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それでも平凡は天才を愛せるか?  作者: 由比ヶ浜 在人
一章 ロリコン、金髪、時々ヤンデレ
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 二階建てのアパートに着いたときには、日はすっかり暮れていた。夕日が差し込むと、私の住んでいる二階建てのアパートは大きな影を道路上に映し出す。それがまるで立ち入るものを拒んでいるように思え、二階へと続く階段を昇る足は非常に重い。やっとの思いで着いた、右角にある自分の家の玄関を開くと、ドアノブがすこし甲高い音を立てる。間違いなく、昨日きた漆黒の髪の女性のせいだった。


 部屋に入ると、同時にパソコンをつける。どうしても、今日ラフィーさんから言われたことが気になったのだ。


 全く身に覚えのない女性の話題。そして噂。


 いい噂とは思えるはずがなかった。自分がどうあがいても、女性からいい噂を創出出来る自信はない。そして言えることは、逆に悪い噂をされる自信もないのだ。私のような存在は噂にもならない。


 立ち上がったパソコンで、検索をするため、キーボードを静かに叩く。


「堂島 美音」



ピンポーン



 間の抜けた音が広くない部屋に広がった。



 昨日に引き続き、来訪があるらしい。検索するのを一旦やめ、インターフォンを確認する。


 そこにいたのは、昨日の不自然なほど漆黒の髪の女性だった。彼女はインターフォンにあるカメラに向かって屈託のない笑顔を振りまいている。



 どうしたものか、少なくとも、昨日警察の方に連れていかれた彼女は、ここが彼氏の家ではないということは間違いなく知っているはずである。そこまで考えて思い浮かんだのは、昨日の謝罪で訪問しに来たという可能性である。それを無碍にするわけにもいかない。応対のボタンを私は押下した。



「はい」

『こーくん、どうして?』


 彼女の口から出た言葉は謝罪などではなく、質問だった。



『どうして私を遠ざけるの?』


 その声はどこか悲しそうであり、また、悲哀を誘うものであった。



「すみません、昨日も同じことを言ったと思うのですが、どちら様ですか?」


 私の声を聞いた彼女は、インターフォンの画面越しにも分かるほど、激怒していた。



『そっか、そういうこと言うんだね。もういいよ。明日にはもう、お別れだね』


 そう言って彼女は、インターフォンの画面から消えた。扉の前で足音がなり、その足音が次第に遠ざかっていくのが聞こえた。どうやら、帰っていったようだった。



 一体なんだったのだろうかと、私はずこずことパソコンがある机まで戻った。小さくファンが回っている音が聞こえるパソコンの画面には、堂島 美音の四文字。その下に予測変換で、可愛いやら、テレビやら、彼氏やら、熱愛と続く。私はネットに誘われるまま、彼女のブログへと辿りついた。見ているとどうやら、彼女は今をときめく、アイドルだということ、そして人気があるということが分かる。


 可愛くデコレーションされているページには、ピンク色の髪をしたショートボブの女性の写真が貼られ、加えて人物紹介、所謂プロフィールが掲載されていた。





堂島 美音(20)

所属 ミリオン事務所 鷹閃大学文学部

出身 福岡

誕生日 5月5日



 そこを視認して、気づく。


「・・・同じ大学」


 様々な分野で秀でた鷹閃大学に芸能人がいることははっきり言って珍しくない、らしい。というのも、私は受験勉強を始めた際に、テレビを見なくなり、大学に入ってからは家に帰ってからも講義の復習を行う習慣がつき、ついにはテレビに触れることすらなくなってしまっている。そちらの方面はどうしても疎い。


 同じ大学にアイドルがいる。全く関わりあいのない人物だ。それでもラフィーさんはこの人の名前を挙げた。


 マウスを動かしながら、彼女のブログを確認していく。



4月5日

今日は入学式でしたよー!

今までいろんな人に支えられてここまで成長しました(笑)

少しでも、恩返し出来たらいいな、なんて。

入学式、来てくれた後輩たちもありがとう!これからも一緒に頑張っていこうね!



4月15日

最近、スケジュールがいっぱいで考えることもいっぱい!

偶には普通の女子大生に戻りたい! でも楽しまなきゃね!人生楽しまなソンソン、なんて(笑)


4月21日

後輩と少し揉めちゃった・・・(泣)

人生の変わり目でもある今だから、ほんとむずい!

上手くいかないときはスイーツだよ!これ鉄板!



5月10日

久しぶりの更新っす(汗)

GWの前と後ろ、仕事だらけで忙しかったよ!

今日は自室でアロマを! ゆったりとした気持ちで更新です!

次は絶対、早く更新するぞー!


5月28日

はい、どうも嘘つきです(笑)

最近、全然上手くいってなくてメンタル激やばです(汗)

恋でもしたいなぁ←アイドル


6月6日

運命的!運命的な出会いをしました!

こんなことアイドルがブログで書いちゃっていいのか分からないけど、この気持ちが抑えきれない!

どこから言えばいいんだろう・・・。

今日、電車に乗ってたら痴漢された話は避けて通れないかな。それ自体は凄くショックな出来事なんだけどね。

でもでも!颯爽と現れて助けてくれた人がいたの!しかも話を聞いたら同じ大学だって!

これは運命的としか言いようがない!

多分、恋かも、なんてね。


6月7日

昨日のブログに一杯コメント頂きました、ありがとうございます。

私はアイドルだし、そういうのはよくないって言ってくれた人、そして、それは運命だよって後押ししてくれる人が居てくれたこと、本当に感謝です!

色んな意見をもらったけど、一旦その人に会って、御礼は言いたいと思います!

社会人なので(笑)


6月13日

11日のブログがいろんなところで取りあげられていてビックリです。

どっからか映画化しようなんて声も出ているみたいで。いや、その人にまだ話かけてすらいないのにね。どうしても尻込みしちゃって。


6月14日

勇気をだしたのに、それだけだったのに。明日は久しぶりに大学に行くけど、ちょっと憂鬱。






 そのブログの更新は昨日で終わっていた。


 読み終わった瞬間、嫌な汗が体を這いつくばる。


最近一緒にいるのを見かける。堂島 美音。

漆黒の髪の女性、ピンク髪のアイドル。明日。

運命的な出会い、御剣さん、痴漢。6月11日。



 そして、何もかも上手くいってない。普通の女子大生に戻りたい。




 弾けるように体が動いた。洋服を詰め込んでるケースをひっくり返すと、そこには札束があった。二百万。その札束が自身の重みで少し撓む。それを零さないように、しっかりと両手で握りしめる。これは間違いなく生命線になる。行動を起こすなら今から起こすしかない。



 札束を見つめる、いつか叩き返そうと思っていたが、そんなこと言ってる場合じゃなくなった。使うしかない。文字通り生命線なのだから。



 最悪、死ぬ。



 このままだと、私は間違いなく殺される。



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