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それでも平凡は天才を愛せるか?  作者: 由比ヶ浜 在人
四章 裁かれ、嘘は砂に、優しさは霧に
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「答え合わせってなんなの!?」


 喚く彼女は、分からない理不尽を嘆く、受験生のようで。しかし、実は答えに辿りつくために深読みをしすぎてしまった、現代文の答案のようだった。



()()()()()()


 堂島さんは、自身が持っていたカードを万城目さんに見せつける。



 書かれている表記は、○だった。



「私が電車で来たのも本当だし、移動時間も、移動距離も嘘はついてないわ」


 そう、彼女が吐いた嘘はただ一つ。



「誰がこんなむっさい男どもと一緒に電車乗んのよ」


 その言葉はちょっとあんまりだと思った。思ったが、口にはしない、私だって命は惜しいのだ。



「そんな! だって君!表情も手つきも!?」

「なんか心を読むのが上手いとか言ってたけどさ」


 堂島さんはニヒルに笑う、一番清々しい笑顔だったかもしれない。



「芸能人なめんなよ、餓鬼が」


 私たちが対策を練るためにやったことは、状況確認だった。まず、結託がバレている。これは間違いない。私だって、この状況下で連番で並んでいる人たちを運がいい、なんて考えはしない。問題は、誰にカードが行ったか、分かられているかどうかだった。それに対して、私はバレてないと思いますと、二人にカッコよく言ったのだが、二人はバレていると断言し、多数意見が押し通り、バレている前提で対策を練ることにした。対策を練っていくにつれて、どうしても役目として必要になったのが、嘘つきを演じる人だ。しかも、嘘を誤魔化そうとする嘘つきを。


 この役目はそもそも、彼女しか出来はしなかった。彼女は私の前だけでも、様々な役者だった。初めて会った時、そして、ファミレスでの一件、加えて言うなら、今日のブースでの出来事もそうなるのかもしれない。



 三人で集まった時、彼女には嘘つきを演じてほしいと言っただけ。それは、少し会話しただけでも、全てを見抜くような万城目さんには、私では到底無理だと思ったし、御剣さんは堂島さんを推した。私が演じてなどいたら、大根役者もいいところである。



 万城目さんは、未だ信じられないように、堂島さんが掲げたカードを凝視する。



 そんな彼女は、言葉を一つ漏らす。



「嘘つきくん、君が考えたの?」


 それは、真面目に答えなければいけない質問だと思った。ふざけて返すのは、落ち込む彼女に対して失礼だ。



「私が考えました。はっきり言います、これは貴方が、こちらが出来る全ての対策を読み切ってくれることを()()()作ったフェイクです」


 だから私自身、嘘をつかなかった。


 初対面で人の心をズバズバ言い当てる彼女と、正面向かって騙し合いなんてしたくなかった。もし、その選択をしたら、私はきっと負けていた。



「なんでそこまで私を?」

「貴方の能力は誰とも結託せず、この場に残り続けていることが証明しています」


 これは言うなら、結託ありきのゲームだ。結託しなければ、生存率は格段に下がる。



「結託自体も逆手にとったんだね?」

「凄いですね、そこまで分かりますか」

「君は、酷い嘘つきだね」

「そうかもしれませんね」

「付き合ったこともない癖に」

「それも嘘かもしれませんよ」

「いや、それはねぇ」


 横から茶々が入る。御剣さんは嗤っていた。


 万城目さんは諦めにも似た気持ちで、深く息を吐く。



「やられちゃった。私の敗けだねー」


 気の抜けたように語る彼女は、皮肉なくらい様になっていた。



「まぁ、楽しかったよー。エキシビジョンマッチ、頑張ってねー」


 彼女はそう言って、円卓から離れていった。



「次はサシでやろーね、嘘つきくん」


 その提案には、私は応えない。サシでやったら、瞬殺されるだろうから。願わくば、あの真っ赤な双眸がこちらに向かないことを祈るばかりだった。







 ゲームマスターは、ただ眺めていた。この光景を。ただ、一頻り終わったというところで、こちらを向き話し始める。



「お前が残ったか」


 それは、規定路線が終わったことを告げていた。ゲームマスターは、私の目の前までやってきて、マイクを使わず、話した。



「・・・それはどういった意味ですか?」

「意味などない、ただ、ここからはただの漣として、お前を測ろう」


 先程までと、雰囲気が違っている。漣さんは、それでも悠然と立ちふさがった。マイクを通し、彼は発声する。



「エキシビジョンマッチは“ウミガメのスープ”だ、分かるか?」


 それは、観客に対してではなく、私に対して行われた質問だった。観客の方面を見れば、手元にパンフレットのようなものが配られている。恐らく、そこに概要が書いてあるのだろう。



「一応、知ってます」


 ウミガメのスープ。水平思考パズルともいわれる。出題者が突拍子もない質問を出す。その謎を解くために、出題者に対して、はい、もしくは、いいえで答えられる質問をし、出題者がそれに答え、最終的に問題の真相へと迫るものだ。


 これに代表されるのが、ウミガメのスープ。


 男がレストランで、ウミガメのスープを注文した。一口それを口にした男はウエイターを呼び、「これは確かにウミガメのスープかね」と聞いた。ウエイターは「さようでございます」と答えた。その夜、男は自殺した。なぜか?


 といった内容の出題に、参加者が、現実で起こった出来事か、など真相に近づく為に出題者に質問をする。それに対して出題者がはい、もしくは、いいえで回答。その都度、状況把握をしつつ、真相に迫る質問を繰り返していく。最終的に、真相へ至れば参加者の勝ちだ。



「それでは、エキシビジョンマッチ。出題」


 それは矢継ぎ早に、マイクを通して宣誓された。観客が一斉にこちらを見据える。彼が吐き出したのは、暴力だった。






「“田舎のとある高校で一人の生徒がいじめにあっていた。いじめ自体は解消されたが、いじめにあっていた生徒は転校せざるをえなかった、何故か?”」






 頭を殴られたかのようだった。



 それは酷く聞き覚えのある出来事で、私が何度も何度も悔やんで、それでも悔やみきれない出来事で。

私が、敬語しか使えなくなった理由。人と接するのに壁を作り始めた理由。



 高校一年最後の出来事だった。



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