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それでも平凡は天才を愛せるか?  作者: 由比ヶ浜 在人
一章 ロリコン、金髪、時々ヤンデレ
8/113

エピローグ



ピンポーン



 時刻は夕方。家に帰り、今日の講義の復習をしていると、間の抜けた音が広くない部屋に響き渡った。最近、妙な客が多かったが、あれ以降はめっきりインターフォンがなることはなくなってしまった。


ピンポーンピンポーン


 そんなインターフォンが久々の活躍とばかりに小気味良くリズムを奏でている。それは急かしているようにも思え、私は訝しみながらも、応対をする。


 時代に追いつけ、追い越せとばかりにつけられらたテレビカメラ付きのインターフォンに表示されていたのは、赤いランドセルを背負った少女だった。顔つきは幼いながらも、どこか整っており、将来は美人になると確信するには容易い。ストレートとも言い難く、どこか癖毛交じりのロングヘア―を後ろで二つに束ねたその少女は、小さなその手に紙袋を引っ提げ、笑顔で立っていた。その姿を確認した私は、玄関まで行き、扉を開く。



「・・・御剣さん?」

「おひさ! お兄さん!」


 立っていたのは、ロリコンの親戚のロリだった。



「おじゃましまーす!」

「え、ちょっと待ってください」


 そういうと、彼女は私が開けた玄関をするっと入り、気づけば靴も脱いで、部屋に入っていく。こちらの困惑を他所に、彼女はベットにぽふんと可愛らしく腰掛けた。


 部屋をきょろきょろというよりは、ぎょろぎょろ見渡す彼女を尻目に、私も今まで復習をしていた座椅子へと腰掛ける。



「あの・・・御剣さん?」

「あ、ごめんね、お兄さん! これ!」


 そういって、彼女が渡してきたのは、両手に持っていた紙袋だった。



「これは?」

「助けてもらったお礼。いきなりおしかけてごめんね。ほんとはもっと早くにお兄さんに直接お礼が言いたかったんだけど、うちのお父さんが許してくれなくて」


 いきなり話始める彼女に私はひたすら困惑していた。そもそも、私は人と話すのは得意ではない。そして、言うなら、彼女は初対面に近い。痴漢から助けたと言っても、その後、駅員に引き渡して、名前だけ一方的に告げられただけの関係だ。彼女と会ってから時も幾何か過ぎ去り、顔を覚えていたのも奇跡に近い。それなのに、彼女は旧知の友得たりとばかりに話を続ける。



「お兄さんも私がお礼したいって言ってるのにあの時すぐどっか行っちゃうし、傷ついたレディをほっとく男子はモテないよ!」

「え、いや」

「まぁ、お兄さんはモテなくていいけど」


 彼女はベットから立ち上がると部屋をクルクルと見て回る。疑問が止まらない。そもそも、私の感性が間違っていなければ、こういう時は普通、親御さん同伴とかで来るものではないのだろうか。小学生一人に、お礼を持たせていってらっしゃいは流石にないはずだと信じたい。


 そして何より、



「あの、御剣さん、どうしてここが?」


 家なんて知らないはずだ。教えてなんていないのだから。



「え? (とおる)くんから教えてもらったよ?」

「すみません、透さん?」

「あれ? 大学で会ったって言ってたけど違うの?」

「あぁ、彼、そういう名前だったんですね」


 別に知りたくもない情報を得て、私は確信する。嘘だ。


 私は、彼を家に招いたことも、それどころか、家に関する事柄を話したことすらない。

 今までにない、恐怖が全身を包む。



「あー! やっぱりこのたこ足配線使ってなかった! 人の好意は大切にしないとモテないんだから!」


 そう言って彼女は既に刺さっているプラグを抜き、タコ足配線をわざわざつけ、そこに今まで刺さっていたプラグを付けなおす。あのタコ足配線は、使うこともないと思い、適当に部屋の片隅に片づけていたものだ。そして、ネット回線の営業の人に押し付けられたものでもある。何故、彼女は好意と言ったのだろう。こんなくだらない話を私は誰にもした覚えはなかった。



「でも、お兄さんはモテなくていいんだよ」


 なぜ、彼女の瞳はこんなに濁っているのだろう。

 彼女は一通り、部屋を物色すると、またベットに腰掛けた。その様子を見ていることしか、私には出来なかった。こんな一回りも小さい彼女に、私は紛れもなく恐れを抱いていた。



「お兄さん、改めて本当にありがとう! 私、こう見えて気が弱いから、通学するときに痴漢にあってたこと誰にも相談出来なくて、でも、そんな時、お兄さんが助けてくれて、あぁ、世界もまだまだ捨てたもんじゃないなぁって思ったりして」


 彼女の話は続く。


「たすけてもらった時ね、頭の中に、白馬の王子様が助けてくれる、そんな夢みたいな物語ってあるんだって、白昼夢を見ている気分だったの。お兄さんが私を世界から救ってくれたの」


 彼女の話は続く。


「だからこれは運命なんだって、そう思ったし、そうしなきゃいけないと思ったの。私はまだ子供だから、変な子だって思われちゃうかもしれないけど」


 彼女の話は続く。


『いや、それを決めるのは助けられた本人だ。そしてその本人はそのことを本当に悩んで悩んで悩み抜いてた。だから本人にとって救世主だったんだよ、アンタは』


 不意にロリコンの言葉が頭を過った。


「でも信じてお兄さん、前世で私たちは契りを交わしていたの。助けられた時、私はその前世の記憶がフラッシュバックして、それを思い出したの。だから、お兄さんと私はいつまでも一緒にいないといけないの」


 私は思う、何故、難解な出会いばかり積み重ねるのだ。もう欲は言わない、コミュニケーションが普通に取れる相手で良い。普通に会話出来る、そんな相手が欲しい。何か悪いことをしただろうか、どこで間違ったのだろうか。少なくとも一つ、心に決めたことがある。


「だから、私もここに住むね! お兄さん!」

「すみません、宗教だったら間に合ってます」



 私は、宗教とは絶対に関わらない。



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