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それでも平凡は天才を愛せるか?  作者: 由比ヶ浜 在人
本章 それでも平凡は天才を愛せるか?
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 私は本が好き。


 恋愛小説も好きだし、歴史小説も好き。ファンタジー小説だってどちらかと言えば好きだし、推理小説は嫌いなものが見つからないジャンルの一つ。


 ただ、どの本にも共通して言えるのだけど、本で言うところの「本章」に当たる部分はあまり好きじゃない。


 じゃあ、何で本が好きなんだって言われちゃうかも知れないけど、それは私にだって分からないことなのだ。


 ただ、冒頭の始まりを読んで、胸をワクワクさせてそっとページを閉じるのが、凄い好き。そして、本章を読まずに、エピローグだけを読んで、あぁ、きっとこんな物語だったんだろうな想像するのが、私にとってとても楽しい。


 そんな本の楽しみ方だって、否定されるものじゃないと思う。



 本校舎の屋上に繋がる階段を昇りながら、私は一人、考える。



 だって、ハッピーエンドで終わる物語は、大抵、本章で主人公が苦労することが多いから。葛藤したり、悩んだり、傷つくことだって少なくない。それは、エンドに向けての盛り上がりを演出する為なんだってことは、分かってはいるんだけど。


 そういう部分を見るのが、私は嫌。


 人が傷つくところも、悩んでるところも、見るのが嫌。こっちまで辛くなってしまう。


 もっと、主人公は幸せになってもいいのに、そんな思いをしながら、本を読んでしまうくらいなら、冒頭を読んで、エピローグを読んで、幸せな物語がありましたって、自己完結するのも悪くはないんじゃないかなって、私は思ったりしちゃうのだ。


 だから、本章を私は読み進める上で飛ばしがちなのだ。


 そんな私は、とっても臆病者なんだと思う。


 もっと言うなら、嫉妬深い。



 屋上へ上がる階段をまた一歩、上がっていく。



 誰もが本章の主人公のように、立ち向かえるわけじゃない。

 私は辛いことがあったら、一週間は気持ちが落ち込んだままだし、痛い目にあったら、泣きだして、誰かに助けを求めると思う。


 こんな風になってみたいと思っても、結局はなれないから、嫉妬する。


 だから、本章なんて読み飛ばす。


 それがいいことなのか、わるいことなのかはさておいて、私という人間は、そういう人間なのだ。


 なれないと分かっているなら、なろうともしないで諦めている、そんな私。


 だって、頑張っても無理だったんだ。


 今の現状をどうにかしようと、必死に足搔き続けて、でも、結局どうしようもならなくて。


 こんな私に一体、何が出来たのだろう。


 この大学にいる天才たちを前にして、私は結局、どうしようもできない。


 平凡な私にはどうしようも出来ない。

 分かってはいたのに、その事が酷く悔しくてたまらない。



 私が動けば状況は悪くなる一方で、改善することなんて出来なかった。


 平凡な私は、彼らとの交流に悩んで、それでもどうにかしようとして苦悩して、対立することを選んだっていうのに。


 対立すれば、私の意図しない方向に流れが動いて、対立した分だけ敗けの数を積み重ねてしまった。


 平凡な私は、天才である彼に敗け続けた。


 敗けた先にある、勝利を信じていたのに、そんな風に上手くいくことなんてなくて、彼に迷惑だけをかけ続けた。


 自分は平凡だと言っている彼。


 私から見れば、平凡なんて枠に収まるような人物じゃないのに。


 ただ、平凡であろうとしている彼が、平凡な私にとっては、どうしようもなく話しやすくて、声を掛けやすくて、気負いすることがなかった。


 そんな人物と対立すると決めた私は、やっぱり、どうしようもない馬鹿だったんだろう。


 あれだけ辛い思いをしても、あれだけ心を冷水につけようと、私が動いただけ悪くなる一方で。


 あんな思いをするなら、やめればよかったのにと胸の中にいるもうひとりの自分が言う。


 分かってるよ、と私は返した。


 どうしようもない話なのだ。どうしようもなく凡人がみっともなく足掻いただけの話。



 階段をまた一歩、昇る。

 階段を昇る度に、今までの自分の行動が後悔とともに押し寄せてくる。



 向き合いたくないなぁ、なんて思いながらも記憶は留まることを知らなくて、私を深く深く覆ってしまう。


 見たくなくても、見なければいけない。


 私にとって、「本章」にあたる話。



 これは、平凡な私。ラッフィシェルト・ドットハークの敗け続けたお話。



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