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それでも平凡は天才を愛せるか?  作者: 由比ヶ浜 在人
七章 人生くらい、くれてやる
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 状況が一切好転しねぇ。


 凛を傷つけないために、あいつを守る。守るあいつから、画像を奪って、死んでもらう。凛に気づかれない形で消えてもらう。


 もういっそ、凛を傷つけてもいい。あいつをぶん殴るか、騙すかして画像回収するか。そうすりゃ、凛は泣くだろうが、凛は守れる。


 だがよ、それをやったら、凛は俺のことをどう思うんだ。


 それでも兄だと、思ってくれるのか。


 ・・・いや、いい。まだ、何とかなる。してやるさ。実力行使は最終手段だ。


 今は静かに準備してりゃあいい。チャンスが来た時に対応できるだけの準備。


 実家に帰るというあいつに合わせて、俺は空教授に依頼する。

 空教授は昔から御剣財閥と繋がりがあったもんで、俺とも面識はあった。当然っちゃあ当然だ。この大学の副学長だしな。加えて、クソ親父のことを嫌っている希少な人物だ。この大学でそんな人物は片手の指程度で数え終わる。それでもここで教鞭をとっていること自体が奇跡にちけぇ。


 依頼したことは二つ。

 あいつの情報を探ってほしいということ、鷹閃大学から離れるあいつを監視して欲しいということ。


 得られた情報はデカかった。ここで俺は弓弦という名を聞くことになる。

 弓弦にコンタクトを取って、あいつの大学での話を聞かせてやって、機会があれば復讐させてやると、場を整えると約束することになる。


 思わぬ棚ぼたもあった。堂島から、芸能人のリストを手に入れた。

 御剣関係の黒い噂に携わったであろう人物のリスト。

 芸能の界隈では噂があったらしい。ジュニアアイドルに手を出している変態野郎がいるって噂がな。そいつらの携帯番号をあいつは流してくれたわけだ。正直、被害にあった奴らが口を割るとも思えねぇが、悪くはねぇ収穫だ。いずれ、武器として使える。




 準備をして、準備をして、準備をして。ただ、チャンスを待った。


 ひたすらにチャンスを待った。


 凛の目が無くなり、あいつから画像を奪って葬り去る。そんなチャンスをひたすらに待った。


 一日一日が酷く長く感じた。大学であいつといる時は、血反吐を吐きたい気分だった。

 必死に我慢した。我慢して、歯を食いしばった。


 あいつと凛が会話している時は、殺してやろうかとさえ思った。

 凛になんて呼ばれてるか、それを知った俺の気持ちは泥のように粘りついて、黒より更に黒い感情で心を覆った。


 兄と。


 兄と呼ばれるあいつは、一体なんなんだ。


 俺が必死になろうとしているものに、何であいつなんかがなってんだ。


 そんなあいつを、なんで俺は必死こいて守ってんだ。

 それは兄になりたいからだ。

 凛の兄になってやりたいからだ。

 おい、可笑しいだろ。なんだよ、それ。

 なんで凛を守るために、お前を守らなきゃなんねぇんだよ。

 なんで凛の兄になってやりたいのに、凛の兄を守ってやってるんだよ。


 いや、違ぇ。元は全部、クソ親父のせいだ。そうだろう。そうなんだよ。そのはずなんだよ。凛が苦しんでるのだって、クソ親父のせいだ。

 クソ親父が元凶だ。俺の敵は明確だ。あいつは敵じゃねぇ。


 いや、それも違ぇな。あいつは敵だ。凛に命を賭けさせているゴミだ。

 あいつさえいなけりゃ、こんな状況になんぞなっちゃいねぇ。


 でもよ、あいつがいなけりゃ凛は救われなかった。じゃあ、感謝すべきか。

 どこに、奴の何に感謝すべきだ。感謝よりも、憎悪が勝っているのに、何を言葉に乗せる。



 憎むべき相手が日替わりで変わっていく状況だった。

 そんな中でも、俺はチャンスを待った。



 そして、結局は、チャンスなんぞ来る前に、凛が攫われた。



 凛から助けを求める電話があった。あいつの家に行った。部屋はもはや、部屋の体を成してはいなかった。


 凛の姿もなかった。状況を察するには十分だった。

 クソ親父が動いた。それだけのこと。


 あぁ、凛。俺はお前の兄になってやりたいんだよ。


 6月、お前を救えなかった俺だけどよ。今度はお前のことを救ってやる。他の誰でもない、俺が救ってやる。


 あいつに邪魔はさせねぇ。俺が救う。気づかせもしねぇさ。


 あぁ、俺は凛の兄になってやりたいんだよ。


 任せておけ、なんてことはねぇ。実に単純な話じゃねぇか。


 元凶を取り除いてやればよかった。それだけで俺はきっと。



 本当の家族になれる。



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