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『てか、ちょっと待って。あたしはじゃあ何するのよ』
一連の流れを説明した後に、思わず堂島さんが呟いた一言だった。
『一番大切な事をお願いしたいと思っています』
『って言ったって、あんたの策が上手くいけばあたしいらないじゃない。相手を煽って、それこそ物が飛んでくるような始末まで煽り倒して、特定した嘘つきカードをペットボトルのラベルに仕込んで、カードのチェンジングでしょ? 大事なことは全部終わってる』
『えぇ、大事なことは全部終わってます。煽り倒すのは御剣さん以外の適任を私はしりませんし、サークルに潜り込んでのカードのチェンジングは、今までこっちに接点なかった白銀さんしか出来ません。私と敵対していた事実は、教授も知っているでしょうし、だからこそ入りやすい。一万人っていう規模なら尚更、埋もれやすいでしょう。しかも、敵対した理由が、彼個人のもので、サークルとは一切関係ないという点も加味すれば、これ以上の人選はないと思います』
『じゃあ、あたしは何で呼ばれたのよ』
『大事なことは終わっても、大切なことはこれからなんです。万城目さんにお願いしたこともそれの伏線です』
万城目さんにお願いしたことは、ラフィーさんだけを信じ込ませること。いや、万城目さんにお願いしたことだけでなく、私が三人にお願いしたことは、本当はこの後の伏線だ。
本当の主役は、彼女に他ならない。
『ゲームをしてあげてください、ラフィーさんと。全力で』
決着をつけるのに、野暮な連中を引き払っただけ。私が残るのもゲームの性質上、最終場面には三人の人物が必要なだけだからだ。
『それがきっと、』
言葉は続かなかった。堂島さんの声が私の声を押しとどめた。
『ごめん、ありがとね』
強い力を持った言葉だった。
◆
静寂だった。
体育館のエアコンの音だけが木霊する。
一番先に動いたのは、今回の嘘つき、万城目さんだった
「じゃあ、わたしは一足先に会場出てるねー」
万城目さんは、フワッとした足取りで体育館の入り口に向かう。
「万城目さん、その、ありがとうございました」
一番複雑な想いを抱えていたかもしれない彼女に私は、そんなありきたりな言葉しかかけられない。
それでも万城目さんは、どこか吹っ切れたような顔でいつもの調子を外すことなく、私に言う。
「うん、いいよー。白銀くんと合流して待ってる」
「白銀さんにも」
「わかってるよー、伝えておくねー」
万城目さんは、一旦立ち止まる。そして、振り返り拳を突き出して言うのだ。
「後は、ガンバ、だよ」
「はい」
その少しだけ幼い仕草に、私はどうしようもなく感謝した。
四番を指摘したのは、私と堂島さん。
そして、
五番のラフィーさんだけだった。
万城目さんは、私のお願いしたことを完遂し、この場を作りあげてくれた。
もう、策などない。
堂島さんとの結託もここまで、ということで話はついていた。
ここからが、本当に純粋なゲームだった。
この場に辿り着くのにどれほどかかったのだろう。全ては6月に始まり、そして大学一年の終わりかけという時期まで進行した。であるのならば、この一年間を通して、そこまでの遠回りしてまで、私が、私たちがやろうとしたこと、得ようとしたものは一体なんだったんだ。
言語化しようのないその問題を私は、堂島さんにこの場で託した。
「シェルト、答え合わせをしよ」
堂島さんがやってきたことは、友達の想いに気づくことが出来なかった無意味なものだったのか。
ラフィーさんがやってきたことは、友達を守ろうとして傷つけるだけの無意味なものだったのか。
なら、それに巻き込まれた私は、彼女たちにどのように解答すべきか。
「受けてたちます」
ラフィーさんは、小さく返す。泣きそうな顔で、小さく返す。
これは、答え合わせだ。
私たち一年間の答え合わせだ。