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それでも平凡は天才を愛せるか?  作者: 由比ヶ浜 在人
過章 誰にだって言いたくない過去がある
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 入学式から何日か過ぎた頃。

 僕は校庭を見ていた。ただひたすらに校庭だけを見つめていた。





 視界に入る高校の敷地面積の大部分を占める校庭は、サッカー部や野球部が我が物顔のように占拠しており、それを見つめる何人かの生徒が期待に胸を膨らませているように思えた。


 高校の入学式が終わって一週間と経っていない今は、新入生がどこの部活に入るかを手探りながら探している状況で、そんな新入生に少しでもアピールするかのように部員は声を張り上げる。


 新入生は同じ部活を見学している同級生に話しかけ、コミュニティをはやくも形成しているようだった。


 同じ新入生であるはずの自分は、そんな光景についていけそうになかった。


 話しかける勇気も、入りたい部活もなかった。


 ただ、高校入学しても間もない今の段階で、そそくさと家に帰ってしまえば、高校生活が上手く行っていないことを親に気づかれてしまいかねない。それはなんとなく嫌だった。


 無駄にコミュニケーションに長けている妹が、今の自分の姿をみたらどのように思うのか。それを考えることもただただ憂鬱で。


 だから、校舎から校庭へと続く階段に一人座り込み、校庭を見ていた。


 こんな灰色の青春。それを許容している自分。


 人と話すことがそれほど得意ではない自分だが、中学生時代は友達も多いとはいかないまでも何人かいた。ただ、その友達とはどうやって友達になったか、なんてことまでは覚えていなくて、高校のしょっぱなから躓いている。中学時代の友達は、全員違う高校へと行ってしまったのも影響している。


 だから、こう、サッカー部を見学している訳でもなく、野球部を見学している訳でもない自分はきっかけを待っていた。


 誰か話しかけてくれる人物がいないか、そんなちょっとした望みを。


 だが、そんなちょっとした望みが叶えられないまま、既に高校では何日か過ぎてしまっていて。そうなると、もう自然とコミュニティが出来ていたりして、ますます居場所がなくて、きっかけばかり求める自分がいる。


 解決方法なんてわかりきっているのだ、自分から話しかけにいけばいい。

 だけど、そんな勇気なんて持ち合わせていないわけで。


 こうやって、一人溜息をついているのだ。



「デカい溜息だな。辛気臭い」


 そんな溜息がきっかけになるとは思っていなかった。


 横に目を向ければ、一人の男子生徒が立っていた。


 僕は望んでいたきっかけが、こんな不意に訪れるとは思ってもいなく、咄嗟には声が出なかった。

 彼の威圧的な態度から、上級生かもしれないと考えたのもあるし、自分の性格の所為もあるかもしれない。



「あ、あの、すいません」

「んあ? 新入生だろ、敬語使うかフツー。おないだろ?」

「おない?」

「同い年の略だよ。察しろ」


 無理があった。それは無理があった。

 それでも、それが世界全ての常識であるかのように語る彼は、とても説得力に溢れていた。



「で?」

「で、とは?」

「辛気臭い溜息ついてた理由だっつーの。察しろ」


 唯我独尊。まるで会話の歩調を合わせる気がありません。そう言わんばかりの態度に僕は面食らった。

 初対面の人物にここまでグイグイ突っ込まれる経験をしたことがなかった僕は、なんとなく彼に苦手意識を覚えた。たしかに友達を作るきっかけを望んではいたのだが、これほど積極的な人物と僕の性格はどう考えてもあわない。


 気づけば、僕は会話を切り上げるために口を開いていた。



「別に、理由なんてないです」

「あっそ。俺も興味ねぇ」


 聞いてきたのはそっちだろう。

 急に素っ気ない態度をとった彼は、しかし、その口から言葉を続ける。



「大体、高校入学して、放課後一人。そして溜息だ。理由なんて一つしかねぇだろ。あれだろ? 友達欲しいんだろ?」


 分かった。こいつ、凄い嫌な奴だ。



「困ったことに、俺も全然友達出来ねぇ」


 でも、その言葉を嗤って言う彼は、自分でもどうかと思うほど眩しかった。



「なぁ、友達になろうぜ」


 まるで謳い文句のように、詐欺師か悪魔の如く顔を歪ませて言う彼と出会ったのはこれが最初。


 高校に入って、最初で最後の友達だった。




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