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「話題、“今日何に乗ってここまで来た?”」
解答が始まった。さぁ、仕掛けていこう。
「「「電車」」」
私たち三人は、返答が書かれた紙を見せつけ声を揃えて言った。もう結託を誤魔化す必要は一切ない。私たちから万城目さんに向けての宣戦布告だ。
「そっかー、そういうことしてくるんだー」
万城目さんは、酷く愉快そうに顔を歪めた。この話題に関する解答は、追加されたルール、○のカードの所持者は一回嘘をつける、というのでも介入できない。つまりは、二人が本当のことを言っていて、一人が嘘をついている、このパターンは変わらない。
「私はねー、自転車できたよー」
万城目さんは、紙を掲げ、頬を膨らませた後、語る。
「ていうか、これ私いう意味ある?」
なんて言っておどける。実質この後の質問に対する彼女の解答も意味はない。彼女が○なのは、こちら全員が把握している。それでも、この大舞台を前にして、あけすけにものを言う彼女は、はっきり言って異常だ。
「質問、“何分かかった?”。追加質問“移動距離は?”」
ゲームマスターは異常を介さず、進行に努める。ここで○が吐ける嘘は一つだけ。逆に言えば、×は一つも嘘を吐くことは出来ない。よって、ここでの○の役目は、×の真実を徹底的に隠すことだ。
御剣さんが解答する。
「時間は25分くらいだな。移動距離は、約10km」
続いて私が解答する。
「時間は私も25分ほど。移動距離は20kmです」
次は堂島さん。
「時間は1時間ね、移動距離は44km。この二人と一緒に来たわ」
次の解答者は、万城目さんだが、彼女は頭を捻って唸ってる。
「うーん、そっかー。今の質問は、一人が全部真実でー、二人が何かしら嘘を吐いてるってわけだねー」
そこまで口にして、彼女はふっと笑い、思い出したかのように続ける。
「あぁ、ゴメンゴメン。私は時間15分くらいかなー、移動距離も多分2kmとかそんなもんだよー」
意味のない問答でも、彼女はしっかりと役割を果たす。
さて、私たちに出来ることは全てやった。ここからはもう、万城目さんがどのように判断するかで決まる。
「うーん、ぶっちゃけるとね。推理とか私は苦手なんだよー。でも、人の表情とか、心の動きっていうのには凄い敏感でねー、だから、カード配られた時の反応で、もう答えわかってるんだー」
彼女は、まっすぐこちらを見る。嘘つきと、そう呼ぶ私の方向を。
「言ったでしょー、ポーカーとかやっちゃダメだよって」
かかった。
「私を誤認させるならもっと頑張らないとねー」
私たちの勝ちだ。
「チェンジングしたでしょー」
空気が凍った。
今まで確信していた勝利が遠のいていく、その気配が伝わってくる。そこまで、そこまでバレるのか、分かるのか。この人は一体、どこまで。
「もとは嘘つきくんが持ってたカードを、他の人と交換したね。ルールでもそこに規定はなかったし、嘘つきを生かす為、そう考えると私にとっては最善手だよ。最初は嘘つきくんがカードを持っていたのは確定、でも、それはバレてるって分かってたんだよね。だからこそ、嘘つきくんは囮。じゃあ、他の二人のうち、どっちかが本来持ってたカードをすり替えたことになるね、そう考えたら、一番、真実っぽいのは誰かな?」
万城目さんは、言いながら見つめるのは、御剣さん。
「三人で分も距離も近いのは、嘘つきくんと32番の彼。当然だね、嘘つきを護るなら、真実を隠すためにも、その方がいいもん」
だが、万城目さんの視線は安定しない。また、槍のように鋭い視線が移動し、その矛先は私に固定される。
「そう思わせたかったんだよねー」
その瞳は、深淵を覗いているかのようだった。真っ赤な瞳は、全てを貫く。
「実は二人と一緒に来た、なんて言って、如何にも嘘っぽい真実を言って誤魔化した人が一番悪い嘘つきだよー」
タハハ、とどこか力が抜けたように笑う彼女は、悪魔のようだった。
私は思いだす。提案の内容を。私はお米、御剣さんは刺激、堂島さんは勝利。
勝たせるのは堂島さんしかいなかった。
「嘘つきは、34番の彼女だよねー」
深淵が迫っていた。
「そこまで、では、指摘に入る」
これで終わりか、終わったのか。
「32番、指摘、42番」
「ん?なにそれ?」
本当にそうだろうか、まだやれることはあるんじゃないのか。
「33番、指摘、42番」
「! どうして!? もう嘘が露見したのなら、嘘つきを指名しないと生き残れないのに!? なんで私を指摘するの!?」
それでも、時は待ってはくれない。止まってはくれない。
「34番、指摘、32番」
「ちょっとまってよ!! 可笑しいよこんなの!?」
「42番、指摘、34番」
「指摘なしが33番!?」
こちらを見る万城目さんは、深淵を覗く。しかし、覗いたはずの深淵はさほど深くなんてないのだ。
もう時は戻らないんですよ、万城目さん。
「答え合わせを、しましょうか」