0―0 始まり
あらすじに書いた人たちはまだ出ません。まずは始まりの会話から。
「はい・・・、はい・・・、わかりました。手配しますので、はい。それでは失礼します。」ガチャン
黒い受話器を元に戻してため息をつく。
「はあぁ~~~~~~~~~~~~。」
・・・訂正、長いため息をつく。
どこか懐かしい感じのする黒電話を使っていたのはこれまた黒い髪の女性だった。長く伸ばした黒髪を俗に言うポニーテールでまとめている。学校の校長室、又は社長室に置いてあるような大きめの木製の机と備え付けの黒い椅子。その椅子に座ったまま女性は腕を上げて伸びをする。
「お疲れ様です先生。お茶でも淹れましょうか?」
そんな様子を見て苦笑いしながら黒髪ショートの少女が提案をする。生徒というより「弟子」である彼女は「先生」と呼ばれた女性が上の方々に色々言われ苦労しているのを良く知っていた。
「お願い、濃い目にね。」
面倒な話の後は濃い目のお茶を飲んですっきりしたいので弟子の提案は有り難かった。弟子の家事の腕前を知っている身としては安心してお願いできるというものだ。自身の腕前はどうかなどと聞いてはいけない。
「今回は何のお話でしたか?ずいぶん大変そうな感じですけど。」
湯呑みにお茶を注ぎながら先ほどの電話の内容を聞く。同じ部屋で事務処理をしていた弟子はなにやら先生の雰囲気が「面倒くさい」一色に染まったのに気が付いていた。
「あの双子ちゃんの修行段階がだいぶ前から変わらないからいい加減どうにかしろって、無茶苦茶よ~。」先生はそのまま机に突っ伏す。
そんな先生が突っ伏した際、大きめの胸が形を変えるのを弟子はつい恨めしそうに見てしまう。希望はあると想いながらもはや何年、自身の少ししか成長していない胸をつい気にしてしまう。
先生も弟子が胸の大きさを気にしているのは知っているが決して話題にしない。以前にからかったことがあるがその結果、誰も幸せにならなかったので割愛する。面と向かって貧乳などと言おうものならリアルに地獄を見ることになる。
「そういえばあれから変化ないですよね。力が安定していると言えますが。」
どうぞ、と湯呑みを机に置きながら、妹弟子よりも「後輩」的な立場の双子のことを思い出す。
「だけどそれは成長してないとも言えるのよ。あの子達の力のスペックはとても高いの。だからもっと強い力を扱えるようになって欲しいのだけれど、あのままだと修行が終わらないのよね。」
ありがと、と苦いお茶を飲み一息をつく。先生自身も気にはなっていたが、やるべき仕事はこなしているのであとは心構えではないか?と思っていた。それだと本人が気付かなければ意味がなく、指摘しても正しく聞き入れられるかわからない。それなら時間が解決するかなと楽観視していた。それを人は放置していたとも言う。
「しかし、以前はそのまま修行させて完成まで待つと言ってませんでしたか?修行は時間がかかるのが当たり前ですし、あの子達の数倍時間をかけた方もいらっしゃいますよね」
お茶請けは要りますか?と目線で問いかけながら湯呑みに御代わりを注ぐ。
「そうだったけど状況が変わってきたの。まだ先の話だけどあの子達の配属先がほぼ決まりそうなのよね。」
欲しいです!リクエストはお団子!と目線と頷きで答える。
「それは新たに生まれるということですか?」
お団子は昨日先生が食べ尽くしたのを忘れましたか?お煎餅にしますよ、と呆れた顔をする弟子。
「その通り。だから上も慌ててるのよ。」
お煎餅か~。嫌いじゃないけど甘いものが食べたい気分なんだけど他に何かない?と口を尖らせる先生。
「んーそれならいかがしますか?修行はまだ完成してないですし、あの子達以上のスペックはいませんし。」
甘いものならクッキーがありますよ、と戸棚から取り出す。
「その事をさっき話して説得できたから色々と許可はもらえたの。」
お茶にクッキー!?それってどうなの?合うの?と考える。
「許可、ですか?」
併せたことはないですが、やってみたどうですか?とクッキーを皿に移す。
「そう。だから今回はちょっと手荒な手段を取るね。」
まぁ食べてみれば意外と合うかな?とクッキーを手にする。どうでもいいが目線だけで会話が成立するのは長年の付き合いのおかげである。
「手荒なってどのような?」
「それを説明する前に手配してほしいものがあるんだけど、お願いしていい?時間がかかるかもしれないし。」
あっ意外と美味しい、とクッキーを食べる。
「はい、何をでしょう?」
「とりあえず銀河鉄道の切符を二人分ね。」