表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも平凡は天才を愛せるか?  作者: 由比ヶ浜 在人
七章 人生くらい、くれてやる
86/113

エピローグ



 朝はすっかり明けていた。


 6月から始まった事件。いつまで続くか分からない事件だが、一先ず区切りを迎えたと言っていいだろう。


 今後、どうなるかは全く分からない、


 でも、いいじゃないか、私はそう思う。



「へへー、お兄ちゃんが二人になっちゃった」

「俺はコイツを兄だとは認めねぇよ」


 横には、手を繋いで歩く兄妹がいる。今まで背負っていたもの、隠していたものを下ろした彼らは、笑ってる。


 その笑顔が、私にとってはどうしようもなく尊いものなんだ。



「平凡、お前に言っておかなきゃなんねぇことがある」

「何ですか?」


 御剣さんは、ゆっくりとした口調で続ける。

 今までの険悪さはそこにはない。きっと、凛さんがそれを払拭した。



「ラッフィシェルト・ドットハークがお前を退学させたがっている理由についてだ」


 それは、やっぱり、御剣さんの口から聞くことになると私は予想していた。



「なんとなくは察しはついてます。今度の学部連合議会で()()()()()()()()()()()()()()()()なんですよね?」

「・・・気づいてたのか」

「空教授が学生を推薦するって言っていましたし、恐らく、外部委員会、つまりは、御剣財閥から依頼されたか、取り入る為に自主的に行っているのか。弱味を握っている私は、御剣財閥にとって鷹閃大学にいられると困る存在です。なぜなら、貴方が鷹閃大学にいて私を守ってくれていた。鷹閃大学から退学になったら、私を守ってくれる人もいませんし、それでケリがつきます」


 だから、全ての事件は6月が発端なのだ。


 堂島さんの事件も、あの事件の後。つまりは、その時から、私を排斥しようとする人たちが現れ始めた。


 どう考えても、無関係じゃない。


 大体、そうでもなければ、大学にいる人間を退学しようとする理由にはなりえない。こんなスポットライトが当たらぬよう過ごしてきた私なら、尚更焦点なんて当たらない。


 私の言葉を聞いて、御剣さんが声を出す。



「・・・お前、今なんて言った?」


 それは私にすれば予想外の言葉だった。


 なんだ、嫌な予感がする。



「間違ってましたか?」

「いや、ラッフィシェルトが動いている理由は間違いなくお前の言った通りだ。問題は誰がラッフィシェルトを推薦するって言ったのか」

「空教授ですが・・・」

「・・・妙だな」


 なんだ、この感覚。前提を全部足元から掬われるような感覚は。



「親父を毛嫌いしている空教授が、なぜ御剣財閥のために動く人物を推薦する・・・?」


 ぴしり、と亀裂が走った。



「・・・空教授は御剣さんが動かしたんじゃないんですか?」

「動かしたのは俺だ。だが、それだけで大学の人間が動くか。御剣財閥の息のかかった連中が大多数を占める場所だぜ?」


 瞬間、空教授との会話が蘇る。



『いや、答えるとも。私が話したのは、二人だ』


 二人。御剣さんともう一人。



『あぁ、ゲームと言えば、聞いたぞ青年。随分派手に立ち回ったそうだな』


 一体、誰に聞いた?



『今度の学部連合議会で私が推薦するのは、学生だ』


 ラフィーさんに聞いたんだ。


 だが、それがなんだと言うんだ。不安ばかりが襲ってくる。


 目がふらつく。焦点が合わない。



「大丈夫、お兄さん?」

「あぁ、すみません凛さん。寝不足のせいだと思います」


 声を掛けてくる凛さんを見る。

 その際、ずっと握りしめていたせいか、しわくちゃになった凛さんのスカートが目に入る。


 ()()()()()()()()()


 皺。


 皺だらけのチケット。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 脳に電気が走った。



「みつる、ぎさん。学部連、合議会はいつですか?」


 声の震えが止まらない。


 私は間違っていた。最初から間違えていた。



「一週間後だ。ただし、書類の提出期限は今日までだったはず。何かきなクセェ、空教授の動きが」


 御剣さんの話を最後まで聞くことなく、私は走り出した。



「オイ! 平凡!!」

「すみません!! 話はあとで!!」


 なぜ、気づいてあげられなかった。


 彼女からの刺客を排除していれば、いずれ彼女が来る。とんだ間違いだ。


 彼女は私に挑めるはずがなかったんだ。



『それで、何か、あったんです?』


 走れ。



『どうしました、ミヤ?』


 彼女がどこにいるか、私は知っていたはずだ。



『・・・ない、です。そもそも、大学に住んでるので。帰るつもり、ないです』

「・・めだ」


 何故、探そうともしなかった。



『ミヤは、アンナ・アンダーソンという、女性、知ってる、です?』

「ダメだ」


 言いたい言葉があっただろうに!!



『ミヤは、おばか、さんです』


 あぁ、どうしようもない大馬鹿だ!


 言葉一つ、いつまでたっても言えない!! 言いたい言葉を濁してばかりだ!!



()()()()()()()()()!! ラフィーさん!!」



 私は、貴方のことが好きなんだ!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ