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はい、いいえ、で答えられる質問を5回のみ行える。その後、万城目さんのサークルを当てる。部屋は自由に見てもいい。スマホの使用は禁止。
ルールはそれだけだった。
万城目さんは、芸術的に組み上げた椅子の頂点で仁王立ちをしながらスマホ弄っている。その姿は余裕綽々といったもので、よほどの自信が伺えた。
そんな彼女を尻目に私は部屋を物色する。
部屋にあるのは、椅子、机、マット、バランスボール、そして、膨大な資料。
この時点で、このサークルはスポーツ関係のサークルではないこと。ボードゲームを行う類のサークルではないことに察しはつく。道具が必要なサークルなら、その道具がサークルの部屋にないというのは可笑しい。
道具を使わないサークル。使用するのは資料。紙媒体。
ならその資料を見ないことには始まらないと、重い腰を上げて資料の物色を始めた。
「嘘つきくんってさー、探偵っていうより泥棒って感じだよねー」
「どっちも柄じゃありませんよ」
何をどう思ったのか、彼女はそんな風に嘯いた。私はどちらにもなれる気もしないし、なる気もない。
「ふーん、似合ってると思うけどなー」
「どうでもいい話題で気を散らすおつもりですか?」
「私は暇なんだから話くらい付き合ってよー」
どこまで自由なんだこの人は。自分から勝負を吹っかけてきた癖に。既に飽きてきているのではないだろうか。
だが、そんな思考に埋没すれば彼女の思うツボである。
資料を手にして、目を通した。
「でもさー」
彼女が何か言っているが耳を貸す気はない。
資料の種類はさっと表題をみる限り、様々な言語で書かれており、内容までは把握できそうになかった。ただ、その中で一つだけ読み取れたものがある。といっても、これは別に私が博学という訳ではなく、ほとんどの人ならどこかしらで一度目にするものだったからであり、なんということはない。世界地図だった。
日本が中心に描かれていない、世界地図。中心にイギリスが描かれた世界地図。
その他のものは点で分からない。分からないがヒントを得ようとして、資料をパラパラと捲っていく。文字は読めなくても、挿絵、つまりは画像や、図表なら読み取れる。
「嘘つきくんは、きっと凄い詐欺師になれると思うよー」
資料を捲る指が止まった。
「なれませんよ」
捲って開いたままのページには戦時中の物と思われる写真。映画で見たことがあるような戦車と戦闘機がそこには映り込んでいた。
「大体、貴方が私にはポーカーなどは向いていないと言ってませんでしたか?」
「言ったよー。向いてないもん」
他の資料に目を移す。今度は歴史的建造物が掲載されている資料。カラーで掲載されている写真には、荘厳な佇まいの城が写っている。
「矛盾しているじゃないですか」
「矛盾なんてしてないよー。詐欺師に必要なのはポーカーじゃないしねー」
後に残った資料は、もはや資料と呼べるものではなかった。
ひたすらに厚い、本とも呼べないような代物は、何度も使われているためか、酷く汚れていた。そんな代物が肩を並べて6つほど。
「じゃあ何が必要なんですか?」
「心理学についての理解も必要なんだろうけどー」
その内の一つが日本語で書かれているものだった。やたらと薄い紙を破けないよう慎重に捲って、表紙通りのものだと認識する。一切挿絵も、画像もないそれは、一言で言うなら辞書だった。
「自分に嘘を吐けるってことが一番必要だと、私は思うなー」
マットの上に乱雑に置く。ドスンという音とともに砂埃が舞い上がった。
部屋の物色をこれで終了にした。これ以上何を調べる物もないし、読めない資料と睨めっこしてては日が暮れる。
それになにより、この人と一緒の空間にいるのは精神が汚染される。
「万城目さん、お待たせしました」
「んー、そこまでは待ってないけどもういいの?」
「はい、ここが何をやっているサークルなのかは大体」
「ふーん」
彼女は笑みを絶やさない。強がりではないのだろう。恐らく、私に勝てると心の中で決めつけている。
私も、これが正解である確証はない。
「じゃあ質問タイムにしよっかー」
「必要ありません」
だからこそ、質問はしない。
「ここが何のサークルか当てるために、質問は必要ありません」
今はまだ、質問はしない。
質問をする前に、サークルを当てる必要がある。
「答え合わせをしましょうか」
私は嗤った。