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それでも平凡は天才を愛せるか?  作者: 由比ヶ浜 在人
七章 人生くらい、くれてやる
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「なぁ平凡。一つ聞かせてくれよ」


 静けさが木霊する。寒さが目に見えてくるような感覚につられそうになる。

 御剣さんは、ゆっくりと首を動かしていた。

 頭を揺らして、揺蕩って、話始める。



「お前にとって家族ってなんだ?」


 振り子のようなその動きが、何故か彼の精神状態を表しているようで眩暈がする。



「よく言うじゃねぇか、愛する家族とか。幸せな家族とか。暖かい家族とか。寄り添う家族とか。かけがえのない家族とか」


 言葉の区切り区切りで頭を揺らす彼は、誰がどう見ても不安定そのもので。



「ほんとに世の中綺麗な家族ばっかりだよな。外面だけ良く見せようとこんだけの言葉が溢れてやがる」


 その様子が、酷く痛々しい。



「愛さない家族、不幸せな家族、冷たい家族、離れた家族、かえのきく家族。そんな事を外に向けて言う奴はほとんどいねぇ。まぁ、そうだろうよ。そんなのは恐らく家族じゃねぇからな。違う言葉にすり替わる。すり替わって、他人になる」


 私は、そんな彼を見ているのが辛くて、少しだけ目を伏せた。



「聞かせろよ、平凡。お前にとっての家族って何だ?」


 彼は一体、どこで怪物になったのか。それは分からない。きっと、怪物なんかになるような人ではないのだと、私はそう信じたい。



「私に聞いたって答えなんか出ませんよ」

「・・・あぁ、平凡。お前やっぱ、ムカつくな。どうしようもなく」


 御剣さんは、もう限界だったんだろう。

 闘って、闘って、闘った末に手に入れたいものが、本当にちっぽけなものなのに。


 それを得るための代償が、途轍もなく多くて。

 背負っているものが、大きすぎて。


 きっと、どこかで耐えきれなくなった。



()()()()()()()


 彼の流麗な仕草と共に現れたソレは、やっぱり人を殺すための道具だった。


 ()()だった。


 初めて見るソレは、どうしてだろう。

 思ったよりも怖くはなかった。


 怖いというよりも、悲しいという感情でいっぱいになる。


 御剣さんは、最初から手詰まりの状況だった。

 凛さんを守るために、私を守る。私を守っていたら、凛さんを救えない。凛さんが、私を犠牲にして、救われることを望んでいない限り、彼が取れる手立てなんてない。


 それでも、彼は諦めることなんて出来なかった。方法があるはずと、自分を誤魔化して、擦り切れて、摩耗した。


 悲しくて、ただ悲しい。



「御剣さん、撃ってもいいですよ。貴方になら、撃たれてもいいかなって、そう思うんです」


 始まりから酷く歪んだ私たちだ。でも。



「その前に質問させて下さい」


 でも、全部が嘘だったって、そんな悲しいこと言わないで下さいよ。



「なんで打ち上げ来てくれたんですか?」


 貴方が言った言葉には、何が籠っていたんですか。



「なんで誕生日会を私の家でやったんですか?」


 目的は確かに違かったかもしれません。でも、その方法を決めたのは貴方じゃないですか。



「本当は、答えなんてとっくに出ているんじゃないんですか!?」

「黙れぇえええええええええええええええええええええええ!!」


 もう、いいじゃないですか。



「どうにもならない状況で、そんな状況が続いてて!! 貴方が考えないはずがないんだ!! 方法を決めつけて!! 自分を苦しめて!!」

「それ以上喋るな平凡がぁ!! お前に何が分かるっ!! 俺の苦しみが!! 殺意が!!」

「救いたいんですよ!! 銃握りしめて!! 親の家に向かっている馬鹿が救おうとしているもの全部!!」

「お前が救うとかほざいてんじゃねぇええええええええええええええええええ!!」


 瞬間。

 彼の指が、引き金にかかったのが見えた。



 やっぱり、私じゃ届かない。私の言葉じゃ届かない。

 彼を雁字搦めにしているものを、取り除けるのは、私なんかじゃない。



「お兄ちゃん!!」


 家族だけなんだ。



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