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それでも平凡は天才を愛せるか?  作者: 由比ヶ浜 在人
七章 人生くらい、くれてやる
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 俺の親父、御剣 透の親父は最低最悪のクソ野郎だった。



 そんなクソ野郎が、どうしようもない財力と権力を持っているのが、堪らなく反吐が出る。


 俺を産んでくれた母親は、俺を産んだ瞬間、用済みとばかりに捨てられたらしい。跡継ぎがいれば、必要ないと言わんばかりのその態度は、傍目からみても悪逆非道だったと伝え聞く話できいた。


 そんな男が家族だと言って、新しく連れてきたのは、一人の女性と少女だった。俺から見ても若いと言えるその女性は、どうやら俺の母親になるらしい。


 んで、ちんまいのが俺の妹になるらしかった。


 クソ親父とも話さず、家族らしい家族がいなかった俺は、いまいち、家族っていうものに馴染みがなく、それとなく二人を遠ざけた。

 単純にだるかったのもあるし、接し方が分からなかった。


 親父にべったりだった若い女性は、特に俺を気にすることはなかったが、そんな俺に必死で話かけてきたのが凛だった。


 正直、死ぬほどうざかった。

 何度ひっぱったいてやろうと思ったか。だが、凛はそんな俺の邪見さにも屈せず、必死で話しかけてきた。


 血筋の負い目からか、俺のことを兄とも呼べず、かといって、話しかける為にどうにかしなければと考えたのが、透くん、なんていう、どっかの従妹みたいな呼び方だったらしい。


 そんな凛の姿を見て、流石に、流石にだ。

 こんな俺だって思ってやらないところはなく、会話を重ねるようになった。


 拙ねぇ会話だった。今でも思い出す度、何故俺は兄として凛に接してやることができなかったのか、後悔することすらある。


 ただ、その会話の中で、どうも凛が兄という存在を、いや、どちらかといえば兄妹が欲しがっていたことを察した。


 だから、なってやろうと、そう思ったわけだ。

 実にくだらねぇ話。


 だってよ、あいつ、笑うんだよ。俺と会話する度に、笑うんだよ。

 クソほどどうでもいい、学校であった事なんかを嬉しそうに話すもんだからよ。


 まぁ、なんて言えばいいかは分からねぇが、そういうことだ。


 凛の兄になってやろうとした。


 凛が何故、俺にばかり話しかけてくるのかを深く考えず、兄になってやろうとした。


 これが、凛のSOSだった。


 母親に言っても信じてもらえないであろう事実、その事実自体クソ親父が元凶となれば、俺に助けを求めるしかなかったっていうただの消去法だ。


 それから、俺はクソ親父の愚行を知ることになる。法や警察ですら捻じ曲げる男の愚行だ、質が悪ぃにも程があった。


 凛に直接的には手を出していないことは確認できても、嫌悪感と憤怒がこみ上げてくるのを自覚した。


 手を出していたら、なりふり構わずぶっ殺してた。


 だが、それも時間の問題だっつーのも同時に痛いほど理解していた。


 何、笑ってくれて構わねぇよ。俺はここで決定的に思ったわけだ。


 クソ親父から財力も権力も奪ってやると。いずれそうなるなら、遅いか早いかだけの話。

 御剣財閥を継ぐと決めた。


 物的証拠を押さえられれば手っ取り早かったが、あのクソ親父は常に俺を警戒してやがった。当たり前だ。他の奴ならいくら証拠を持たれても、揉み消すなんてあの男にとっちゃたやすい。そうなりゃ、必然、警戒するのは俺くらいなもんだ。敵対的な行動をとり続けた俺、息子である俺。揉み消せないのは俺くらいだからこそ、俺に対して決して証拠を押さえられるようなヘマをクソ親父はしなかった。


 そうなると、こっちとしては守りの一手だ。凛との物理的距離を離すことしか出来ねぇ。


 大学に入るまでは、幾度となくクソ親父から凛を離し、物理的な距離を取らせることが出来ていたのだが、クソ親父は、そんな俺を疎ましく思って、自分の息がかかった鷹閃大学に入学させた。


 簡単に言うなら、隔離だ。


 どうしようもない程、卑怯で下劣な手。


 当然、凛を守ってやれなくなる時間が増え始める。

 それでも、必ず家には帰り、家の中では凛を守ろうとした。


 時間がなかった。さっさと、クソ親父を権力からも、財力からも引きずりおらさねぇと凛が終わる。


 んで、焦っていた俺は見落とした。クソ親父と凛が二人きりになる可能性がある場所は、それこそ車であろうと守っていたのに。


 あのクソ親父は、凛の登校に付き纏うようになってやがった。まるで保護者の義務だと言わんばかりに、一緒に電車に乗るという行為まで行って。


 これは完璧に俺の落ち度でしかねぇ。だがよ、考えもしねぇだろ。血も繋がっていねぇとは言っても、娘に手を出す為、財力、権力を持ち合わせた男が電車乗るかよ。執着を通り越して妄着だ。


 その事に俺が気づいたのは全てが終わった後だ。


 もう、凛は救われていた。


 一人の男に救われていた。


 これが6月。大学が始まって2か月とかいう意味わかんねぇくらいに中途半端な時期だった。



 俺は、ホントによ、感謝したぜ。

 あぁ、神様ってのがいるんなら、あの時だけは信じてやってもいいとさえ思えた。

 なんせ、そいつはクソ親父の弱味を画像で収めたらしい。これでクソ親父を引きずり降ろさなくても、社会的に殺すことが出来る。


 まぁ、それで画像を収めた奴は死ぬことになっても仕方がねぇ。色んなところに力を持った男が、俺に画像を提出したパンピーを生かしとくとも思えねぇし。守ってやるつもりもねぇ。


 俺たち兄妹の為に、悪ぃけど死んでくれ。



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