エピローグ:下
朝日が目に染みて、少しだけ涙がでる。
あんなに泣き喚いたのに、この目はまだ泣きたいらしい。私の体ながら、酷く傲慢なやつだと苦笑する。
私は、目的の人物が来るまで一人ベンチに座っていた。絶対、ここを通るという確信を持って座っていた。
座りながら、この件について少し整理する。この後のことを考えたら、情報を整理することが何より望ましいと思われた。
今回の発端は、私の家がめちゃくちゃにされ、凛さんの消息が途絶えたこと、そして弓弦さんが現れたこと。
だから、勘違いした。単純に一つの事柄だと思っていた。そう、弓弦さんが復讐のために、行ったことだと。
だが、そんな簡単な話ではなかった。もっといろいろなことに目を向けるべきだった。
酷く頭が冴えている。度々起こっていた、ズキリと痛む頭痛も今はもう感じない。
始まりから間違っていた。今回の件は、6月が発端だ。
それを認識すると、全てが繋がって見える。
何故、家が荒らされたのか。
何故、監視カメラなんてものが家にあったのか。
何故、弓弦さんが凛さんを誘拐したと言ったのか。
田舎と違って雪がない大都会で、私は拳を握っては開く。変な汗が掌に浮かんでいた。
そう、思い返せば、結構あからさまだった。それに気づけない私は、いや、気づくことをしなかった私は、ここまで踊る嵌めになった。地元からここまでで、かなりの額を出費してしまっている。請求書でも書いてやりたい気分だった。
でも、結局、この流れは必然なのだろうとも思う。
私は、堂島さんと対峙して。
私は、白銀さんと対峙して。
私は、漣さんと対峙して。
私は、万城目さんと対峙して。
私は、ラフィーさんと対峙の真っ只中だ。
どう考えても、一人足りない。
数が合わない。役者が足りない。
ねぇ、そうは思いませんか。
「待ってましたよ」
御剣さん。
「んだよ、たっくだりーなおい」
流麗な仕草で、濁流のような言葉を吐き出す彼は、6月の頭から私とともにいることが多くなった人物。
自らをロリコンと名乗り、私の前に現れた人物。
そんな訳があるか。今更ながらに、私は心の中で突っ込んだ。
何処ぞの勇者かと思うほど、高そうな真っ白なコートと、真っ黒な革手袋をはめた彼は、ベンチの私に向けて、心底嫌そうな顔をした。
その綺麗な顔が僅かばかりに歪むのが、また様になっていた。
「こっちはおめぇに用なんてねぇんだが」
「私にはあるんです」
「何しに来た」
私は精一杯空気を取り込んで、彼を真っすぐ見つめる。
もう決めた。腹を括った。言葉は、ビビッていちゃ伝わらない。
「凛さんを助けに来ました」
救うことなんて、出来やしない。




