表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも平凡は天才を愛せるか?  作者: 由比ヶ浜 在人
六章 過去より今を(下)
73/113



「方法なんて考えれば、それしか思いつかねぇんだよ」


 弓弦さんは、もう私に発言すら許さないと言わんばかりに攻め立てる。



「放火されるところを携帯か何かに撮って、それをネタに揺すっただけの話。まぁ、やつらも塀か、自主退学かを選ばれたら、そら自主退学を選ぶに決まってる」


 深く闇が下りてくる気がした。どうしようもない、暗闇だった。



「つまり、そのネタを掴むために、お前は放火されるまで黙って見てた。これから放火されるってにもかかわず、それを見過ごした。いやはや、大したもんだと思うぜ。友だちの家が放火されるのを黙ってみてたってんだから」


 彼の言葉は止まらない。止まってはくれない。

 当たり前だ。もうとっくに過ぎ去った出来事なんだ。止まることなど出来はしない。



「そんなお前だったていうのに、今のお前の姿見てると、どうしようもなく呆れてくる」


 呆れ、か。確かに、昔の私が今の私を見たら指をさして笑うかもしれない。



「予想はつくぜ。俺との最後の会話から、話すことが怖くなったんだろう?」


 その通りだ。

 彼との最後が焼き付いて、結局は、私が人と分かり合えることなんてないと思って。人との関わり合いを最小限にしようと、縮んで縮こまった姿が今の私だ。

 友だちのことすら理解出来ない私が、他の人を理解出来るとは思えなかった。彼が何故、私に怒ったのか、彼が何故泣いていたのか、それを深く理解することが出来なくて。

 結局のところ、私は敬語を使うという、どうしようもない逃げに走った。



「平凡になりたかったんだろう?」


 その通りだ。

 せめて、そうすれば彼に少しでも近づけるかと思って。彼が考えていたことが分かるのではないかと、幻影に縋った。

 テストでは、当たり前のような顔して平均点を取った。その次も当たり前のような顔して平均点を取った。その次も、その次も。

 今まで出来たことも、やらなくなった。やらなくなって、やらなくなった。

 そんな事をしていると、いつの間にか、本当に点数なんて取れなくなって、出来ていたことが出来なくなって。

 こんな出来損ないに仕上がった。



「ひでぇ自己満足野郎だよ、お前は」


 そうなのだ。誰が一番始末におえないかなんて、分かり切っていることだったんだ。自分自身がどうしようもなく始末におえない。


 あぁ、そんな事、分かっちゃいるんだ。



「もう帰れ。お前が出来ることなんて、お前に何かして欲しい奴なんて何処にもいねぇんだよ」


 確かに、そうなのかもしれない。


 何度か考えたことがある。


 自分が居なければ、弓弦さんはこのまま、地元の高校で過ごしていたのではないか。

 自分が居なければ、ラフィーさんはあのまま、笑って過ごしていたのではないか。

 自分が居なければ、堂島さんはおそらく、ブログに嘘を書き込む必要がなかったのではないか。

 自分が居なければ、白銀さんはどうしようもなく、失恋だと割り切っていたのではないか。

 自分が居なければ、生徒会長はずっと、カーストの最上位に位置していたのではないか。

 自分が居なければ、漣さんは、万城目さんは、サークルの為に身を焦がすことはなかったのではないか。



「・・・そうかもしれません」


 ではもし、本当に、仮の話。


 自分が居なければ、凛さんはどうなっていたのだろう。


 あんな偶然まがいの出来事で助けてしまった小学生は、どうなってしまったのだろう。


 私が人を救うなんて、出来はしないと、そう思い込んでいる事実に楔を打ち込む出来事。到底、認めることが出来ない事実。


 分かっている、これを肯定したら、今向き合ってる彼を肯定出来ない。


 両方認めてしまったら、自己満足もいいところだ。分かっている。



「でも、だったらどうして。どうしてなんですか、弓弦さん」


 気づけば、涙が出ていた。嗚咽混じりに自分の声は、酷く他人の声なような気がして。



「ごんなもの寄越ずんでずか・・・?」


 くしゃくしゃになったソレ。彼が場所が書いてあると言った紙の資料。ポストに無造作に突っ込まれたA4の紙。



ただの()()()()()が書いてある、紙だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ