表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも平凡は天才を愛せるか?  作者: 由比ヶ浜 在人
七章 人生くらい、くれてやる
82/113





 そいつの素性を調べ上げた。

 もたもたしてると、クソ親父に揉み消される。幸運が味方したのかどうかは知らねぇが、そいつが名前も述べず、去っていったこと。風貌を覚えているのが凛だけだったこと。これが有利に働いた。


 クソ親父よりずっと早く俺はそいつに辿りつくことが出来た。しかし、ここでハズレとアタリともいえる引きをした。


 大学が、俺と同じ鷹閃大学だった。


 メリットはある。俺が縛り付けられている状況下で、接触が容易い場所であること。


 だが、そいつ自身、あるいは、そいつの家がどれくらいの権力を持っているかによって対応が変わらざるを得ない。鷹閃大学は権力、才能のごった煮だ。下手に権力があった場合、俺が接触した瞬間不味いことになる。クソ親父との繋がりがあったら手におえねぇ。


 徹底的に調べ上げた。素性を、家柄を。


 結果、どう考えても、権力の欠片も持っている家柄ではなかった。メリットだけが残る形となった。


 まぁ、その事実が逆に興味深いっちゃあ興味深い。つまり、そいつは才能だけで、この鷹閃大学にいやがる。この世界屈指の名門に、在籍することを許されている。


 興味はある。

 だが、好奇心程度だ。権力もねぇなら、金渡しときゃいいだろ。後はそいつがくたばろうと俺の知ったこっちゃねぇ。


 そんなことを考えていた俺を、雁字搦めにしたのは、他でもない。俺が助けたい妹だった。



「透くんなら助けてあげられるよね!?」



 切羽詰まった顔で言う凛は、気づいていた。このままだと、そいつがどうなるか。


 十中八九死ぬだろうということ。仮に死なずに済んだとしても、そいつはもう御終いだろうということ。あのクソ親父の弱味を握ったということは、御剣財閥を敵に回したに等しい。


 凛は、自分が現状から脱却出来る可能性すらかなぐり捨てて、そいつの命を守りたいと考えていた。その為なら、その可能性すら消してもいいと。


 自分を救ってくれた人だから、自分を助けてくれた人だから。


 オーケーだ。万事オーケーだ、凛。

 あぁ、俺は凛の兄になりたかったんだよ。


 だから、当然な顔をして、それを承諾した。承諾した事にした。


 胸のうちでは、そいつがどうなってもいいと考えながら。


 凛を騙し、そいつから必ず画像を手に入れると考えながら。


 当然だろう。知らねぇ奴と、妹。どっちを切り捨てるかなんて分かりきった事じゃねぇか。


 だから、最初の会合はあんなものになった。


 性癖を偽り、性癖について詰問したのは、クソ親父が原因だ。正直、あいつが少しでも共感する素振りを見せたら、金だけ払って切り捨てた。二百万はその為に持ってただけだ。凛にとっても、切り捨てた原因としてはこれ以上ないものになる。だが、そいつは乗ってこず。腹いせに二百万くれてやった。


 妹を従妹と言ったのは、なんてことはない。俺がまだ、兄と名乗れるほどの人物じゃねぇからだ。凛には、直接的関係を匂わせねぇことによって、もし何かあった時、そいつを守る為とか適当抜かして、話を合わせさせた。


 助けてもらった礼を。

 そんな嘘八百を述べて、俺は奴と遭遇することになる。自分を平凡だと宣う天才と。


 未だかつて、会ったことがない、強烈な才能を持つ奴と。


 そいつは、これから起こることを予測するかの如く、堂島の件を諳んじた。他人が聞けば、笑ってしまうような出来事だったんだが。

 万が一。

 もし万が一、それが現実のものとなったら、凛との約束は意図しない形で幕が下りることになる。


 しかも、画像を手に入れられないままだ。それだけは冗談じゃすまされねぇ。


 あいつには何がなんでもこの大学に居てもらう必要があった。メリットが無くなるのをひたすらに恐れた。


 あいつの言う通り人を集め、あいつの言う通りの場所にマットを設置した。


 そうして、結果だけが残った。


 他人事なら、手を叩いて称賛の一つでもくれてやっていた。まるっきり、未来予知の類じゃねぇか。


 本来の俺ならそうする。だから、再びあいつとあった時は、称賛した。

 

 ただ、他人事なんかじゃねぇってのがやべぇ問題だった。

 加えて厄介なことに、奴は大学にいるカルト集団から敵対されていた。


 平凡の癖に、意味わかんねぇくらい敵を作ってんじゃねぇよ。

 平凡だと宣うなら、そのままでいやがれ。そして、そのまま野垂死ね。


 俺自身の醜い本音を隠しつつ、俺は奴の傍にいることにした。そうすることで、こいつが退学するリスクを減らす為。凛から見たら、俺が画像を入手せずにこいつを守ってやっている。そう思わせながら、こいつから画像を手にいれ、切り捨てる為。退学なんかされちまったら、接触自体が困難になる可能性すらある。


 そんな決意を決めた時、凛はあいつの元を訪ね、居座るようになった。


 小学生ながら、あいつを救おうと思ったんだろう。守ろうと思ったんだろう。


 もし、俺があいつを守れなくなった場合、クソ親父の手があいつに伸びたとしても、自分を差し出せば何とかなると考えたんだろう。


 それは、命を賭けるに等しい行為だ。


 そんな行動をさせている人物を、俺は殺したいほど憎んだ。


 そんな凛の行動で、俺は殺したいほど憎い人物を全力で守ることになる。俺があいつを守れなければ、凛が終わる。切り捨てたいのに、切り捨てられない歪な関係がそこには出来た。


 不愉快だった。不愉快で堪らねぇ。


 ふざけんな、王手まで後一歩ってところで話をややこしくしてんじゃねぇよ。


 仏頂面引っ提げて、平凡だと宣って、守られていることに気づかず、ただ日々を貪り尽くす怠惰で傲慢な態度を許容しろってか。


 出来るわけねぇだろうが。


 あぁ、許せる訳ねぇだろうが。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ