の顔立ちだがブレザーの学生服を着ており恐らく高校生だろう。横に学生鞄と折り畳んだコートが置いてある。寝ている所を見られたのが恥ずかしかったらしく顔が少し赤くなっている。
「えっと、乗車券ですか?」
少し慌ててポケットを確認するがふと疑問が生じる。今まで登下校に地下鉄を利用してはきたが、定期券を使っており乗車券を持っていなかった。寝過ごしたとしてもこのように乗車券を拝見する路線に乗ってはいないはず。
ふと辺りを見渡すと乗車券を拝見にきた車掌のお姉さん以外に誰も居らず、座席をはじめとした内装が地下鉄とは全く違うものになっていた。
座っていたはずのロングシートはクロスシートに、しかも座り心地はとてもいい。窓にはカーテンが付いており細かい刺繍がされていた。壁や床板は木製なのか全体的にレトロな、それでいて上品な雰囲気になっていた。
「お客様、どうかしましたか?」
周りをみて固まってしまった少年に車掌のお姉さんが声をかける。少年の寝ぼけ顔が赤く染まり、表情が固まったあとにだんだん青く変化する。その表情を見ると何かあったのが良くわかる。顔に出るタイプなのだろう。
「すみません。電車はどこ行きですか?」
「え?」
「いやそのですね、この電車に乗った覚えがなくてですね。気が付いたら寝てたと言いますか、なんでいるの?って言いますか、間違って乗ったと思うので乗車券は無いですすみません!」
早口でまくし立ててしまったが焦っているのは伝わったらしく車掌のお姉さんは少し困った顔になった。握った手を口元に当て考えているのか唸り始めた。
「乗車券も無しにこれに乗る?そんな事をすれば直ぐに気付くはず。システム的に問題はないし。そうなると乗車券を持っているはずだけど、彼の反応を見るにこれに乗ってるのは予想外の出来事。それなら自分の意思で乗ってはないね。そもそも乗車券を手に入れられるのはあの階級の方達だし、だったら……」
何やらぶつぶつと独り言を言っていた車掌のお姉さんは結論が出たのか、少年に目線を向けた。その表情には好奇心が滲み出ており、どうやらこちらも顔に出るタイプらしい。
「お客様、これくらいの封筒をお持ちではないかもう一度ご確認をお願いします。恐らく青い色をしている物です。」
両手を使いハガキ程の四角い枠を作るお姉さん。そのお姉さんに促されもう一度持ち物の確認をする。
今の自分の持ち物は学生鞄の中に教科書やノート、筆記用具など。ブレザーの制服には財布やスマホ、学生証のみで特別な物は何も見つからなかった。ゲームや漫画なども無いので根は真面目なのだろう。
「やはり見当たりませんね…。」
「お客様、そちらのコートは確認しましたか?」
お姉さんが言っているのは学生鞄の隣にある黒い薄手のコートである。すぐ横にあり畳んであるため少年の物だと思っていたようだ。しかし…。
「それは自分のではないです。」と否定する少年。
季節はそろそろ初夏になる頃だったのでコートは仕舞ってあるし、少年自身の安売りのコートより上質なのは一目で分かった。そんなものに手を出して弁償する事態になったら嫌である。
「それは変ですね。本日この車両には他にお客様はいらっしゃいませんでした。ちょっと確認のためお借りしますね。」
そう言うとお姉さんは置いてあるコートを持ち上げポケットの中を確認しようとする。その時、コートから青い封筒が溢れそのまま床に落ちる…瞬間にフワリと浮き上がり少年の膝に着地した。その封筒の宛名には少年の名前が記されていた。
「あぁありましたね。…どうしました?」
封筒がおかしな動きをしたこと、その封筒に名前が書かれていたことに驚いた表情の少年。その表情を見て不思議そうにするお姉さん。
「えっと…何でもないです。」封筒の動きは自分の見違えだと思い誤魔化しておく。
封筒を開けると手紙と乗車券が一枚ずつ入っており、乗車券をお姉さんに渡す。
「はい、確かに確認しました。イーハ・トーブ発アルファベータ行きですね。それならあと二時間ほどで到着となります。」と、ニッコリ笑顔のお姉さん。
……ん?
「……日本にそんな駅があるの?」
驚き過ぎたのか少年の敬語が崩れてしまう。しかし、お姉さんは気にした様子もなく「まだ言っていませんでしたね。」と呟く。
「改めて異世界間鉄道の銀河に御乗車していたたぎありがとうございます。この鉄道は読んで字のごとく異世界に行くための乗り物です!」
胸を張りどや顔をするお姉さんに対して呆けたような表情の少年。
「……異世界って乗り物に乗って行けるの?」
駅の名前を決めるのに時間がかかりました。自分にネーミングセンスは無いらしいです(笑)